4-1 「黎明の街路」
通路の奥から、淡い朝の光が差し込んでいた。
冷えきった鉄骨に反射して、白い光が静かに揺れる。
アンダーグラウンドの暗がりが、少しずつ薄れていく。
ナユタは目を細め、光の方へ駆けだした。
両腕を広げ、まるで光を抱きしめるみたいに笑う。
「うわっ、まぶしっ……! ねぇルシファー! 朝だよ! 朝っ!!」
「……見りゃわかる」
「いいじゃん、朝のにおいするっ!」
肩越しに差し込む光が、彼の髪を透かして揺らす。
ルシファーが階段を上がると、ナユタは先に飛び出して外を見上げた。
下層街は、夜の名残をわずかに残した朝の顔をしていた。
ネオンは消えかけ、空は灰と白の境目。
路地裏の水たまりが光を跳ね返し、金色の粒がきらめく。
「こんな時間に行くの?」
「人がいないうちに済ませる。それが一番楽だ」
「ふーん……じゃあ競争しよっか!」
「……誰とだ」
「ぼくだよ!!」
ナユタはルシファーの返事を待たず、路地を跳ねるように走り出した。
ブーツの音が、しんとした朝の街に弾ける。
「おい、離れるな」
「だいじょーぶ! ぼく強いし!」
「……面倒なガキだ」
ルシファーは低くぼやきながらも、その後ろ姿を見失わないよう歩調を合わせた。
そのとき、カメラのシャッターのような音が頭上で鳴った。
偵察ドローンが、二人を追うように旋回している。
青白いライトが、まだ眠る街の壁面を鋭く切り裂いた。
ナユタは立ち止まり、にやりと笑う。
「ねぇルシファー。あれ、ぜったいぼくらのこと見てるよね?」
「……ああ」
「だったら、ちょっとだけ……ね?」
「やめろ」
「見てるだけ〜!」
その瞳の奥に、星屑のような光がきらりと灯る。
目尻から、青白い粒子がふわりとこぼれた。
それは砂のようにきらめき、朝の光をまとって宙を漂い、
まるで風に乗る花びらのようにドローンへと滑っていく。
接触した瞬間、機体がピタリと静止した。
ライトが点滅し、宙で一度くるりと回転してから、無音で落下する。
「うわーっ、ほんとに止まった!」
ナユタは駆け寄って、落ちていくドローンを指差して笑った。
「ぼく、何もしてないのに〜! 見てただけ〜!!」
「……星屑を撒き散らすな」
「へへっ、撒いてないもん。勝手に出たんだもん」
ルシファーは肩をすくめ、深く溜息を吐いた。
「……やれやれ、ほんっと、手がかかる」
ナユタはくるりとルシファーの前に回り込み、ドローンの真似をして両腕を広げた。
「見て〜! ドローン撃墜王ナユタ〜〜!」
「調子に乗るな」
「でも見た? 今のぼく、超カッコよかったよね!? ね!?」
「……黙れ」
「へへっ!」
路地に落ちたドローンは霧に沈み、光だけを残して消えた。
静けさが戻ると、ナユタの笑い声だけが、朝の街に明るく響いていた。




