第八話「少年」
「……起きてよ、にーちゃんったら。ね、起きて!」
あれ、にーちゃんって、確か僕、兄弟いないはずだけど? 僕は、ゆっくりと目を開いた。
あっ、と驚く僕の目の前にいたのは、見たことのない少年だった。暗いせいで、彼のディテールは分からないが、小学生よりは大きく見えた。
「あ、起きた起きた。にーちゃん、何でここにいるの?」
「えっ、何で……かなぁ?」僕は首をひねった。
「そうなの? マツもわかんないんだよね」
「マツ?」
「うん、僕、マツだよ。にーちゃんは?」
「僕は竹秋。ここはどこ?」
「えっと、にーちゃんが寝てたから連れてきた」
「いや、違う、どこか聞いてるんだけど」
「わかんない」
「あ、あれ、てか、女の子見なかった?僕の隣に寝てたんだけど……」
「え、女の子と寝たの?!」
「いや、そういう意味じゃない。でも、誰かいなかった?」
「んーにーちゃんしか見えなかった」
「そう……か……」
どうしよう。小竹と離ればなれになったら、おしまいなんじゃないか。先ほどのトランプが言っていたことを思い出した。ある者を撤去するにはある程度その者に近寄らなければならない。しかし近寄り過ぎたトランプは消えてしまう。でも、今の状態ではトランプは消えない。なぜなら、僕は今一人だ。ならば、僕はなるべくトランプから遠ざからなければならないことになる。
マツといった少年は一体ここで何をしているのだろう。どこかもわかっていなさそうだし……何より、信用があまり無さそうで、物分りも悪そうなのが僕は心配で堪らなかった。
「じゃ、その女の子探す?」
「えっ」
「にーちゃんの彼女探そう」
「彼女じゃないんだけど……どっちから来たんだい?」
「んー確かこっち……あ、あれ、多分あっち。あっちだ」
マツの情報は不確かでとても信用しきれなかったが、寝ていた僕よりは合っている確率が高い気がしたので、僕はマツについて行くことにした。――小竹が見つかることを信じて――