7-1 「反撃の合図」
上空で白い影が広がり、天使たちの翼が円を描いた。
羽音が層になって降りてくる。空気が細かく振動する。
ナユタは両手を広げ、瞳から星屑を展開した。
光の粒が女性の周囲へ流れ込み、ひと呼吸だけ余裕が生まれる。
「……まだ、大丈夫?」
ナユタが女性を見上げる。
かすれた声が震えた。
女性は涙を袖で拭い、浅く息を吐く。
「……大丈夫。立てる……」
自分に言い聞かせるように呟き、床から剣を拾い上げた。
濡れた指先が震えたまま、刃を胸元で構える。
ルシファーは一歩だけ足をずらし、姿勢を固定した。
前後どちらにも動けない位置だった。
アザゼルは変わらず正面に立ち、仮面の奥の気配が揺れない。
静止したまま、戦場の中心だけが冷たく沈む。
上から天使が降りてくる。
星屑が弾け、女性の剣が光を散らす。
ナユタの腕が追いつかず、粒が薄れていく。
女性は斬撃をいくつも受け止め、足を引きずる。
ナユタが星屑で肩を守り、反撃の隙を作る。
光が交差し、金属のきしみが連続する。
それでも押される。
星屑の軌道が途切れ、女性の息が荒くなる。
天使の影が重なり、光の層がさらに厚くなる。
完全に制圧されるまで、もう数秒。
ナユタの声が震えた。
「……だめ、抑えられない!」
女性も剣を握り直す。
両者とも、次の一撃を防ぎきれない。
その瞬間。
通路の奥から地面を割るような衝撃音が響いた。
鉄骨が震え、空気が押し出される。
黒い奔流が、天使の包囲を横からえぐった。
「オラオラーー!! どきやがれーーー!!」
リュックの怒鳴り声が風を切る。
影の群れが突っ込み、天使をまとめて弾き飛ばす。
その背後で、レビが別の悪魔にしがみつきながら叫ぶ。
赤い服が揺れ、通路に響く。
「ナユターー!! 来ちゃったのー!!」
アンダーグラウンドで眠り続けていた、悪魔たちが咆哮をあげる。
天使たちの隊列が乱れ、光の層が崩れ落ちる。
星屑が再び流れ、女性の剣が持ち直す。
ルシファーとアザゼルの間に、破れた空気が流れ込んだ。
──反撃の合図だった。




