6-5 「黒い羽の引力」
空気が揺れた。
ルシファーとアザゼルが、それぞれ一歩ずつ踏み出した瞬間だった。
金属が軋むような低い音が通路を震わせる。
黒い翼がわずかに広がり、アザゼルの影が床を切り裂くように伸びる。
対するルシファーは、ただ静かに呼吸を整えていた。
怒りも焦りもない。
けれど、声の奥には微かな火がともっている。
「……どこへ行っちまったんだよ、お前」
アザゼルは返さない。
ただ右手の指を軽く握り、力をためる。
ナユタは動けなかった。
耳鳴りがするほどの緊張の中で、
自分の胸の奥が理由もなく、あたたかくなるのを感じていた。
黒い羽。
追い続けた影。
怖くなかった。
むしろ近づくほど、胸がゆっくり熱を帯びていく。
アザゼルの左の袖口が、虚ろに風に揺れた。
その欠けた腕が、かつて何を守るために失われたのか。
ナユタはまだ知らない。
アザゼルが一歩、踏み込む。
床が悲鳴を上げる。
風が割れる。
その踏み込みと同時に、
ルシファーの足も地を蹴った。
二つの影が交差する。
金属がぶつかるような衝撃音が、空気そのものを折り曲げた。
火花はない。
光もない。
ただ、二人の間に生まれた圧だけが、
通路の壁をゆっくりと歪ませる。
「任務の妨害は排除すると言った」
アザゼルの声は、冷えた石のように硬い。
揺れがない。
感情がない。
ルシファーは拳を強く握りしめ、
その冷たさに皮肉げな笑みを浮かべる。
「……それでも俺は止める。
いい加減目を覚ませ」
言葉より早く、次の衝撃が生まれた。
アザゼルの翼が跳ね、風が弾け、叩きつけるような重圧が通路を埋め尽くす。
その瞬間だった。
ナユタの視界に、黒い羽がひらりと舞い込んだ。
呼吸が止まる。
胸の奥が熱くなる。
理由のわからない引力が、身体の中心を引っ張る。
黒い羽の持ち主が。
自分の“どこか”と同じ色を持つ存在が。
目の前で戦っている。
ナユタは一歩、前へ出ようとした。
けれど脚が震え、踏み出せない。
そんなナユタの迷いを断ち切るように、
アザゼルの右手がルシファーへ向かって振り抜かれた。
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