5-6 「倒れても、立つ」
朝の光が少しずつ強くなり、空き地の影が短くなっていく。
ルシファーが型を見せたあと、ナユタは深く息を吸い、
その動きを頭の中で何度もなぞっていた。
まだ体は覚えていない。
足の向きも、腕の角度も、まるで揃わない。
それでもナユタは、止まらなかった。
右足を前へ滑らせようとした瞬間、
重心がわずかに沈みすぎて、体が前に傾いた。
小石に足先が触れ、バランスを崩す。
倒れまいと手を伸ばしたが、
掌が乾いた土に擦れて熱を帯びた。
続けざまに膝も地面を強くこすり、
細かい砂粒が皮膚を荒く削った。
「……っ」
痛みが体の奥まで走る。
けれど、ナユタは立ち上がった。
ルシファーの前だからじゃない。
やりたいから立つ。
胸の奥で、悔しさと“負けたくない”気持ちが静かに燃えていた。
膝から細い血が伝い、土に染みる。
額から落ちた汗が朝日に触れ、粒になってきらめいた。
その光は一瞬だけ虹のように揺れて、地面で静かに消えた。
ルシファーは腕を組んだまま、
ゆっくりと息を吐いた。
その目は厳しいままなのに、
ほんのわずか、温度だけが変わっていた。
「……まずは踏み込みだ。
形なんて後でいい」
ナユタは返事をする余裕もなく、
また足を前に出す。
失敗するたび、
目に悔しさがにじむ。
それでも止まらない。
そのとき、空き地の奥から乾いた枝が踏まれる小さな音がした。
弱い気配が風に混ざり、こちらへ近づいてくる。
レビが眠そうな顔で現れ、
ナユタの姿を見るなり、まばたきを忘れた。
「……ナユタ?」
リュックはレビの後ろから顔を出し、
ぶっきらぼうに眉をひそめた。
「おいおい……汗だくじゃねぇか」
悪魔たちも遅れて姿を見せ、
誰に言われるでもなく、
ナユタの練習を見つめた。
ナユタはまた踏み込み、
また足を取られ、
膝をつきかけたが、
踏ん張った。
息が荒く、肩が上下している。
それでもその瞳は折れていない。
ルシファーは小さく顎を動かした。
まるで、“続けろ”と言う代わりのように。
朝の光の中、
少年の影が揺れながらも前へ進んでいく。
誰も言葉を挟まなかった。
その姿だけで十分だった。
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