1-4 「落下 星屑の軌道」
培養槽がわずかに傾き、固定フックが外れる音が響いた。
次の瞬間、重力に引かれて排出ラインへと滑り出す。
金属の管の内側を高速で滑り落ちていく。
培養槽の底がパイプの壁を擦り、鋭い金属音が響いた。
通路は緩やかな螺旋を描きながら、速度を増していく。
壁面には配管と補強リブが並び、それらが視界を横切る。
点滅のような光が、次から次へと視線をかすめ過ぎていく。
接触部から火花が散り、淡い光が管の中を走る。
空気が前方に押し出され、金属が軋む音が大きくなる。
床面の振動が槽の外壁に伝わる。
そのとき、壁面のホログラムにゼウスの眼が投影された。
追跡ラインが交差し、照準がぴたりと星屑の瞳の位置をにらみつける。
──視線が交わった。
星屑の瞳が淡い青を放つ。
通路を閃光が切り裂く。
ゼウスの眼がわずかに歪み、輪郭が揺れた。
追従アルゴリズムが一瞬遅れ、補正ラインが一斉に走る。
そのとき、“ノイズ音”がホログラムの奥で鳴った。
低く、耳の奥を刺すような電子音。
ゼウスの眼が震え、壁面のラインが生き物みたいに動いた。
次の瞬間、培養槽はすさまじい速度ですり抜けた。
ゼウスの眼は追いつけず、赤いラインが壁を這う。
眼が、逸れた。
ログは残らない。検知もできない。
視線が交わった痕跡だけが、冷たい空気の中に残った。
上層の床が近づくと、風切り音が一段と鋭くなった。
床を通り抜けた瞬間、硬い音が響き、衝撃で培養槽が大きく揺れる。
筋の光が差し込み、通路全体が白く照らされた。
光はすぐに消え、再び管の中が暗くなる。
速度を保ったまま、培養槽は下へと滑っていった。
通路は次第に傾斜をゆるめ、急な減速で培養槽の内部がふっと浮いたように感じた。
その先に、排水路の暗がりが口を開けていた。
かつて廃液や資材を流すために使われていた管路。
今は塔からも上層からも忘れられた場所だ。
終点に差しかかった瞬間、培養槽が減速しながら勢いよく水溜まりへ突っ込んだ。
鈍い衝撃とともに濁った水が跳ね上がり、外壁に水滴がぶつかる音が響いた。
跳ね上がった水滴が鉄の柱を伝い、ぽつ、ぽつと静かな残響を残した。
排水路は薄暗く、ひんやりとした空気が溜まっている。
壊れた配管から、かすかな滴る音が響いていた。
揺れが収まると、培養槽の内側で星屑の瞳が静かに瞬いた。
その微かな光が、暗闇の中で唯一の“生きたもの”のように輝いていた。




