5-5 「基本から始まる強さ」
弱い朝日が空き地に落ち、鉄屑がほんのり光っていた。
その光の中で、ナユタはひとり目を閉じていた。
少し離れた場所で、ルシファーは腕を組んだまま、
その小さな背中を静かに見つめていた。
ナユタの瞳のふちから、青い粒子がぱっと散った。
一瞬だけ火花みたいに浮かび、彼は息をのんだ。
けれど光に触れる前に、霧のように消えていった。
「……でてくれない。
あの時はドローンを止められたのに。
どうして今日は出ないの……?」
ルシファーは黒い羽をゆるく揺らしながら歩み寄る。
「ナユタ」
振り返ったナユタは、困ったように唇を噛んだ。
ルシファーは肩をすくめた。
その表情は淡々としているが、声はどこか柔らかい。
「そんなもんに頼るな。
不安定な力は、裏切るときに限って派手に裏切る」
風が、二人の間を通った。
朝の匂いがわずかに動く。
「じゃあ……どうすれば、いいの?」
ナユタは目を伏せた。
胸に残る焦りが、喉の奥で小さく鳴った。
ルシファーはため息をひとつ。
地面に足を開いて構えをつくる。
「基本だ。
力が出ようが出まいが、体が動けば戦える。
まずはそこからだ」
ナユタは一瞬だけ迷ったが、すぐに頷いた。
両足をそろえ、ルシファーの正面に立つ。
「……やる。やってみる」
ルシファーは指先で合図をし、静かに息を吐いた。
空気がわずかに澄んだように見えた。
彼は足を前へ滑らせる。
体の線がゆっくりと流れ、ひとつの形へとまとまっていく。
足の運び、膝のしなり、肩の開き──
それらが同じ速度で滑り、乱れが一つもない。
朝の光が、その軌跡を細くなぞっていった。
派手さはない。
ただ、美しい。
静かな強さが、流れのすべてに宿っていた。
ナユタは息をのみ、目を奪われた。
「……すごい」
ルシファーは動きを止め、軽く息を吐いた。
その表情は変わらず無表情なのに、どこか誇らしげに見える。
「当たり前だ。
で、お前もやるんだよ。ほら、構えろ」
ナユタは慌てて構える。
二人きりの朝が、ゆっくりと動き始めた。
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