3-7 「夜明けの群影」
夜明け前のアンダーグラウンドは、鉄と油の匂いが濃く沈んでいた。
天井の冷却管から落ちる水滴が、床の水たまりに静かな輪を広げる。
壁際の配管には白い蒸気が滲み、吐く息は湿気と混ざってすぐに消えた。
薄暗い通路の奥で、黒い影が蠢く。
羽が裂けた悪魔たちが、うずくまるように群れていた。
小さな羽音と低いざわめきが、濃い空気の底をかすかに揺らす。
群れの一匹が、だらりと尻尾を垂らしていた。
その背後で、軽い足音が忍び寄る。
10歳になったナユタが、尻尾を両手でがっしりと掴んだ。
次の瞬間、全身で力を込めて引っ張る。
「グシ……ッ」「ギギ……」「グフッ……!」
濁った音がいくつも重なり、地下全体が波打つようにざわめいた。
尻尾を引かれた悪魔が体をのけぞらせ、翼をばたつかせる。
ナユタはそのまま口を開き、歯を尻尾に食い込ませた。
「グフ……イタイ……!」
短くひしゃげた声が響き、群体全体がざわりと震える。
数百の影が連動し、湿った通路が生き物のようにうねった。
暗がりの奥から、金属を踏むような靴音が響いた。
ひとつ、またひとつ。
その音は群れのざわめきを押し返すように、まっすぐこちらへ近づいてくる。
やがて、影の向こうに白銀の翼がゆっくりと広がった。
湿った空気がかすかに震え、悪魔たちが一斉に身を縮める。
羽ばたきが空気を揺らし、薄闇の中に淡い輪郭が浮かび上がった。
ルシファーが通路をゆっくりと歩いてくる。
靴音が湿った鉄床に重く響き、緊張が一気に張りつめた。
群れの悪魔たちが本能的に背を丸め、道を空ける。
「……ガキ、いい加減にしろ」
その声が響いた瞬間、群れが一斉に沈黙する。
ナユタは尻尾を噛んだまま顔を上げ、にやりと笑った。
「へへっ、油断するほうが悪いんだよ!」
静まり返った空間に、ナユタの笑い声だけがこだまする。
湿った鉄の空気の中で、黒い群れが小さく身をすくめた。
みなさんこんばんは。3章まで公開させていただきました!
いかがでしたでしょう?
来週からは毎週金曜日に投稿予定ですので、これからもよろしくお願いします!
noteには設定やキャラクターデザインなどをこれから掲載していく予定なので
そちらも見ていただけたら幸いです!




