2-2 「沈黙の包囲」
夜の下層街。
静まり返った通りに、塔兵の足音がじわりとにじみ出すように広がっていった。
赤いドローンの光が、古物商の壁をなぞるように揺れる。
一歩、また一歩。
金属のブーツがコンクリートを踏み鳴らす音が、空気を張りつめさせていく。
薄暗い店の奥。
棚のすき間に、アザゼルが立っていた。
右腕には小さな赤子、ナユタ。
泣き止み、彼の胸元に顔をうずめている。
「……時間の問題だったな」
低く、乾いた声。
そのまま視線をドアへ。
外には塔兵が幾重にも重なるように配置されていた。
「識別コードなし、対象二体。
一体、堕天体。
警戒レベル最大。交戦許可待機。」
無機質な合成音声が夜に響く。
だが、整然と並んでいたはずの塔兵の列には、わずかな揺れが走った。
銃口が揃いきらない。
アザゼルの姿は、奥の闇に隠れて見えない。
それでも彼らの背筋を冷たいものが這い上がる。
あの日の光景が、兵たちの脳裏をよぎる。
映像で、報告書で、血の雫を散らしながら堕ちていった惨状。
その記憶が、闇の奥を“怪物の巣”に変える。
ドローンの光が、入り口を一瞬だけ撫でた。
奥の棚のすき間、アザゼルの仮面の縁をかすかに照らし、すぐに消えた。
「……本当に、やるのか」
「あいつ、堕天前は──」
囁きが列の中を這うように広がる。
引き金を握る指先が汗ばんで、銃身がかすかに震えた。
「構えを崩すな!」
隊長は自らの震えを打ち消すように怒鳴った。
「“元・天使”だ!」
命令の声がなければ、列は崩れていた。
兵たちの身体がビクリと跳ねる。
恐怖と服従が入り混じった空気が、通りをさらに冷たくした。
誰も踏み込みたくはない。
そこにいるのが“人間”ではないと、本能が知っている。
夜の闇がじわりとひりつき、
静寂の中で銃口の震えだけが音になった──。
誰も、次の音を出せなかった。




