第三話「暗闇」
どれだけ、時間が経ったのかは分からない。ただ真っ暗で、しんとしていて、何も無い空間に私はいる。唯一例えられる対象はと言えば、ビッグバン前の宇宙。私はそこに寝ていた。
また数分程待った。いや、数時間かもしれない。アナログの腕時計も光がなければ見ように見れないので、時間の感覚は掴めなかった。すると、暗い中で遠くに白い点が見えた。その光はゆっくりと、しかし確実に私に近付いている。死の迎えが来たのだろうか。そう思った時、顔が見えた。竹秋だ。でも、どうして竹秋がここにいるのだろう。きっとこれは幻だ。しかしその幻は言った。
「小竹……? なんでここにいるの」
声を聴いた瞬間、私は本物の竹秋だと気付いた。
「竹秋! 私も分からないの。トランプを触ったら何故かここにいて……」
「僕もだよ」
話を聞くと、竹秋も私と同じようにトランプが黒く見えて、カードを受け取ってからの記憶が無かったようだった。竹秋はたまたまズボンのポケットに入っていた小さな懐中電灯に頼りながらまっすぐ歩くと私が居たようだった。
竹秋は隣に座った。そして、何かを待っているかのように私たちは動かなかった。しばらくの間、二人、何も話さずに。
「でも……僕ら何でここにいるんだろう」ふと思い出したかのように、竹秋は呟いた。
「分かんないけど……四次元とかかな……」
こんな未知で暗い場所、私達が普段生きている次元とはかけ離れていたのだ。
「何でここにいるのか知りたいのか。いい度胸だ」
竹秋ではない、何者かが応えた。
実際にその場にいないと非常に分かりにくいが、この声は虫の鳴き声のようにか細く、ねずみの声のようにうんざりする聞きなれない声だった。