2-7 「戦友」
ルシファーは静かに目を開き、崩れた街並みの向こうに広がる夜空を見上げた。
喉の奥で息をひとつ転がすように吐き、肩がわずかに上下する。
その仕草は、ほんの一瞬だけ、過去の記憶に沈んだようだった。
「嫌なこと、思い出しちまったなぁ」
崩れかけた壁の隙間から夜空の光が差し、千切れた翼が瓦礫の上に散らばっていた。
血と泥に沈む白い羽の群れのあいだから、呻き声がかすかに漏れる。
翼をもがれた天使たちが、瓦礫の上で身をよじらせていた。
空気は血と塵の匂いで満ちていた。
夜が息を潜め、世界が一瞬、音を失う。
「対象部隊、再収束──撤退指示、完了」
ノイズ混じりのゼウスの声が夜空に響き、破裂音のような電子ノイズが空気を裂いた。
天使たちは光の尾を残して夜空へと飛び去っていく。
ルシファーは背を向け、肩越しに後ろを見た。
「撤退したな」
肩をわずかに落とし、夜空に浮かぶ光の尾を見送った。
「あれはまた来るぞ。首輪付きだからな」
ルシファーが天を見上げ、片口だけで笑う。
その笑みには、冷たさと、次の戦いを知る者の余裕があった。
「俺だけなら、どうにでもなる。だがこいつは……」
アザゼルは短く吐息を漏らし、ナユタをかばうように抱きしめる。
ルシファーがナユタの瞳を覗き込み、ゆっくりと顔を近づけた。
「目の中、星だらけだな」
彼はナユタの鼻先をツンと突いた。
ナユタが小さく声を漏らし、眉をひくつかせる。
その幼い反応に、ルシファーは鼻で笑った。
「俺も星なんだぜ。“モーニングスター”ってやつだ」
「アザゼル、来るか?
俺のねぐら、アンダーグラウンドならお前のとこよりは安全だぜ」
アザゼルがわずかに息を吐く。
ルシファーは勝ち誇ったように笑った。
「決まりだな、戦友よ」
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