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世界という理不尽な箱の中で  作者: あるふ
第1章 真実と覚醒
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第2話 平常

 教室に入るとそれまで騒がしかった教室は静まり返り、教室に居たやつらが怯えた視線でちらちらとこちらを見てくる。いつものように無視して自分の席に向かう。

 孤灯(ことう)学園。俺が通う高校の名であり、両親に閉じ込められた箱の名前だ。俺はガキの頃からいわゆる不良に絡まれやすかった。髪を染めているわけでもないだが、やつらいわく、「なんとなく気に喰わない」んだと。生憎俺はケンカの時、頭が冴える種類の人間だった。故に複数が相手の時も冷静に対処することで負けることはほとんどなかった。だが逆にそれが良くなかった、相手の恨みをかい更に絡まれることになった。そしてケンカを続けた結果が雪だるま式に増えた「敵」だった。俺から手を出したことは無かったが、噂は独り歩きして悪評だけが広まった。周りにいた奴らは離れていき、俺を疎ましく思った両親は寮のある学校に隔離した。俺は抵抗したが所詮はガキ、大企業のトップである親父は金にものを言わせ、裏口入学という手段を取った。後はSPに俺を運ばせ、気づけば俺は寮の自室に寝ていた。当初は反発感から学校にいかねぇつもりでいたが、どうせ遠くの高校へ行こうと思っていたんだと諦めにも似た気持ちで、ここで生活することにした。だが、場所を変えたところで俺の絡まれ体質は変わらない。半月した頃には前と同じように悪評が広まった。それで今の状況だ。

「おっす、渦閃」

「おはよう、矢鳴君」

 そんな状況で、静寂を破る挨拶をしてきたのは、悪評が広まる前と同じように接してくれる友人二人。最初に挨拶をしてきた、いかにもガサツといった風体をした大柄でぼさぼさの頭をした男は恒衛 翔(こうえ しょう)。続いて、消えそうな程か細い声で挨拶してきた、いつも怯えたようで(これは俺が原因ではないはず)、小動物(その栗毛色の髪からリスといったところか)を連想させる髪の短い美少女は介泉 理乃(かいせん りの)。

「あぁ、おはよう」

「いつもと同じく不機嫌そうだな」

「どこがだ?」

「全体的にだよ、なんつーの雰囲気て言うか。いまのだって不機嫌だ、話しかけんなって聞こえるぜ、なぁ介泉?」

「えっ、あ、うん」

「そんなつもりは全くない」

 朝から怯えた視線を向けられることに苛立ちはしていたが、それを友人に露にするほど俺もガキではない。それにいつものことなので多少は慣れてもいる。いつも通りのつもりなのだが、こういった場合はお茶を濁すような介泉にも肯定される程、不機嫌に見えるらしい。

「そんなだから、皆に勘違いされんだよ。もうちょっと愛想良くしろ」

「薄っぺらい笑顔貼り付けるぐらいなら、今のほうが100倍マシだ」

そんな会話をしていると後ろから声を掛けられた。

「朝から何やってるのよ、騒がしいわね」

声を掛けてきたのは、赤みがかった茶髪をツインテールにしており、非常に女性らしい(出るとこは出て締まるところは締まっている)身体をした美少女、他山 真依(たざん まい)だ。そのつり目から、不機嫌そうな雰囲気も相まってこちらを睨んでいるかのような印象を受ける。

(俺より他山のほうが不機嫌オーラ放ってるだろ)

「げっ、委員長」

「げっとは随分ね、恒衛君?」

翔が言った通り他山はこのクラスの委員長だ。関係としては、友人と呼べるかは微妙なところだ。怯えている奴と違って、こうして話しかけに来たりはするが、どうにも棘がある。いわゆるツンデレなんだろうということにしているが、デレる要素は今のところ欠片も無いから常時この状態かもしれない。

「いや、悪い。つい」

「ついということは、普段から私のことそういう風に思っているのね」

「真依ちゃん、そう怒らないで。恒衛君も悪気があったわけじゃないと思うし」

「それより、何か言うことがあって来たんじゃなかったのか?」

仕方が無いので、バカのフォローを介泉と俺でしてやる。

「そうね。いつまでも恒衛君なんかを相手にしていても時間の無駄でしかないし」

「…………」

バカは、口を挟むとまた蒸し返すことになるのが分かっているため、酷い言われように対して黙っていた。

「それで朝から何を騒いでいたの?」

「………何でもねぇよ」

他山にさっきの話を聞かせ、何か言われるのは癪に障る。

「何でも無いのに騒いでいたの?迷惑極まりないわね」

「別にそこまで騒いで「相変わらず二人は仲がいいね」

俺が反論しようした時、口を挟んできたのは鋼だった。

「別に仲が良くなんてねぇ」

「別に仲が良くなんてないわ」

「ほら息ぴったり。やっぱり似た者同士、仲がいいね」

 鋼の言葉にうなずく二人。俺と他山はというと、お互いに顔を見合わせ「お前が合わせるからだ」と文句を言おうとし、HR開始のチャイムに邪魔され、それぞれ自分の席に戻って行った。HR開始のチャイムが終わると同時に担任の砂崎(さざき)先生が入ってきた。砂崎 千陽(ちひろ)、年齢は20代半ば、メガネを掛けていて、おっとりとした優しい雰囲気を持った美人であり、男子から人気が高い。さらには、女子たちの恋愛相談にものっているらしく女子からの評判もよく、面倒見がいい先生として慕われている………らしい。俺は興味が無いから、全て翔から聞いたものである。いつも通り大した連絡事項も無くHRは終了し、授業が始まる。俺は足りない睡眠を補給することにした。


「渦閃起きなよ、授業終わったよ」

「んー、まだ寝たりねぇ。鋼、俺の代わりに昼飯購買で買ってきてくれ」

「バカなこと言ってないで起きなさい。火束君こっちは私がやっておくからもう一人のバカを起こしてきたら?」

(ちっ、他山め余計なことを)

「わかったよ。じゃあ僕は翔を起こしてくるから、他山さんは渦閃をよろしくね」

「ええ。聞いていたわね?さっさと起きて火束君たちと購買に行ってきなさい」

「わかったよ。しょうがねぇ」

「早くしなさい。女の子を待たせるなんて最低よ」

「待っててくれと頼んだ覚えはねぇ」

「だそうよ、理乃。バカたちは放っておいてさっさとお昼食べましょうか?」

「だめだよ真依ちゃん。矢鳴君早く行ってきてね」

「………」

(くそ。好き勝手言わせておくのも癪だし、腹も減ってるからな、さっさと済ますか。)

「鋼、翔、いこうぜ」

「あ、うん。ほら起きなよ、翔」

「うーし、行くかー」



「火束君-、一緒にお昼食べようよ」

「ごめんね、今日は渦閃達と食べるかから。また今度誘って」

 俺たちは購買で無事総菜パンを買い教室の戻る途中なわけだが、さっきからこの調子だ。行きもそうだったが、鋼が頻繁に女子から昼飯を一緒に食べようと誘われている。その度に、鋼はわざわざ立ち止まって丁寧に断る。まめな奴だ。この辺もモテる一因なのだろう。それにしても火束の人気ぶりは凄い。近くに俺がいるというのに話しかけてくるのだから、俺への恐怖より、火束への恋慕の感情が勝つということか。

「あーもう。なんで鋼ばっか、俺も誘われてー」

「たまたまだよ。そのうち翔も誘われるよ」

(鋼は本気で言ってるんだろうが、それはない。翔はガサツだ、デリカシーも無い。鋼の様にモテることは無いだろう。悪い奴ではないんだがな)

「そうか。そうだよな。俺だって顔は悪くねェはずだ」

(どこまで単純なんだ。確かに顔は悪くないかもしれないが、他にモテない原因があるんだよ)

そうこうしてるうちに教室に戻ってきたわけだが、

「たかだか購買に行っていただけなのに、随分と遅かったわね。どこで何をしていたのかしら?」

「みんなおかえり」

(なんだこの違いは。確かに個性は大事だが、他山は少し介泉を見習え)

「おう、ただいま」

「ただいま。遅くなってごめんね」

「いろいろあったんだよ」

三者三様というか、なんで俺だけが他山に対して言い訳しなきゃならねぇんだ。

「どうせ、火束君が女子の皆からお昼を誘われてそれを一々ご丁寧に断っていたとかでしょ」

「ふぇ、そうなの。えっと、ご苦労さま?」

「分かってんなら聞くんじゃねぇよ」

「さすが委員長だな。何でもお見通しか」

「うん。ごめんね、他山さん、介泉さん」

そんなこんなで昼休みも5人で過ごした。いつから5人でいるのが普通になったんだっけな。まだ俺がまともなのはこいつらのおかげだろう、感謝しないとな。



 午後からの授業はまた寝て過ごして、放課後になって帰ろうした時、「一緒に帰らない?」と鋼が声を掛けてきたが、「寄る所があるから」と断ると、寂しそうなそうな表情をして「そっか」とだけ返してきた。近くに居た翔と介泉も心配そうな表情を浮かべていたが、「部活行かなくていいのか?」と聞くと、こちらを気にしながら教室を出て行った。

(ったく、どいつもこいつも顔に「大丈夫か?」って貼り付けやがって)

そんで、一番何でも無さそうにしている他山が、一番心配してんだろうからな。一人で教室を出た俺はたぶん笑っていた。

 正門に5人。他校の制服着た奴が門の前にいたらいやでも目立つ。ま、しばらく相手しないように逃げて、俺のことを忘れてくれるのを待つか。別に勝てない訳じゃないが、あいつらに迷惑かけたくねぇし。学校まで追いかけてくる奴ってのは、大抵周りの人間にも危害を加えるタイプだからな。裏門にも3人。塀でも越えるか。塀は3m近いからさすがに越えてくると思ってないだろうし、見張りはいないだろ。こんな時のために、登りやすい木をいくつか見つけておいてよかったぜ、っと。どうやら予想通り見張りはいないようだし、見つかる前に帰るとするか。学園から寮まで歩いて5分、走れば2分。だいじょぶだろ。


 まさか寮の前まで見張ってるとは、学園の生徒脅かして、俺が寮に住んでいることを聞いたってところか。寮の塀で越えられそうなところを探すか、しばらくどっかで時間潰して戻るか。前者だと寮の周辺探っているうちに見つかってケンカ、後者だと時間を潰していた場所で鉢合わせてケンカ。要するに、奴らと鉢合わせしない場所でしばらく時間を潰すが一番リスクが低いか。となると、あそこ行くのが妥当か。晩飯どうすっかな、コンビニで良いか。あとは鋼に寮監誤魔化しといてくれってメールしとくか。


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