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世界という理不尽な箱の中で  作者: あるふ
第1章 真実と覚醒
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第4話 真相

 気づけば、俺は寮の自室で寝ていた。どうやって帰ったのか覚えていない。もしかしたら、あれは夢で本当はずっと寝ていたんじゃないかと思う。時刻を確認すると6時を少し過ぎたくらいだ。目覚ましのタイマーを切り、テレビをつける。チャンネルを一通り回してみたが、廃ビルで死体が見つかったというニュースは見つけられなかった。あれだけのことが騒ぎにならないはずがない。もちろん、それこそ謎の機関が存在していて隠蔽している可能性もあるが。とりあえずは顔を洗うために洗面所に向かう。「…!」その途中で脱ぎ散らかした衣服の中にある、切り裂かれた制服を目にする。目の前のものが、昨日のことは現実だったと告げている。

制服が無いので、ジーンズとTシャツ、ジャケットを箪笥から取り出し、私服に着替える。この格好じゃ食堂使うには目立ちすぎるな、ただでさえ目立つってのに。またコンビニで済ますか。そういや制服どこで買えばいいんだ。今までも結構傷ついたりしたが、ここまでひどくはなかったから直せたんだが。鋼にでも聞くか、時計を見ると7時前。もう起きてんだろ。

たしかここだったよな。鋼の部屋の扉をノックする。中から「はい」と声が聞こえ、すぐに扉が開かれる。

「…?どうしたの渦閃、そんな格好で。学校の準備しなくてもいいのかい?」

「今日は学校を休むって伝えにきた。他の奴に俺のことを聞かれたら、体調が悪いから休んだと言っといてくれ」

「いいけど。病院は一人で行ける?」

「ガキじゃねぇんだ、一人で行ける。それと制服がダメになったから、新しいやつ買いたいんだが、何処に行けば売ってる?」

「それなら学園の近くにお店があるよ。僕が帰りにでも買っておいてあげるから、渦閃は、今日はゆっくり休んでなよ。やっぱり昨日何かあったの?」

「別に何もなかった。じゃあ、制服は任せた。2万渡しておくから足りなかったら後で言ってくれ」

「うん、分かったよ。夕方部屋に届けるね」

「わりぃな」

(んじゃ、出掛けるか)



 時刻は8時半。コンビニでおにぎりとお茶を買ってから、昨日の廃ビル群に来ていた。

(昨日はあれだけ生存本能のままに逃げ出したっていうのに、今日は危険と分かっていてなお、知りたいとする知識欲が優先とは。自分のことながら、知りたがりと言うか欲深いというか、愚かしいな。

 「ない、死体も、血の一滴も、むせ返るような匂いも、なにもない。おかしい、あれだけの惨状が一晩でどうやって」

片づけたというより、そもそもそんなことは起こっていないといった状況だ。昨日の場所は確かにこの辺だったはず、やっぱり俺は夢でも見ていたのか。いや、それはない。ならあの制服はなんだってことになる。どうやら謎の機関ってやつが本当にあるようだな。騒ぎにならなったのは、ニュースに規制をかけた訳ではない、そんな必要が無い。なぜなら無かったことに出来るような組織が存在するからってとこか。次は狼と戦った場所へ行くか。

 やはりここにも何もないか。ここに来る途中にある、昨日蹴り飛ばして狼に切り裂かれたはずのゴミ箱すら元に戻っていたからな。謎の組織があり、世界に化け物がいるってことが分かった。ただそれだけ、真相は分からずじまいか。死ぬかもしれないと思ってきたわりには空疎なものだったな。とりあえずはいつもの場所で飯でも食うか。



「なんで、こいつがここに」

 しばらく固まっていた俺が最初に口にした言葉がこれだった。俺のお気に入りの場所でもある廃ビルの3階で見たのは、昨日の漆黒のローブに身を包み、刀とアーマーで武装し、狼と戦っていた女だった。その女は、いつも俺が使っているソファーと毛布を使い、ローブに身を包んだまま寝てやがる。コンビニの袋を、これまた前の住人のものであるボロボロの机上に置き、しばらく観察していると俺の気配に気付いたのか、女は体を起こし、こちらを見てきた。

「誰だ?ここで何をしている?」

女は俺のことを覚えていないのか、そんなことを聞いてきた。何処までも透き通った声だった、不覚にも聞き惚れてしまうほどに。そして、その姿を見、その声を聞き、俺は無事だったんだと安堵していた。

「何をしているのか聞いている。聞こえていないのか?」

「ぇぁ。お前こそ誰だ。俺の場所で何してやがる」

2度目の質問に、我に返った俺は、間の抜けた声を出した後に同じ質問を返してやった。

「聞いているのはこっちだ。答えろ!」

「うるせぇな、一体てめぇは

なんなんだと続けようとして出来なかった。5m以上離れていたはずが、女は俺の背後に回り込み、俺の首筋に刀を押し当てていた。強烈な殺気を放ちながら。全く視えなかった。

「君は…」

女は首筋に押し当てていた刀をどけ、俺を解放した。唐突なことに混乱したが、警戒をしながら後ろを向くと、女は頭を下げていた。

「すまなかった」

「それが人に謝る態度かよ、本気で謝るんなら顔ぐらい見せやがれ」

 状況の説明を求める前に、こんなことを口走るぐらいに、この時俺は混乱していた。初めて向けられた殺気、女の豹変ぶり、色々重なりすぎた。「そうだな」といって、ローブをとった。そして、ローブの下から現れた顔は、息をのむほど美しい少女の顔だった。さらさらと流れる艶やかな長い黒髪、強い決意を内に秘め水晶のように澄んだ青い瞳、長い睫毛、薄紅色の綺麗な唇、彼女の全てが現実味のない美貌を形作っていた。ぽかんっと呆ける俺を気にせず、「すまなかった」と少女はもう一度頭を下げた。しばらくたっても反応が無いことを訝しんだのか、顔を上げ

「やはり、言葉だけでは許してもらえないのだろうか?」

などと言い、こちらを見つめてきた。その目は、「何をしたら許してもらえるのだろうか?」と問いかけており、真剣そのものだ。ゆえに、見つめてきたといっても、ドキッとするようなものではなく、思わず後ずさってしまうような視線だ。

「そ、それより、どういうことか説明してくれ」

「そうか、許してくれるのか。だが、説明は難しいな」

「言えないようなことなのか?」

言葉に詰まったので、強気で攻めてみるが

「いや、そういう訳ではない。君が昼までに来なければ、こちらから探しに行く予定だった。ただ、どこから説明すればいいのか分からなくてな」

隠し事をしているせいではなかったらしい。それより、俺を探す?あの現場を見られたから口を封じるつもり、というには態度が柔らかい。話などせずに切ればいいのだからな。それならなんのために?

「なら、俺が質問することに答えてくれないか?」

「構わない、その方が私も楽だ」

「じゃあまず、どうしてさっき殺そうとしたのに急に態度を変えて謝ってきたんだ?」

「それは、最初は気付かなかったんだ。君が昨日【欲望に取り憑かれたもの】(ディザイアー)に殺されそうになっていた者だと。だから、敵だと思って殺そうとしてすまなかったと」

「ディザイアー?それは昨日の狼のことか」

「ああ、正確には、ディザイアーは欲望に取り憑かれた人間だったもののことだが。昨日の場合はあの狼という認識であっている」

「人間だったものってのは、どういうことだ?」

「言葉のままの意味だ。昨日のアレも狼のような見た目はしていたがもとは人間であったものだ。意識を持っているか怪しいものだったが、今朝騒ぎ起きていない様子を見るにまだ理性が残っているのだろう」

「つまり、人間があんな怪物になったってことか?そんな馬鹿な、どうしたらそんな事が起きるんだよ!」

「落ち着け。信じられない気持ちは分かるが、それが真実だ。とりあえず受け入れろ、でなければ詳しい話も出来ない」

「落ち着いていられるか!んなこと、信じられるかよ。とりあえず受け入れろ?ふざけんな。「はい、そうですか」って簡単に納得できるわけ無いだろ」

昨日の惨状を起こしたのが人間だぁ、ただでさえ信じられないようなことだった。それに加え、人がたくさんの人を殺している、それを冷静に淡々と語るさまは酷く不快だった。まるで人の命などどうでもいいと思っているようにみえたから。だから昂る感情のままに声を荒らげた。

「落ち着け!」

 だが、ピシャリと放たれた一言で冷静になる。自分の中にあるどこか冷静な部分は分かっていた。これがただのやつあたりでしかないことを。自分の間違いを分かっているからこそ、強く言われた時、言い返す言葉は無い。

「悪かった、話の続きを頼む」

「気持ちは分からなくもない。到底信じられないような話だろうからな」

「………」

「では続きを話すぞ。どうして人間が化け物になるかだったな?」

「ああ」

「それは、あるウイルスによるものだ」

「ウイルス?人を化け物に変えるウイルスなんて聞いたことが無い」

「それは当然だ。まだこの時代では認識されておらず、誰もその存在に気付いてないからだ」

「この時代?まるで未来から来たような発言だな」

「その通りだ。私は西暦2449年、約400年先の未来から来た」

「西暦2449年か、それは随分また先の未来からやってきたな」

「あまり驚かないんだな」

「さっきの発言からなんとなく予想はついていたからな。とりあえず全部受け入れることにしたしな」

「話を戻そう。そのウイルスは今から約100年後に公式に発表される。そのウイルスは全世界の空気中に存在しており、全人類が感染している」

「ちょっと待て。ってことは、あんな俺も化け物になるってことか?」

「それはお前次第だ」

「どういうことだ?」

 俺が言葉を発したその時、「ぐぅ」という緊張感をぶち壊す音が聞こえてきた。音の原因であろう正面の少女を見据えると、耳まで真赤にして俯いていた。

「おい「わ、私じゃない。何かの聞き間違いだろう」

「まだ、何も言っていない」

余程恥ずかしかったのだろう、ぶるぶると肩を振るわせ始めた。携帯電話で時間を確認すると12時を示していた。

「あー、俺、朝から何も食ってねェし、腹減った。一旦休憩にして、この話の続きは飯食った後にしないか?」

その言葉に少女は無言でうなずいた。

(真相はしばらくお預けか)


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