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世界という理不尽な箱の中で  作者: あるふ
第1章 真実と覚醒
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第8話 終日

 部屋に戻ると、目に入ったのは、まるで子供のように興味津津といった様子で、椅子に座ってテレビを見ている玲羅の姿だった。何の番組を見ているのか気になって、テレビの画面に視線を移すと、映っていたのはニュース番組だった。何処かで事故があったということや、スポーツの結果など、ありふれた内容をキャスターが喋っていた。特に面白い内容ではないことを不思議に思っていると

「戻ったか」

こちらを見もせずに声を掛けてきた。その素っ気ない言葉は、「もういいのか?」と言外に告げていた。「あぁ」とだけ、返してベッドに腰を下ろす。玲羅が未来からきていたことを思い出し、この時代の事柄は珍しいのだろうとあたりをつける。

(意識してないと未来からきているってこと忘れちまうぐらい、普通なんだよな)

「それにしても興味深いな。よくこんなもので、テレビとして機能するものだ」

(興味深いのはニュースじゃなく、テレビ本体か。確かにこの時代のものは、玲羅からしたら歴史上の遺産みたいなものなんだろうが、こんなものとはひどいな)

さっきのは独り言だったらしく、時折考え込むようなしぐさをしながら一人で喋っている。まるでテレビと会話しているようだ。

「おまえも風呂入ってきたらどうだ?」

こいつ相手ならデリカシーとか気にしなくていいのは助かる。

 「そうだな」とこちらを向いて返事をすると、立ち上がり風呂のほうへと向かう玲羅。バスタオルを用意して、着替えについて考える。持っている可能性やアーマーに着替える可能性もあったが、最悪の場合を想定して準備しておく。とりあえずTシャツとジーパンでいいだろう。下着については無視することにした。どのみち俺に準備は不可能だ。バスタオルと着替えを持ってバスルームに向おうとしたとき、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「渦閃、壊れているようなのだが」

一瞬何を言っているのか分からなかった。「何が?」という考えが浮かんだが、それよりも嫌な予感の方が大きかった。だってそうだろ、さっきまで俺が普通に使用していた風呂が壊れた、そんなこと普通なら(・・・・)ありえない。俺がバスルームの扉を開くのと同時に、風呂場のドアもがらがらと音を立てて開かれる。そこにいるのは、当然全裸の玲羅。

一瞬の沈黙。

本日何度目かの呆然となった俺を気にせず、堂々とした姿で身体を隠そうとしないまま、何事もなかったかのように玲羅は言葉を発した。

「どうやら壊れているようだ。さっきから何度シャワーと言っても全く反応しないのだ」

 言っている意味が分からん。

考えられるレベルまで意識を取り戻した俺は180度向きを変え、何を言っているのか詳しく聞こうとしたが。

「音声センサーにでも問題があるのだろう。聞いているのか?」

バカなのかこいつは。話から察するに、声に反応してシャワーが出るとでも思っているのだろう。そんなに技術進んでねぇよ。テレビの状態から予想できただろ。

「音声センサーなんてねぇんだよ。下の方にある蛇口をひねってみろ」

頭痛がする。

「むっ、こうか。おぉ、出たぞ」

「あとはHとCって書いてあるハンドル回して温度調節な。Hって方に回せば温度が上がって、Cって方に回せば温度が下がる」

「なるほど。わかった」

「じゃあ、さっさと風呂場のドア閉めろ」

でないとバスタオルと着替えおいて、出ていけないだろ。

「すまなかったな」

がらがらとドアが閉められた音を聞いて、ほっと息を吐き出し振り返る。

「タオルと着替えここに置いておくから。着替えは持ってなかったら使ってくれ」

「ありがとう」

お礼の言葉を受け取り、バスルームを出て部屋に戻る。

 一人になったことだし、とりあえずこれからについて考える。まずは、学校だ。正直なところ学校は休みの方が、都合がいい。だが生憎、今日は5月8日の火曜日、つまりGWは終わり週が明けたばかりでしばらく休日はない。そうなると、サボるってことになるが、一週間もサボるのはさすがにいろいろとまずい。仕方がないから、玲羅を放置して俺一人で学校へ行く、というのが妥当なところか。玲羅も、四六時中一緒に居る必要はないということは認めていたし、あの狼野郎が現れるのも夜ということ、から問題はないだろう。玲羅の常識外れの行動以外は。

 次に生活する場所だな。この部屋に戻ってきてしまったが、冷静に考えればこの状況は良くない。狼野郎が襲ってくると分かっているなら、出来るだけ被害が出ないように1週間は寮で生活するのは避けるべきだろう。まあ、これに関しては例の廃ビルで事足りるだろう。

 現状で他に考慮すべきことは、あの狼野郎が一体誰なのかってことか。俺に執着してる、ね。恨みをかうようなことをたくさんしてきただけに全く見当がつかないな。にしても理由が薄い気がするっていうのは、素人の意見なのか、それとも俺がまだ現実逃避したいだけなのか。あの場では聞き流したが、俺をずっと見ていたから俺に何らかの関わりがある。それは安直なような気もするが、戦闘中ということを考えれば、その行為は確かに異常で何かあると思うべきか。仮に俺に執着していたとしても、相手の見当はつきそうにない以上、今はこれ以上考えるのは無駄か。さっさと1週間分の荷物をまとめて、玲羅がバスルームから出てき次第、この部屋を出ることを伝えるか。説得は・・・必要無いだろ、あいつの目的は俺の見張りだからな。


 荷物をまとめて終わり、テレビでも見て待っていようかと考えた時、

「ふぅ、いつの時代もやはり風呂というのはいいものだな」

といって、俺が用意したTシャツとジーパンの姿で玲羅が戻ってきた。濡れた黒髪や上気した頬といった、今までの凛とした姿とは全く違ういろっぽい姿にドキリとしてしまう。

「そうか。で、いきなりだが今すぐにここを出る」

椅子に座りリラックスした様子の玲羅に告げる。

「どうかしたのか?」

首をかしげ訪ねてくる。

「昨日のディザイアーが俺を狙っている可能性がある以上、ここに居ればここが戦場になる。だから、昼間の廃ビルに移動する」

「そうか。出来るだけ他の人間を巻き込みたくないという訳だな。私としてもその考えに賛成だ。だが、そう焦ることもないだろう」

「どういうことだ?」

別に他人のためじゃないという否定と、まだ何か隠していたのか。そういった気持ちから、声に少し苛立ちが混ざってしまった。

「昨日の戦闘で、奴はかなりの傷を負っている。そして奴の能力に超再生はなかった。ゆえに【欲望に取り憑かれたもの】としての治癒能力だけでは完治まで3日はかかるだろう。だから早くて明後日の夜に襲ってくることになる」

玲羅は俺の態度を気にすることなく冷静に説明する。

「つまりは、明後日の夜までにここを離れていれば大丈夫だと」

「そういうことだ」

 じゃあ、なんでおまえ今日ついてきたんだよ。2日間は見張る必要ねぇだろ。と文句を言いたくなったが、さっきの話はあくまでケガが完治してから襲ってくる前提だ。万が一ということだろう。玲羅が俺に張り付いていることについては納得し、今すぐここを離れる必要がないということについての疑問は追求する。

「だが、それはあいつがケガを完治させてから襲ってくる前提の話だろ」

「そうだ。しかし、仮に奴がケガを完治させずにやってきたのなら、騒ぎになる前に終わらせる。それだけのことだ。だから心配する必要はない」

確かに昨日の状況を見た限り、玲羅の方が圧倒的に強い。ケガをしている相手ならば、騒ぎになる前に終わらせることも可能なのかもしれない、いや実際に可能なのだろう。自信に満ちた態度が物語っている。ならなぜ

「どうして、そんなケガした相手に逃げられたんだ?」

「すまない。それについては完全に私の失態だ」

「説明になってない」

玲羅のミスが原因だろうと、どうして逃げられたのか、がわからない。

「奴の、自分の影から分身を生み出す能力に不意を突かれた。相手の能力が分からない以上もっと警戒しておくべきだった」

影から分身を生み出す?肉体変化が能力じゃなかったのか。

「能力ってのは一人で何個も持てるものなのか?」

「そういえば、まだ説明していなかったな。ウイルスによってひとつの異能が発現する。例えば今回の場合は、肉体が狼のように変化することだ」

やっぱりひとつなのか?それだとさっきの話はなんだ。

「だが、それは異能の外枠のようなもので、異能の本質的能力、まあ中身だな。これを理解することで、その能力を得ることができる。今回の場合で言うと、狼としての集団で獲物を狩るといった習性からくる、分身体の創造による集団性いうことだろう」

「つまりは、肉体変化だけでなく。狼の特性から、何らかの異能をいくつか引き出せるって認識で良いのか?」

狼の中には集団で行動しない種類もいるという、どうでもいい考えがよぎるが黙っておく。

「大体はその認識でいい」

「じゃあ、まだ何か隠し持っている可能性もあるんじゃないのか?」

そうなると、騒ぎになる前に終わらせることは難しくなるのではないだろうか。いや、それ以前に治癒能力を手に入れる可能性を考えれば、3日という猶予自体も怪しくなる。

「あるかもしれないが、その可能性は低い。昨日まで暴走によって自我を保っていられなかった者が、能力を理解しているとは考えづらい。分身を生み出す能力は、追い詰められて偶々覚醒したと考えるべきだろう」

確かにその方が筋は通っている。能力を理解するというのが、まだどういうものなのか掴めないが、すぐに治癒能力を得て、3日の猶予がなくなるということはないのだろう。玲羅が完治に3日はかかるといった以上、このことが考慮されているはずだ。

「じゃあ、3日のうちに新しい能力を身につける可能性は?」

「1%にも満たないだろう。今回の場合の、狼。その特性を理解したところで、能力まで理解することは難しい」

玲羅の説明を一言も聞き逃すまいと耳を傾ける。

「例えばさっきの集団性についてだが、その実現にはたくさんの方法がある。ひとつ、仲間を呼ぶ。これは狼自体を呼び寄せる、同じ狼の異能を持つものを呼び寄せるといったことが考えられる。ふたつ、仲間を増やす。これは自分が傷を与えた相手などを自分の仲間とするといったようなことが考えられる。また「傷を与えた」以外のもっと別の条件の可能性もある。みっつ、集団の創造。実際のところはこれだった訳だが、他にもいろいろ考えられる。例えば、自身の身体を分裂させる。単に狼を召喚するなど。すぐに思いつくだけでも、これだけの可能性が考えられる。このように特性を理解しても、異能が何なのかを把握するのは容易ではない」

ようやく、異能を理解するということが何なのかを理解できた。条件が絡むことによる無限に考えられる可能性。これでは、自分の異能を引き出すことは、宝くじを当てるにも等しい運によるものだと言えなくもない。もちろん、思いつく可能性全てを試すことで簡単に引き出せる異能、の特性もいくつかはあるのだろうが。

「なるほどな。よくわかった。んじゃ、話は変わるが、玲羅は明日何をするんだ?」

 話がずれたが、明日からについて話そうと思っていたのだ。とりあえずは、こいつをおとなしくここに待機させる方向にもっていきたい。本来なら廃ビルに置いておくつもりだったが、2日はこの部屋に居る以上、ここに置いておくしかないだろう。俺が学校へ行っている間、放り出してもいいが、万が一、誰かに出入りを見られたら終わりだ。

「特に何をするということはない。手掛かりがない以上、奴が動くのを待つだけだ。しいていうなら、一日渦閃と行動するぐらいだろうか」

「まて、俺は学校がある。だからついてこられると困る」

「大丈夫だ。誰にも気づかれないように見張っている」

何で昼と違って食い下がってくるんだよ。

「何でだよ。昼間、玲羅も「四六時中一緒に居る必要はない」っていってただろ。頼むから、おとなしくここにいてくれ」

「仕方がない。テレビでも見て、この時代の情報を集めておくとしよう」

懇願すると、渋々といった感じで引き下がった。

誰にも気づかれないように見張るといっても、何か問題を起こしそうな気がしてならない。いや、こいつはきっと問題を起こすだろう。

「そろそろ寝るから、テレビと部屋の明かり消すぞ」

 さて、当然の如くベッドは一つしかない。都合よく、ソファーや予備の布団もない。必然、どちらかは床に寝ることになる。玲羅がどこからか布団を取りだせるなら別だが。こういう場合、普通なら男が女にベッドを譲って床で寝るのだろうが、生憎俺はそんなに優しくはない。

「俺は寝るから、玲羅も勝手に寝てくれ」

と告げてベッドに横になる。「わかった、おやすみ」という声が聞こえ、玲羅は床に寝た。

(おい、それでいいのか。素直すぎるだろ。ベッドの争奪戦でもあれば、堂々とベッドを占拠して勝利の余韻と共に寝られると胸を張って言える。だが、こんな風に素直に引き下がられたら逆に寝られん)

たぶん、こういった胃が痛むような展開を回避するために、先達たちはあっさりとベッドを女に譲ったのだろう。先達たちも、きっと優しさで譲った訳ではない。

「玲羅、まだ起きてるか。やっぱりお前がベッドを使え、俺が床で寝る」

「この部屋は君のものだ、なのに君を床に寝させるわけにはいかないだろう。私なら構わない、気を使わなくて大丈夫だ」

「気を使って言ってるんじゃねぇンだよ、お前が床で寝てたんじゃ俺が寝られないんだよ」

「君は優しいな。だが私も、君を床で寝させて自分がベッドで寝るなんてできない。だから、二人でベッドを使うことにしよう。これならお互いにいいだろ」

お互いに引かず平行線になりそうな話に、玲羅が妥協案を提示してきた。正直なところ二人で使うなど嫌だ。だが俺も妥協する以外、他に方法はないのだろう。

「もうそれでいい。後、俺は優しくねェ」

俺はベッドの右端に移動すると、背後に玲羅の気配を感じた。寝られねぇ、そう思いながらも一日の疲れからか、意識は徐々に闇に沈んでいった。


1週間以内に投稿すると言いながら、作者の都合で1ヶ月ほど空いてしまい申し訳ありません。投稿は出来ませんでしたが、書きためていたので修正を加えながら3話分連日投稿しよう思っています。

ダメな作者ではありますが、どうかよろしくお願いします。

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