6-7 「ノイズ排除開始」
通路の空気が沈む。上方の冷光が淡く降り、金属の匂いが広がる。
落ちた羽根が床で静かに止まっていた。
ルシファーは肩を回し、胸の奥で息を整える。白い粒が浮かび、
羽根の影をわずかに照らしていた。
「……よし」
光が背へ集まり、白銀の翼へゆっくり流れる。羽根の根元で
淡く揺らめき、空気が薄く震えた。次の瞬間、身体が吹き抜けの上層へ上がり、
冷たい風が背に触れた。高い位置で静止すると、残光が壁に細い弧を描く。
アザゼルが視線だけを上げる。その静けさが温度をひとつ下げた。
「目、悪くすんなよ」
ルシファーは空中で掌を開く。光が一点へまとまり、
鋭い矢のように走った。白が通路を染め、影が揺れる。
その揺れを逃さず、ルシファーは急降下する。風が足元を巻き、
床に触れる前に懐へ滑り込む。
「……はい、そこだ」
仮面の縁を掴む。冷たい金属が指に貼りつき、
同時に光が跳ねて一点へ集中した。
アザゼルは最短で下がる。しかし完全には避けられない。
──光線が仮面の上部をえぐった。
金属片が床を転がり、焦げた匂いが通路に流れた。
ルシファーは息を短く吐き、肩を少し落とす。
「避けたわりに……もっていかれたな」
割れた仮面の隙間から、奥の沈んだ光がわずかに漏れた。
アザゼルの片目が露出する。血のような赤が揺れずに刺さる。
ナユタは喉を震わせたまま動けない。
アザゼルが低く言う。
「……終わらせる」
ルシファーは口元をゆるめる。
「いや、その言い方……優しさゼロなんだよな」
アザゼルが一歩踏む。床下の骨組みが軋み、音が通路に響く。
空気がふっと震える。壁が薄く波打ち、方向のない振動が広がった。
「演算誤差、検知。ノイズ排除を開始」
ゼウスの声が落ちる。発生源が分からず、
空間そのものが喋るような冷たい響きだった。
静寂が落ちる。
やがて遠くの通路で金属音が重なった。地鳴りのような振動が続き、
少しずつ近づいてくる。
ナユタが最初に顔を上げた。震える肩を押さえたまま、
揺れる空気の動きにいち早く反応する。目が大きく開き、
奥の闇を凝視する。
その気配に、泣き崩れていた女性も息を呑む。頬を伝う涙が揺れ、
伏せていた視線がゆっくりと前へ向いた。
風が逆流し、砂埃が浮く。羽ばたきの残響が幾層にも重なり、
影が遠方で増えていく。
白い光がちらつき、隊列の輪郭が濃くなる。
同じ速度の羽音が幾重にも重なり、遠方の光景が途切れる。
二人は通路の向こうにいて、助けに向かうには距離が遠すぎる。
「……絶望的ってやつだな」
ルシファーは視線を前へ固定した。さっきの一撃を思い出す。
視線を外した瞬間、同じ軌道が飛んでくる。天使軍だけなら問題はない。
だがアザゼルが前にいる。踏み出す選択肢はなかった。
白い影が通路を埋め、光が視界を覆った。
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