6-4 「白銀の仮面」
男は通路の奥へよろめきながら走り出した。
泣きながら、壁に肩をぶつけ、転んでは立ち上がり、
ただ生きのびるために角の向こうへ姿を消す。
ルシファーは追うことはしなかった。
ナユタの肩がまだ震えている。
女性は剣も拾えないほど力を失い、床に座り込んでいる。
ほんの一瞬の静寂──。
角の向こうで、
鈍い衝突音が響いた。
次の瞬間だった。
男の身体が、何かに打ち返された石のように
通路へ逆戻りしてきた。
壁に叩きつけられ、ずるりと崩れ落ちる。
悲鳴はなかった。
悲鳴を上げる余裕すら奪われていた。
ルシファーの視線が、角の先へ向く。
暗がりの奥から、
白銀の仮面がゆっくりと現れた。
顔の中心を縦に割る一本の亀裂。
左腕は肘から先がなく、
黒い翼が後方へ静かに伸びている。
足音はない。
呼吸の気配もない。
アザゼルが歩み出た。
「……少年殺害を確認。
秩序の乱れと判断。
対象を排除する」
その声音は冷たく、
誰の存在も“認識の対象”として扱っていなかった。
「待て、アザゼル」
ルシファーが低く押し殺した声で言う。
瞬時に前へ出ようとしたが──間に合わない。
アザゼルは躊躇すら見せず、
倒れた男の頭へ右手を伸ばす。
「……排除を開始する」
仮面の奥の瞳が微動だにしないまま、
乾いた音とともに男の頭蓋が握り潰された。
血と骨片が床に静かに散る。
女性が息を呑む気配が後方で震えた。
ナユタはその場で固まり、目を見開いたまま一歩も動けない。
ルシファーがアザゼルを睨み、
低く、押し殺した声を絞る。
「……なにしやがる」
アザゼルがゆっくりとルシファーへ顔を向ける。
感情のない声が通路に落ちた。
「任務だ。
これ以上、妨害するのなら──
貴様も排除する」
黒い翼がわずかに広がる。
空気が微かに揺れた。
ルシファーの足が、一歩、前に出る。
火花のように、二つの影がぶつかり合う直前──
ナユタは震える視界の中で見た。
“黒い羽”。
それはナユタがずっと追い続けてきた影だった。
初めて羽を見た時、胸の奥がふっと温かくなった。
理由はわからないまま、その温もりだけが残った。
訓練では何度も、その“黒”だけを思い浮かべてきた。
──自分の中に、その羽の主の“血”があることなど知らないまま。
黒い羽の持ち主が──
目の前にいる。
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