表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Not Divine  作者: kode-kode


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/58

8-4 「降下」

森を抜けると空気が変わった。

湿り気が薄れ、煤と油の匂いが混じる。

レインは足を止めない。白衣の裾だけが、影の濃い道を一定に切っていく。


前方に下層街の灯りが見えた。

低い建物が密集し、配管と電線が絡み、路地の奥で火が揺れている。


人の声が重なり、金属の擦れる音が混じり、誰かの笑いが短く弾けた。

鍋の湯気が通りに滞り、甘い匂いと焦げた匂いがぶつかり合う。

壁際には濡れた布が吊られ、足元には黒い水が細く流れている。

その雑音の中へ、白衣が入っていった。


人とすれ違う。

肩が触れそうな距離でも、誰もぶつからない。

視線だけが一瞬だけ動き、次の瞬間には逸れていく。


荷車を押していた男が一歩だけ退き、子どもの手を引いていた女が通りを空ける。

白衣を見た瞬間、会話が途切れる。塔の匂いが混じるからだ。

関われば終わると知っているように、誰も彼女を見ようとしない。誰も声を掛けない。


道がわずかに開く。

レインは歩幅を変えずに進む。歩く速さも、呼吸の間も一定のままだ。

視界の端に、淡い表示が重なる。


進捗 58%

距離 2.6km


数字は感情を持たない。

だが数字は、近づいてくる。


通りを抜け、狭い橋を渡り、湿った石畳を踏む。

路地が枝分かれし、露店の湯気が漂い、焼けた匂いが一瞬だけ濃くなる。

子どもの足音が走り、母親の手がそれを引き戻す。

壁の陰で誰かが咳き込み、瓶が転がって止まる。


レインは迷わない。

曲がる角で足が自然に向きを変える。選択ではなく、手順だ。


進捗 62%

距離 2.1km


下層街の外れに、空き地があった。

壁が崩れ、地面が黒く焼け、丸太が積まれている。

灰が風に舞い、赤の名残が土に沈んでいた。火葬の跡だ。


まだ熱が残る。

焦げた木の匂いと人の匂いが混じっている。


空き地の周囲には足跡がいくつも残り、踏み固められた線が地面に刻まれていた。

輪になるように石が並び、木片の破片が散っている。


レインはそこで初めて首をわずかに動かす。

視線が地面を拾い、灰の粒を数え、焼けた木の断面を読み取った。


ヴァルナの弟を弔った場所。

空気の温度が、わずかに揺れている。そこには祈りの残響みたいなものが残っていた。


灰の中に踏まれて折れた細い枝が混じり、輪の外側に立った足跡だけが深く沈んでいる。

誰かが泣き、誰かが黙って立ち、誰かが火を見続けた痕が、そのまま地面に残っていた。


進捗 70%

距離 1.4km


レインは空き地を抜ける。

焦げた匂いが背中に残るが、歩幅は崩れない。


先は道が途切れ、壁が高い。

鉄板が打ち付けられ、見上げるほどの暗がりが続く。


だが壁の根元に、古い排水の口があった。

金属の格子が斜めに沈み、周囲の石が不自然に削れている。人が通るための形だ。


レインは体を近づけ、格子の縁に指を当てる。

錆が指先に薄く移る。力は入らない。だが固定具が外れる。

止め具の角度が変わり、格子が静かに持ち上がった。


冷たい空気が穴の奥から吹き上がる。

地上の匂いが薄れ、湿った地下の匂いが濃くなる。

壁の隙間には水滴が溜まり、黒い筋が下へ伸びている。


奥は暗い。

だが暗さは障害ではない。通路として成立していた。


進捗 78%

距離 0.7km


レインの唇が、わずかに動く。


「入口、発見。」


レインは格子の向こうを覗かない。確認をしない。

入口を確保し、通行を開始する。それだけで手順は成立する。


白衣の裾が闇の縁へ滑り込み、足が段差を捉え、体が沈む。

アンダーグラウンドへ続く階段だった。


光は背中で細くなり、下から上がってくる空気が白衣を静かに打つ。

手すりは冷たく、壁は湿っている。階段は深い。


地上の音が薄れ、代わりに地下の低い反響が増える。

レインは止まらない。降下が続く。


面白かった、続きが気になると思った方。

ぜひ下の☆から作品の評価、応援よろしくお願いします。

ptやコメント、ブックマークをいただけると大変励みになります。


読みにくい、ここがわかりにくいなどコメントで教えていただけると幸いです!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ