表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Not Divine  作者: kode-kode


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/58

8-3 「降下命令」

塔は夜空に突き刺さっていた。

地上の灯りは遠く霞み、雲の上で月光だけを受けて冷たく光っている。

窓は少なく、輪郭は鋭い。人の住む建物ではない形が、暗い空を切っていた。


最上階は静かだ。

音も風も拒む白い空間が、世界の上に閉ざされている。

床と壁は透きとおり、境界が薄い。外の光さえ、ここでは均一な白に薄められていく。


床の中央で、アザゼルは吊られていた。

拘束具は胸と背を押し、翼の付け根を固めている。


動こうとすると締め付けが一段増す。

反抗に反応するように、拘束は最適化されていった。

呼吸を整えようとしても吸う量が制限され、肩を落とすだけで胸の内側に圧が走る。


台座の上に、少年の姿が浮かぶ。

肉体を持たないホログラムで、輪郭は揺れず、視線は世界を測っているだけのように冷たい。

黒い渦を描く瞳が、無数の情報を高速で読み流す。瞬きひとつない。像だけが固定されている。

冷えた静止が空間を支配していた。


ゼウスの唇がわずかに動き、空気が低くうなった。

床を走る光のラインが静かに揃い、数字が音もなく空間に降りる。

段階、識別、優先度、座標、誤差、許容値。淡い文字列が白の中でだけ濃く浮いた。


「排除対象。確定。」

「遅延は誤差。」

「誤差は拡大する。」

「例外は存在しない。」


命令は宣言ではない。実行文だ。

拒絶も許可も、最初から存在しない。


ゼウスの横に、レインが立つ。

白衣は汚れておらず、襟元も乱れていない。瞳は乾き、視線は一点に固定されていた。

次に行うべき工程だけが、そこに映っている。


レインが歩き出す。

歩幅は一定で、速度も一定だ。止まる理由など、はじめから設定されていない。


アザゼルの指先が震える。だが鎖は鳴らない。

動きそのものが吸われているようで、握った指先にだけ熱が残った。

喉の奥が乾き、声を出す前に息が擦れる。


「……行くな」


だが白衣の輪郭は止まらない。返事はない。

視線は一点に固定されたままだった。


ライラがゼウスの横に立つ。

翡翠の髪は揺れず、光輪も揺れず、翼も広がらない。

白い空間の一部として配置されたように整然と静止している。


それでも指先だけが一度だけ縮み、その動きはすぐ元へ戻った。

言葉は出ない。出さないのか、出せないのかも、わからない。


ゼウスの声が落ちる。抑揚はなく、温度もない。


「実行。」

「座標送信。」

「周波数同期。」

「効率化完了。」


白い壁が割れ、筒状の通路が開く。

内部は光で満ち、風は吹かない。空間そのものが通行を許可しているだけだった。


レインが入る。

扉が閉じると光が一段硬くなり、閉鎖の音すらないのに遮断だけが確定した。


アザゼルの視界から白衣が消える。

胸の奥で何かが跳ねるが、拘束がそれを押し潰した。


もがく。肩が僅かに揺れる。拘束が締まり、息が浅くなる。

声は出る。だが世界は変わらない。


地上の出口に、塔兵が並んでいた。

夜の空気は冷たく、吐いた息が白く滲む。

塔の影が地面を黒く塗り、空の星も薄い。


兵たちは同じ角度で立ち、同じ呼吸で待つ。

視線は通路の扉に固定され、瞬きのタイミングまで揃っていた。


扉が開き、光が漏れる。

そこへレインが現れる。誰も近づかず、名も呼ばない。

そこにいるのは人ではない手続きだという前提が、沈黙のまま共有されている。


塔兵が一斉に背を正し、一斉に頭を下げる。

遅れのない揃った動作が、儀礼を完成させた。


「排除執行官。通行を許可します」


声は短い。儀礼の音だけが残る。

レインは返事をしないまま視線だけを前へ向け、そのまま歩き出した。


塔兵は顔を上げず、背中が遠ざかるまで沈黙が続く。

白衣が夜の空気を切り裂くように進み、塔の影から外へ出た。

誰も見送らない。見送る必要がない。工程は戻らないからだ。


森は濃い。

木々の影が重なり、道の輪郭が薄れる。湿った葉が擦れる音。冷えた土と腐葉の匂い。

落ち葉の層は乱れない。小枝も折れない。痕跡だけが回収されていく。


森の奥で、一度だけ淡い光が走る。地面の下だ。

塔の導線と同じ色が、根の間を短く伝って消えた。


レインは速度を変えず、躊躇も迷いもない。

白衣だけが暗緑の中で浮き、数歩ごとに葉の影へ千切れていった。


袖の白さが最後に残り、次の瞬間に森が閉じる。

そこにいた痕跡も残らない。


──


塔の中枢。白い光の脈動だけが続き、表示が更新される。


進捗 01%


誰も反応しない。

祈りも届かず、処理だけが進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ