7-7 「見送りの炎」
夜が明ける前だった。
火を灯す前に、迎えに行かなければならないものがあった。
泣いていた女は、地下の闇の中にいた。
動かない身体を、胸に抱いたまま。
足音が近づく。
地下へ降りてきたのは、ルシファーだった。
彼は立ち止まり、亡骸を抱く女を見る。
視線を逸らさない。
「……行こう」
それだけ告げる。
女は、静かにうなずいた。
二人は並んで、地上へ向かう。
闇の底から、夜明け前の冷たい空気へ。
ナユタたちも、その後に続く。
誰も言葉を発さないまま、地上へ出た。
積み上げられた丸太の前で、女は足を止める。
腕の中の身体を、最後まで離さなかった。
ルシファーが手を伸ばす。
女は、少しだけためらってから、その身を預けた。
弟の亡骸は、丸太の上へ静かに置かれる。
火がつけられる。
乾いた音とともに、炎が走った。
赤い光が闇を押し返し、
熱が空気を揺らす。
レビは、女の手を強く握った。
離れてしまわないように、確かめるみたいに。
「……お空に、行くんだね」
女は、うなずく。
声は出なかった。
「私、レビ」
名乗る声は、震えていた。
それでも、炎から目を逸らさない。
「……ヴァルナ」
その名を返しながら、
ヴァルナの頬を、静かに涙が伝った。
炎が高くなる。
弟の身体だけでなく、戦場に散った悪魔たちも、同じ火に送られていく。
全員が、火の粉を見上げていた。
赤い火の粉が、夜空へ舞い上がる。
燃え残った想いを抱いたまま、ゆっくりと、上へ。
そのとき、ナユタは瞬きを忘れていた。
炎の向こうに、何を見ているのか、自分でも分からない。
目尻が、熱くなる。
こぼれたのは涙ではなかった。
青い粒子が、一つ。
それから、もう一つ。
感情に反応した瞳の星屑が、静かに解放されていく。
痛みでも、命令でもない。
ただ、失ったという事実に触れてしまった結果だった。
青は、赤を追うように宙へ浮かぶ。
火の粉に混じり、絡み合い、夜空へ昇っていく。
赤は、旅立つ色だった。
燃え尽き、空へ向かうための光。
青は、見送る色だった。
追いすがらず、ただ同じ高さまで昇るための粒子。
赤と青が混ざり合い、
やがて区別がつかなくなる。
炎も、粒子も、
同じ方向へ昇っていく。
ナユタは、声を出さなかった。
泣き方を、知らなかった。
それでも、青は止まらない。
目尻から、頬へ、空へ。
誰も、その理由を聞かなかった。
誰も、止めなかった。
ただ、それを見送った。
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