第六話「ガラスの手」
やわらかい、手の感触が伝わってくる。竹秋だろうか。私は、その暖かさに思わず笑みを漏らした。そして、その何だか懐かしいようで柔らかい手を、ぎゅっと、握り返した。その瞬間、何かが私の中でずきっと痛んだ。まるで、今まで暖かく柔らかかった竹秋の手が、ガラスのように冷たく尖ったものになり、私の手と心に突き刺さってきたようだった。
そう、何か、駄目だったように。私が、竹秋の手を握り返しては、いけなかったのだろうか。……そんなちっぽけなことだろうか?それに、私はあの時――二人が廊下の角で逢った時――からほとんど運命の成すがままだった。
ならば、二人は出会っては、いけなかったのか? いや、それ以前に、私と竹秋は、生まれてきてはいけなかったのではないだろうか。尖った冷たいガラスは、そんなことを私に物語っているようだった。
ぱっ、と泡が弾けたように私は眠りから覚めた。大きく伸びをして、隣を見る。いない。
「竹秋?」
呼んでも、暗闇に音が吸い込まれるだけで、こだまさえ聞こえない。試しに、左手を握ってみた。手の中には、何もなかった。ただ、激しい痛みだけが返事をした。