事の起こり
気晴らしに思い立った内容を書いてみました。
短くまとめてるので、さくっと読んでくださればと思います。
朝の無人の校庭が好き。朝陽が射し込む静かな廊下が好き。
いつも通りの朝。いつもの通りの日常。2年E組……東側校舎の3階、正面玄関からもっとも遠い場所。
――そこが私のクラス……。
胸いっぱいに空気を吸い込みながら、無人の廊下をいく――この瞬間がすごく好きだ。
教室に着くまでの数分間、この瞬間を独占している幸福感を噛みしめるようにゆっくりと歩く。
でも、まだ……これは前菜。メインディッシュはこの先にある……。
教室の前に着く。今日まだ誰も触れてないであろう引き戸に手をかける。
ひんやりとした感触が心地いい。指先に余韻を残したまま、横へとゆっくり戸を引いていく。
古く建て付けの悪い戸は、年季の入った音をたてる。
締め切られた教室。それを開け放つ開放感に私の心は浮き立つ。
『この瞬間の為だけに早起きをしているようなものだ』と、言いっきてしまってもいいぐらいだ。
――誰かがいた……。
開け放った教室。開放感に浸ろうと、一歩足を踏み入れ気が付いた。
教壇から見て、一番後方の窓際。一生席替えなど起きるなと呪いに近い願をかけているお気に入りの場所。
よりによって、私の席の机の上にそいつは腰を降ろしていた。
ゆっくりと遠巻きに近づいていく。後ろ姿をさらしたまま、そいつはピクリとも動かない。着ている制服から男子なのはすぐに分かった。
(誰だろ……?)
同じ学年にいたかな?と、記憶を辿っても思いあたらない。当然、同じクラスではない。
「あなた……誰?」
「君こそ……誰?」
即答だった。ムッとしたが、言わんとする所は分からぬでもない。
相変わらず背中を向けたそいつは、窓を通して外の景色を眺めるのみだ。
「わたしは、相合谷 倫よ……あなたは?」
「……君は怒ってるね?」
「えっ……」
相手の意外な返しに、言葉に詰まってしまった。私が名乗った時の人の反応は「変わった名字だね」だからだ。
おかげで、初対面の人間との会話で困ったことは今まで一度もない。
「君は、引き戸に手をかけた時……教室内に誰もいないと確信をもっていた……」
「……」
「……だけど、僕がいた。だから君は機嫌が悪い……違ってる?」
違わない。だけど、それを口にだして、認めてやるつもりはなかった。
「そこ……あなたが座ってる場所、わたしの席なんだけど」
「あぁ……それは失礼したね」
そいつは、立ちあがると、やっとわたしの方へと顔を向けた。
身長は180ぐらいかな?端正な顔だちに一瞬ドキッとさせられて、ますます私のボルテージは上昇していく。
「で……あなたの、な・ま・えは何!?」
そいつの胸元にひとさし指突きつけて――やりすぎかな――一瞬、そんな事を考えた瞬間……。
「じゃあ……僕と賭けをしよう」
身構える間もなかった。間近に踏み込まれたと思った時には、目を覆い隠すようにそいつの手があてがわれてた。
「……なに……するの……声だすよ」
「この手を僕がどけた時……僕は君の前に存在しているかどうか?」
人の話も空気も読まない奴だ。
「……なに、訳わかんない事言ってるの?」
「君が勝ったら、僕は名乗る。君が負けた時は、君は僕の望みをひとつ叶える……僕は存在しているのか、いないのか……どっち?」
居るに決まってるじゃない。大体、賭けに乗った覚えも乗ってやろうとも思わない。
「くだらない事を言ってないで……」
そいつの腕を掴み、顔から引きはがす。ビンタの一発でもかましてやろうと思ったんだけど……。
「えっ……うそ……」
影も形もない。目の辺りにそいつの手の感触は残ってる。腕を掴んでいた感触もまた、手にしっかり残ってる。
狐につままれた気分だった。そいつの姿は綺麗サッパリ教室から消えていた。
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
タイトルの、シュレディンガーと内容が一致してるかが、非常に不安でなりません。