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世界という理不尽な箱の中で  作者: あるふ
第1章 真実と覚醒
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第6話 常識

「質問は終わりだろうか?」

「いや、ちょっと待ってくれ。少し情報を整理する」

 まずは状況を把握しないとな。いままでの情報をについて考える。あるウイルスに全人類は感染していて、強い欲望、特に負の感情に反応して、人普通ではありえない能力を得ることができる。そしてウイルスは進化していき、無生物をも変化させるようになり、いずれは地球が変化して、人類は滅ぶ。どんなお伽話だよ、今時こんな冗談、誰も信じねぇぞ。さらには、今俺の目の前にいる女は、人類が滅ぶ未来を何とかしようと、未来からやってきたと。とりあえず、話としておかしなところは、あまり(・・・)ない。そもそも全部嘘である可能性は?いや、それは難しい。あの狼や、何もないところから物を取り出した事実がある。なら、重要な真実を隠すため、ある程度の嘘を混ぜている可能性は?例えば、あの狼は政府が人体実験を行って作った人間兵器とかで、目の前の女は政府から派遣された部隊の人間。この線も無いか。嘘を混ぜて隠すぐらいなら、殺して口を封じた方が格段に効率がいい

 いままでの情報を整理した結果と、玲羅が持つどこまでも真っ直ぐで、こいつは嘘をつくことは無いと思わせる特別な雰囲気。それが、この話が真実なのだと、玲羅を信じる方へと心の天秤を傾けさせる。

なら、この話に違和感が残る点があるのはなんだ。隠しているのか、俺の質問が足りていないだけの単なる情報不足か。予想が出来るような簡単なことから、一つずつ違和感を消していくか。

「全ての原因であるウイルスを何とかすることは出来なかったのか?」

「今も研究されているが、ウイルスをなくすことはできていない。さっき抗ウイルス剤の話をしたが、ウイルスの欲望増幅を抑えるのがやっとだ」

「欲望に支配されずに異能に目覚めることはあるのか?」

「稀にだがある。あくまで異能が目覚めるきっかけが強い欲望であって、その後強い精神力で理性を取り戻し、ウイルスによって増幅される欲望も抑え込み続ければ【欲望に取り憑かれたもの】になることもなく、異能を得ることが出来る」

「玲羅みたいにディザイアーを狩るやつらは他にもたくさんいるのか?」

「大勢いる。私がいた時代はほぼすべての人が、今と未来のために戦っている」

「昨日の惨状は一人で何とかしたのか?」

「あぁ、死体は分子レベルに分解し、建物などは物質再生を行い、事件が起こる前と戻した」

 ここまでは予想通りだな。今朝現場から痕跡が消えていた時、組織があるって考えていたが、あくまで現代のことという固定観念に囚われ、未来人が一人でやったなどと思わなかった。話を一通り聞いた後なら、その可能性にも思い至る。まあ、結果的には地球規模のことを、未来の人々という集団で行っていたのだから、組織が存在するという考えもあながち間違っていたというわけではないだろう。さて問題はここからだ。

「世界を救うためってのが、どうしてこの時代なんだ?」

「確かに私はこの時代に来たが、色々な時代、具体的には2000年以降にたくさんの同士たちが行き、調査と戦闘を行っている。だから、この時代だけ特別という訳じゃない」

2000年以降ってのは、そのころから異能者が出現し始めたってことか。

「じゃあ、世界を救うことと、玲羅たちからする過去においてディザイアーを狩ることは、どうして繋がるんだ?」

「さっき説明したとおり、ウイルスは人と共に進化していった。だから、いち早く【欲望に取り憑かれたもの】を殺すことで、少しでもウイルスの進化を食い止める。また【欲望に取り憑かれたもの】を殺していれば、いずれはウイルスを進化させた原因の【欲望に取り憑かれたもの】を殺すことができ、ウイルスの進化を無かったことにし、世界を救えるかもしれない」

 言われてみればその通りだ。この時代だけではないだろうし、人類滅亡の原因をもとから排除する。それでも、世界を救うには不十分すぎる。いつどこで現れるか分からないディザイアーだ、広範囲にわたって捜索しても見逃す可能性はある。また、ディザイアー化した時点でウイルスが進化した可能性もある。だが、世界を救える可能性がある中で最善の手がこれだったのだろう。

俺が感じていた違和感は解消され、この話が真実なのだろうと思った。そして、違和感の代わりに心に生まれたものは、これではどんなに玲羅たち未来の人間が頑張っても世界は救えないかもしれない、という絶望感だった。

「他に聞きたいことは無いだろうか?」

「えっ、あぁ、ひとまず今聞きたいことは全部聞いた」

「それで、信じてもらえるだろうか?」

「まだ信じられないという気持ちもある。だが、すべて信じようと思ってる」

「それで充分だ」

こうして俺は、世界の、未来の、真実を知った。



 時刻を確認すると3時過ぎ。そろそろ寮に戻って、鋼から制服受け取らないとな。そう思って、座っていたコンクリートから腰を浮かす。ゴミを持って階段に向かうと、「どこかに行くのか?」そう後ろから声を掛けられた。

「どこって。帰るんだよ、寮に」

「そうか、ならば私も一緒に行こう」

「はぁ?なんで一緒に来るんだよ?」

「昼に話しただろう?君は狙われている、だからしばらく一緒にいることになると」

そういえば、そんなこと言っていた気がするが…。俺が狙われている、あの狼がまだ生きている、そんな事実に塗りつぶされて忘れていた。

「だからって別に四六時中一緒に居る必要はないだろ」

「ふむ、確かにそうだな」

「だったら「だが、今回は一緒に行く」

「なんでだよ」

「君がどこを拠点にしているか知っておかなければならない。それに、昨日の【欲望に取り憑かれたもの】まだ理性が残っているようだ。動くなら夜だろう、だからこれからの時間こそ一緒に居るべきだ」

 冗談じゃねぇぞ。一人暮らしだって言うならまだしも、寮に連れて帰れるわけ無いだろ。しかも女を。玲羅の言い分は正しい、言い返す言葉が無いくらい限りなく正しい。それでも認めるわけにはいかない。ならば俺がそれを上回る正当性を見つけるしかない。でなければ決して引いてくれないだろう。だが、そんな都合よく理由を思いつくはずもなく。

「い、いやでもさ。男と女が同じ部屋ってのはまずいだろ?」

咄嗟に出たのは、ありきたりな言葉だった。

「何が、まずいんだ?」

と首をかしげている。それぐらい普通分かるだろ、察しろよ。

「問題があるって言うかさ」

「問題?あぁ、そういうことか。それなら大丈夫だ、渦閃はそういう人間ではない」

なんでこいつ、こんな平然としてんだよ。つか、大丈夫の根拠が、知り合って数時間の相手への信頼ってどうなんだ。

「それに、寮に住んでいる奴以外は入れねぇしさ」

と苦し紛れに口にするが

「そんなに見張りが厳しいのか?だが任せておけ」

返ってきたのは、頭を抱えたくなるような答え。そうじゃねぇよ。

「他に問題が無いならいくぞ」

 駄目だ、なにも思いつかん。今はおとなしく従って、そのうちなんとかするしかねぇ。敗北感に打ちひしがれながらも前を向き、あることに気付いた俺は、階段に向かっている玲羅を呼び止める。

「お前その格好で行くつもりか?」

「そうだったな、忘れていた」

そう答えた玲羅は立ち止まり、何思ったのか、髪を後ろにまとめそれをゴムでとめ、ポニーテールにした後ローブを被り、また歩き出そうした。

「何してんだお前は?」

「? 寝るときに髪を下ろして、そのままだったのをすっかり忘れていたから結んだのだが、どこかおかしかったか?」

「まだそれはいいとしよう。なんでローブをまた被った?」

「私は未来からきているんだ目立たないように行動するのは当たり前だろう?」

何を馬鹿なことを、といった感じで、堂々とそんなこと言いやがった。

「そんな格好したほうが余計に目立つわ、とりあえずローブを脱げ」

「わかった。この時代で生きている渦閃が言うのだからそうなのだろう。私はその方が目立つと思うのだが」

そう言って渋々といった感じでローブを脱いだ。そこで俺は頭を抱えた。そう、ローブを脱ぎ現れたのは、全身を覆う、例の漆黒のアーマー。

「それも脱げ」

「だが、敵が襲ってきた時に」

「いいから、寮に帰ったらまた着ればいいだろ」

 俺がそう言うと、またも渋々といった感じで、携帯電話のようなものを操作した。次の瞬間アーマーが消えた。そして俺は言葉を失った。視界に現れたのは、白い下着だけしか身に付けていない玲羅の姿だった。しっかりとした自己主張の表れでもある胸元の谷間、簡単に折れてしまいそうなほど細い腰、適度に引き締まった柔らかそうなふともも、しっとりとした真っ白な肌、あまりに魅力的で扇情的な姿に目が離せない。

「こんな格好のほうが目立たないとは、この時代は変わっているな」

恥じらうことなく言ったその言葉に、我に返った俺は慌てて後ろを向き

「んなわけあるか。どうしてアーマーの下に服を着ていないことを言わなかった!」

謝るより先につっこんでしまった。

「てっきり、君は分かって言っているものだと思っていた」

「下着姿になることに抵抗は無かったのかよ」

「もちろんあったに決まっているだろう。こんな姿ではいざという時に身を守るものが無いのだから。現にさっき脱ぐことを渋っただろう」

「そういう意味じゃねぇよ、俺に見られることに対してだよ」

「少し恥ずかしくはあったが、この姿で街に出ることになると思っていたからな。特に躊躇いは無かった」

 全く恥ずかしかったようには聞こえない。つか、腹の音を聞かれるのは恥ずかしくて、下着姿を見られるのは何とも思わないってどういうことだよ。こいつの羞恥心に関しては常人にはかることは難しそうだな。

「何か普通の服は持ってないのか?」

「ふむ。そういえば、この時代の服が支給されていたな」

「なんで忘れてんだよ、早くそれを着ろ」

「仕方がないだろ。昨日この時代に来たばかりで、こっちにきた途端に戦闘することになったのだから」

声に続いて後ろから聞こえる衣擦れの音。さっき見た下着姿を思い出してしまう。脳裏に焼き付いて離れそうにない。

「終ったら。声を掛けてくれ」

顔が熱い。やけにうるさい心臓の鼓動。見られた方より、見た方が動揺してどうすんだ。落ち着け、深呼吸だ。二十回ぐらい繰り返したときだっただろうか、記憶がはっきりしない。

「もういいぞ。着終わった」

振り返った俺はまたもや言葉を失う。黙っている俺を不審に思い、心配そうな表情で

「どこか変だろうか?」

と聞いてきた。

「別に変じゃねぇよ」

 やっとの思いでそれだけ返す。そこに居たのは、ブレザーにプリーツスカートというよくある学生服姿の玲羅だった。そして俺の記憶が確かなら、それは孤灯(ことう)学園の制服にそっくりだった。

 出来すぎた偶然に、頭痛がひどくなるのを感じた。

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