3-2 「遺伝子の子」
夜風が奥から吹き抜け、冷気が肌を撫でた。
ルシファーの前に立つアザゼルの体に、わずかな緊張が走る。
その瞬間、暗い通路の奥で、影がざわめいた。
複数の気配が、湿った空気とともに押し寄せてくる。
ルシファーは大きく息を吐き、わざと気の抜けた声を出した。
「よぉ、夜勤ごくろーさん!」
闇の奥から、悪魔たちが姿を現した。
牙を剥いた獣のような笑い声とともに、次々と這い出してくる。
ルシファーに気づくと、一斉に歓声を上げ、じゃれるように群がった。
アザゼルは「やれやれ」と言いたげに肩をすくめ、腕に抱いていたナユタをそっと地面に下ろした。
ナユタの目の前に、よだれを垂らした悪魔がのっそりと顔を寄せる。
黒い舌がぬるりと動き、幼い顔をなぞった。
「ふぇ……!」
ナユタがびくりと肩をすくめ、小さく身をよじった。
「食いもんじゃねぇ!」
ルシファーの怒鳴り声が響き、悪魔の額に拳骨が落ちた。
「グフ……ハラヘッタ」
悪魔が鼻を鳴らすと、周囲の悪魔たちが一斉にくぐもった笑い声を上げた。
ルシファーは片手で悪魔をどかし、ちらりとナユタに目をやる。
「で……こいつ、なんなんだ?」
アザゼルへと視線を投げ、口元だけで笑った。
アザゼルは短く息を吐き、低く答える。
「レインから、緊急で送られてきた」
ルシファーの笑みが、わずかに消える。
「あのゼウスの科学者か」
「こいつの中には……俺の遺伝子が入ってる」
アザゼルの声は淡々としていたが、空気が一瞬で張りつめた。
ルシファーは目を細め、ナユタとアザゼルを交互に見やった。
「おいおい、マジかよ」
アザゼルはほんの少し視線を落とし、呟くように言った。
「レイン、無事だろうな」
ルシファーはその言葉に反応せず、ただ沈黙で返した。
地下の空気が、わずかに重くなった。




