2-5 「堕天の光」
ルシファーは天使たちを見上げ、ゆっくりと口角を上げた。
「ゼウスの犬……」
天使たちは何も言わない。
感情のない瞳が、ただ冷たくルシファーを見下ろしている。
ルシファーはナユタを指さし、アザゼルへと視線を向けた。
「泣かせるなよ。……気が散るからさ」
彼は踵を返し、再び天使たちに向き直る。
その瞳から、軽口の色がすっと消えた。
静かに、しかし揺るぎない声で呟く。
「光が、貴様らだけのものだと思うな」
ルシファーの両の掌がゆっくりと開かれた。
そこから伸びた光が夜空を走り、無数の細い筋となって広がっていく。
光は網のように交差し、包囲していた天使たちを一体残らず捕らえていた。
ルシファーは静かに天使たちを見据えたまま、微動だにしなかった。
夜の空気が張り詰める。
彼の体が、音もなく宙を裂いた。
黒い残光を引きながら、天使たちの間を稲妻のようにすり抜ける。
その後を追うように、光の筋が空を駆け抜けた。
まるで意思を持つ獣が獲物を追うように、ルシファーの動きをなぞる。
次の瞬間──
光の軌跡が天使たちの身体を貫き、白い閃光が連鎖する。
翼が弾け、羽根が雨のように降り注ぐ。
空中に浮かぶ輪郭が、ひとつ、またひとつと光に飲まれて消えていった。
静寂を切り裂くのは、閃光と破砕音だけ。
ルシファーは振り返ることもなく、ただ光に追わせるように天使の群れを薙ぎ払っていった。
たった数秒。
光が収束したとき、天使たちの半数以上がすでに姿を消していた。
羽根の残骸が静かに落下していく。
パラパラと地面を打つ音だけが、あたりに響いた。
誰も声を上げなかった。
敵味方の区別なく、ただ“力の差”だけが場を支配していた。




