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8.『藍』の魔女

めちゃくちゃマッハで進めました!

宿舎での生活は快適だった。

レバリーでの仕事が無くなった寂しい思いは退勤後の書庫漁りで気を紛らわせた。


あのあと襲撃してきた人間を尋問したらあっさりアジトの場所を吐いたらしく、襲撃された日から3日後にアジトを叩いた。


アジトの書斎にあった各販売元や取引先として王城関係者も関与しているという証拠も見つけた。

王城環境課、管理課、経済課など主に王城関係に勤めている古株の重役が片っ端から掃除され、幾分か王城も綺麗になったらしい。


事態がひと段落してから諜報部隊の功績として褒賞が出て、褒章を掲げて皆と飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをした。

でも相変わらずユリアを笑わせることはできなくて、私は暗殺部隊には行けずじまいだった。


ユリアが笑うにはどうすればいいと諜報に聞いて周って一通り試したが結果は惨敗し、本人に聞いたら「アイが心から笑ったら私も笑えるわ」と言われた。


アルカイックスマイルも習得して、ユリアとの地獄の訓練が終わった後も笑っていたらしいし、私は笑えていると思うのだけどそれとは違うらしい。

目の前で美味しいものや最近できた美術館などを思い浮かべて笑ってみたけど違うと言われた。難しすぎる課題だ。


ジュースを抱えながらウンウン悩んでいると酔っ払ったユリアがワインをがぶ飲みしながらこちらに来た。


「褒章もらったのに何シケた顔してんのよ〜。

あ、レバリーの件?それだったら大丈夫よ〜、

隊長がレバリー建て直す資金ほとんど出すらしいし、レバリー側は建物が綺麗になったって喜んでいるくらいよ。」


酔っ払いながら良い情報を教えてくれたユリアに感謝した。

「時間はかかりそうですがお姉様達も仕事をやりやすくなるでしょうし、心配していたので安心しました。


レバリーが新しくなる頃には私も暗殺部隊に行って一人前になりたいのですが、上手くいかなくて悩んでいました。」

しょうがないわねぇと言いながら私の頭をぐしゃぐしゃに撫でながらユリアが言った。


「心から笑えてないのよアイは。自分の幸せとか考えたことある?

何かやりたいことはあるみたいだけど、それをやり遂げたあととか考えてるの?


人生は目標を達成したらゴールじゃない、そこからがスタート地点なのよ。

ほら、自分の幸せとか考えてみなさい。」


私の幸せは、妹を見つけて妹を幸せにすること。

色々な場所を一緒に旅して気に入った国に住むのもいいし、帰ってきておじいちゃんおばあちゃんの村でお店を経営するのも良いな。


珍しいものを見つけたら2人でわっとお祭り騒ぎするのも良いし、温泉にゆっくり浸かるのも楽しみかも。


考えれば考えるほど記憶の中の妹が鮮やかな感情を私に伝えてくれる。今まで大変なことばかりで辛い思いをしてきたけど、今度はきっと喜んでくれるかな。


「今度こそ『一緒に』幸せに生きれるかな。」

一番大事にしたい思いがつい口に出たあと、ワインを飲みながら見守ってくれていたユリアが「ちゃんと考えて結論出たのね良かったじゃない」と、言いながらにっこりと笑っていた。


「良い?その気持ちを絶対に忘れずに生きていくのよ。


特に暗殺なんて、強い意志がないと生きて帰れない時だってある。

何か絶対に自分の中で譲れないことを考えておけば、どんなに這いつくばってもボロボロでも帰ってこれるから。


暗殺も諜報も、もし任務に失敗したらそのあとはとにかく生きて帰るのよ。

失敗しても良い、1番ダメなことは死んでしまうこと。


今思った幸せを自分の中の核にしなさい。心臓じゃないわよ、あれは生きる意味をしまう場所なの。

あなたはその核を元にして幸せを形にしなさい。


暗殺部隊に行っても絶対に生きて帰ってくるのよ。」


優しい表情でユリアが激励してくれた。

酔っ払っていても芯はしっかりしているお姉様なんだなと実感した日だった。



翌日、私は暗殺部隊の訓練に取り掛かることにした。

だけどレイ先輩と手合わせした時に、

「お前、その道の仕事をしていただろう。少し癖を直さなければいけないところもあるが及第点だ。任務をこなしながら教えていこう。」と言われた。


任務でもすぐにOKをもらい、暗殺部隊に入った。

元々簡単なお仕事としてやっていたことだから呼吸するようにこなしていける。セキュリティも無効化できるところを見て、レイ先輩に感心された。


ナイフを投げる時に周りの空気が少し揺れるところとか魔法発動時、周囲に魔力のうねりが出るところ。

気になった箇所を都度訓練で直してもらいながらめきめき上達させていった。


いつの日か1人で色々な任務をこなすようになっていった。諜報部隊にバレるととんでもないことになると思ったのか、あの襲撃事件を皮切りに諜報の仕事はユリア1人でもこなせるくらいの量に減ったらしい。


何か報復されると思っているのか、各所からの暗殺を仕掛けてくる回数も減ったらしい。


しかし他所の国の貴族から暗殺の依頼が増えて、暗殺部隊は忙しくなった。

浮遊魔法を使える私は国を飛び回ると言う点において群を抜いて優秀らしく、積極的に各国の依頼をこなしていくようになった。


暗殺の依頼をこなしながら妹を探したり、見たことないか人に聞いたりしたけど、そんな人は見たことないと言われただけだった。


役所やギルドに調べてもらってもそのような者はいないと言われ、最後の一国であるアヴァメリ国でも見つからなかった。


そもそも名前を思い出せないため、容姿を伝えたけどそれだけではだめだった。もし変装魔法で姿を変えていたらそれこそ見つける手立てがなくなる。


名前を何とか思い出せないか諜報部隊の書籍を漁ったけど目当ての物はなく、暗中模索の日々を過ごした。


色々な国で依頼をこなし寝る間を惜しんで妹を探していたけど、とうとう妹を探す手段が手詰まりになりかけた頃、隊長から呼び出された。


「君の功績を讃えて、王城書庫への特別閲覧許可が出ました。これが許可証になります、今から行っても良いと言われているので是非行ってきてください。


最近貴女が死に物狂いで探しているものが見つかると良いですね。」

お礼もそこそこに、すぐ踵を返した。一刻も早く手がかりを見つけたい、時間が惜しい。何かに追われる焦燥感が拭えなくて早歩きで王立書庫へ向かう。


書庫に着いて真っ先に探すのは歴史書だ。

ずっと前から国の名前に引っ掛かりがあって、違和感が拭えなかったためだ。

どこを探してもまともな歴史書がなかったけど、ここには唯一きちんとした内容をした豪華な装丁の分厚い歴史書があった。


まずは私が生まれた年に遡り、私の死んだ9年後から順番に見ていった。


集中して目を通し、私が生まれてから今に至るまでの内容を全て読み込んだ。理解し難い内容ばかりで私の頭は混乱して脳がグラグラ茹る感覚がしたけど、何とか内容を飲み込む。


まず、年数を見てすぐに理解した。私はあのあとすぐに再生したと思っていたけど死んでから20年経っていたらしい。いつのまにか32歳になっていたようだ。


きっと見つからなかったのは妹を少女の容姿で伝えていたせいだろう。

20年も経っていれば彼女はとても綺麗な女性になっているはず。見つからないはずだと大きなため息を吐いた。


私の年齢は32歳になっているが、肉体は9歳の時に生命活動を終えたため、リッチになっても成長せず幼い頃のままだったのだろう。


自分の見た目で年数を判断してしまっていたのも悪かった。

そもそも書類に記入する時に年数がおかしいと気づかなかったのだろう。


国の名前に感じていた違和感の正体も無事に判明した。村で歴史を勉強した頃はあまり理解できていなかったけど、サンハ聖王国は私と妹が住んでいたレゲリア聖王国の跡地に建国した国らしい。


11年前の冬の月、とある魔女が一晩でレゲリア聖王国の王侯貴族、国民全てを燃やし尽くし、魔女の怒りのような業火に灼かれ続ける大地となったと書いてある。


その魔女は多くの民を殺害したとしてサンハ聖王国が魔女を処刑し、恨みの連鎖を断ち切ったと書いてある。

そのあとは小さな事件があるくらいで特に歴史に乗る話題は無い。


歴史書に再度目を向けていると、ふとサンハ聖王国で処刑された魔女の名前が目に入った。


ー魔女裁判ー

魔女『ルベライト』を火刑にて公開処刑した。

上級神官20名にて神聖魔法を行使し、完全に魔を祓ったのち灰にして聖女の御力で封印した。

現在はサンハ聖王国大聖堂の地下にて厳重保管されている。


名前を見た途端膨大な記憶が流れ込んできた。

私がリッチになった理由、今までの正しい記憶。

あの暗闇で見たものは無意識で改変していた記憶だった。


_______本当の過去___________________________



私は「アイビー」、妹は「ルベライト」2歳差の可愛い妹。でもルベライトって名前があまり好きじゃないって本人は言っていて、彼女の好きな果物にちなんでザクロって呼んでた。私はアイ。


私の生まれ故郷はずっと南にある国の田舎町で、そこは治安が悪く殺人事件は日常茶飯事だった。


おまけに子供を狙う事件も増え始めて、3人で命からがら船や馬車を乗り継いでこのレゲリア聖王国に逃げてきた。


最初は穏やかに過ごしていたが、ある日母は父と名乗る男を私たちに紹介した。神官を務めているらしい。


その男と一緒にいるようになってから、母は私たちを部屋に置き去りにしてどこかへ出かけるようになってしまった。


まだ幼い妹は私がつきっきりで、昔母がしていたようにミルクやオムツのお世話をした。

そのころはまだご飯もミルクも用意してくれていて、母も日を跨ぐ前には帰ってきてくれていた。

妹と遊びながら、お世話もして母の帰りを待っていた。


妹が離乳したあとから用意されていたご飯もあまり用意されなくなって、お金が数枚たまにテーブルの上に置かれるだけになった。


幸い小さい頃に母と買い物をしていた記憶があったため、計算はお店の人にお願いして教えてもらいながら食料を買って生きていた。


そこから1年が経った頃。

ついに母は何も言わず私と妹を置いて父と出て行き、何がおきたのか分からなくてそのまま部屋にいたけど家賃が払われなかったため大家に追い出された。

私が5歳、妹が3歳の時だった。


行く充てなく彷徨った先に着いたのがあの死体のある小さな小屋だった。

結局寒さと飢えに耐えきれずまたすぐに街を彷徨った。


歩いた先に足を悪くしたおばあさんが買い物袋を落としているところを見て、落ちたものを拾って手伝った。そのおばあさんが孤児院のシスターだった。


最初の頃は孤児院の子供達に警戒されていたけど、すぐに打ち解け合い身体を悪くしたシスターの手伝いを始めた。


孤児院での思い出は大体前の記憶でも合っている。

だけど2年経ったあの日、地獄のような出来事が起きた。


レゲリア聖王国の言い伝えでは50年に一度、国に1人必ず魔女が現れ災厄をもたらすとされている。

それが今なのだと、魔女が孤児院に現れたという噂が街で溢れていた。


噂が出始めてすぐに妹は孤児院から一歩も外に出ないように言い聞かせた。とても危ない場所だから中で同い年の子達や幼い子達を守ってあげてとお願いしていた。


私と妹がこの国では滅多に見ない黒髪だったのもあり買い物や畑仕事をするために外に出ると、「あの黒髪が魔女の証だ」周りの人が口々に大声で私を罵った。


中には石を投げてくる大人もいた。子供達は私を魔女だと叫んで遠ざけるようになった。


シスターが本気で怒って否定してくれたおかげでその噂は一時期収まっていたが、それもシスターが亡くなった2年後の春にはもっと酷い内容で私を魔女だと怒鳴る声が溢れた。


孤児院の子供達はすっかり恐怖して、外をまともに出歩けなくなった。出ると大人達が子供を引きずって、

魔女はどこだと怒鳴ってきたり殴りつけてきた。


普通に生活するだけで食料や生活用品は無くなるため、閉店間際などにこっそりと変装しながら買いに行った。幸い魔法が得意な子がいたため、なんとか食料には困らなかった。


お金はシスターが亡くなる前に貯めておいてくれたものを少しずつ切り崩した。


だけどそのひと時の平穏も、1週間経つ頃には崩れていった。孤児院の扉を叩いて怒鳴ってきたり直接乗り込んでくる大人も増えてきて、どうにもできなくなってしまった。


みんな疲弊してもう否定することもできなくなってしまっていた。それでもなんとか幼い子供達が飢えないように子供達で助け合っていた。


その1週間後、あの事件は起こった。



いつもどおり夜のお祈りを済ませてからみんなそれぞれの部屋に戻り寝静まった頃、扉が開け放たれ大勢の大人が乗り込んできた。


騎士や街の大人達が松明と槍のようなものを手に持ち、孤児院に襲いかかってきた。

1人の男が大声を上げる。


「ただちに魔女を排除せよと聖王様からの勅命である。この勅命は神託であり、この国を揺るがす災厄を退けるため国民は一丸となってこの命を執行するようにとのお言葉をいただいた。


よって今から我が国を滅ぼさんとする忌々しい黒髪なる魔女が出てくるまで、もしくは居場所がわかるまで我々が見つけた者はすべて魔女に属するものとして処刑する。」


ドン、ドン、と槍を叩く音がする。床を強く踏み鳴らす音が静まった空間に響き渡る。

私はすぐさま足音を忍ばせながら隠し扉を使って、妹のところに向かった。


「起きて、早く起きて。タンスの下の通路を抜けて城壁のとこにこっそり作った秘密基地の下の通路を通って国を出て。先に北の国に向かっててくれない?


私もすぐに追いつくから後ろは絶対に振り向かないで進んで。目印があると私が見つけやすいから、この白いカーテンをローブ代わりに羽織っていってね。

食料は秘密基地にあるものを全部持って行って。


お金は靴とかに分けて入れて、物を買う時以外は絶対に出さないこと。」


一方的に告げて妹を無理やり覚醒させて服を着替えさせた。まだ下ではドンドンと槍で床を突く音や床を踏み鳴らす音が聞こえる。


下の異様な気配を悟ったのか妹は涙目で、

「絶対約束してね?絶対私に追いついて北の国に行ってくれるって、約束して。」と震える声で、だけど強い眼差しで私を見ていた。


私は極力微笑んで妹に言った。

「ゆびきりげんまんしよう?終わったらすぐに行くこと。いいね?」

暖かな手を重ねてゆびきりげんまんをしたあとぎゅっと力強く抱きしめた。


残された時間も少なくてぎゅっとした後はすぐにタンスの下に妹を押し込み、タンスの床板を元に戻し分からないように服をかけたりして誤魔化した。


そのあと急いで自分の部屋に戻った。

扉を開けて居場所を大人達に伝えようとした瞬間目の前の扉が蹴破られた。


「魔女はここか!!!聖王の神託により魔女を排除する。おいお前、こいつ以外に魔女はいないな?いたらお前も魔女に属するものとして処刑するぞ。」


大人達の隙間から小さい子供が1人震えながら前に出た。「本当だよ。魔女は1人しかいない、沢山いたらとっくの前にこんな孤児院なんて無くなってるよ。

こんなところに複数魔女がいてたまるか。」


精一杯声を出してこちらを涙目で女の子が睨む。彼女が告げたことを信用したのか全員口々に私にむけて憎悪の感情を向ける。


こんな悪辣な魔女はいない、非道な魔女には神罰をくだせ、忌々しい黒髪めと思いつく限り罵ってきた。


2年前から憎悪にさらされている私にとっては慣れたもので別のことを考えていた。


私に恨まれる懸念や場所を教えることで自分も魔女に属するものとして殺されるかもしれない恐怖。

負の感情に埋め尽くされても他の子達を守るため私の居場所を告げに、あの大勢の大人達(恐怖)の前に歩み出たこの子が一番神託に近い行為をしているのではないか、と。


私以外に黒髪の少女(いもうと)はいないと言ってくれた。それだけでもう望むものはない。

むしろ今までよくみんな理不尽に耐えてくれていた。怯えていた小さい子達に申し訳ない思いを抱きながら大人達を見据える。


「そうだ、黒髪の()()はここに私しかいない。

魔女がいるっていう根も葉もない噂を信じる馬鹿な大人達がこんなに大勢いるなんて笑えてくるね。


大方聖王が裏でまた巨額の富を使い切って税金を上げるせいで溜まるヘイトを、身寄りのない善良な市民に悪辣な魔女という空想の化け物の皮を被せて国民の矛先を向けたかったんだろうね。


そしてあんたたちは見事にハマったわけだ、バカだよね大人って。まあ、この孤児院よりはマシか。


お人好しのシスターに、はいはい言われたことを聞くことしかできない子供達。

そんなおとぼけ達と過ごすのにも飽きてきてそろそろ出ていこうかなと思ってたのに。


まさかこんなくだらない噂で人生終わることになるなんて。もっとあいつらに黒髪なんていないって口止めしとけばよかった。」

精一杯の悪態をついて魔女とやらを演じる。


ここにいる孤児達やシスターは善良な一市民で私とは関係ないのだと。騙していた悪者は私1人だけだと。

初めて負の矛先を自らに向ける。


愚かな王の言うことを聞く無能な操り人形と化した騎士、証拠のない噂を馬鹿みたいに信じ込んで子供達を傷つけた愚かな大人達。


そして、この元凶を作り込んだ愚王。全てを苦しめて殺してやるという恨みだけで精一杯奴らを睨みつけた。


「まだ力のない子供達を傷つけ踏み躙ってまで自分たちの私欲を満たそうとしている欲に塗れた俗物が。


この怨嗟は、お前らが生き絶えるまで消えぬことはないだろう。その小さな脳でしかと覚えておけ塵芥共め。」


その一言がよほど効いたのか顔を歪めた騎士の雄叫びと共に大人達が私に向かって槍を向け、そのまま大多数のに体を貫かれた。

痛みは一瞬で、あとは何も感じなかった。


そうして私が倒れたあと、子供達はどうやら魔女に唆されたのだとして別の孤児院に移すというような話が遠くで聞こえた。


よかった、少なくとも子供達は無事だ。妹もこんなクソみたいな国から逃げられているといいけど。


安心してしまったせいか、意識はどんどんぼやけて闇に溶けていった。



暗闇の中、身を焦がすほどの怨嗟に染まった藍色の炎が一つ燻っていた。

あまりにも内容が重くなってしまったので小話を少々置いておきます。よければ箸休めにご覧ください。



ーピアトラ国王都内職員食堂にてー


昼食をとる広いテーブルの一角に座っていた事務課の女性は肩を振るわせながら隣の同期に話しかけた。

「ねえ聞いた?宿舎に出る幽霊の噂、私怖くて部屋から出られないんだけど!」


同期は頷きながらカレーを口に運ぶ。

「ああ、あれだろ。腹部が異様に膨らんでいてフラフラ徘徊してる幽霊ってやつ。あれ定期的に徘徊しているらしいぞ。」


女性職員は悲鳴をあげる。

「ちょっとそんなこと言われたら夜寝れなくなるじゃないの!!やめてよーーー」

そのあともワイワイ話は続いていき、いつのまにか全く関係のない話に変わっていた。


そんな話を少し離れた席に座っていたアリスとケイト、ユリアとレイは聞いていた。


アリスがサラダをフォークでつつきながら口を開く。

「あの噂、大体予想はできるけど一応みんなの意見をきいておくね?」


ユリアは無言で頷く。ケイトが大袈裟に身を震わせながら話し出した。

「僕幽霊とかは苦手なんですよ。ほら幽霊って切れないじゃないですか、生きてる人間だったら怖くないのに…」


レイはカイトを無視して話す。

「そんなに気になるなら夜みんなで見てくれば良いんじゃないか?

私はこの件興味がないし、他に用事があるから遠慮しておく。」


「そう言ってレイ先輩、僕と同じく怖いだけなんじゃないですか?」ニヨニヨ笑いながらケイトが話すが無視される。


「そうね、まあ諜報って情報の最先端を掴んでおかなきゃいけないのもあるし、行きますか。ね、ユリア、ケイト?」


ケイトは肩をすくめて同意する。

「一番の古株に言われたら従うしかありませんね。

なんせ50年前からここの管轄だったんですから、幽霊なんかよりベテランですしね。


…おっとアリス先輩、フォークを武器化して投げたらいけませんよ、ここ食堂ですよー!物理的暴力反対!!」


すぐさま手を挙げて降参のポーズをするが、複製魔法でアリスはフォークを10本ほどケイトに向かって投擲していく。


他の職員に向かっていきそうなものはレイが片手でひょいひょいと回収していくのを横目にユリアはため息をつく。

「絶対行かなきゃダメなのね、それ。深夜はお肌に良くないから出歩きたくないんだけど…はあ、アイはここ最近忙しそうだし誘えなさそうだものね。


仕方ない、あの子も頑張ってるし私も頑張りますか。」


そして深夜。みんなが寝静まった夜に作戦は決行した。

幽霊なら幽霊できちんと確認しておくのと、人間なら人間で見た目について改善要求することが目標の深夜任務。


大まかに目撃された時間を算出し、明日も仕事だし早めに終われるように幽霊が出現する時間のみ集合した。


そしてすぐにそれは見つかった。

正体はお腹にたくさんの本を抱えながら毛布を被って歩いていたアイだった。



・アイ視点


何か夜にコソコソしてる人たちがいるなーと思ったら諜報部隊の3人組だった。

こちらに来て、静かにアリスが突っ込む。

「やっぱりあんただったのね。なんか予想はついてたけど予想通りすぎて拍子抜けしたわ!!」


「やっと寝れるわ。アイって毎回その格好で出歩いてるの?バッグの中とかに入れて持ち歩いた方がいいわよ、不審人物扱いされているわ。」


ユリアが小さくあくびをしながら教えてくれる。

不審人物扱いはまずい、それだとどこぞの隊長になってしまう。

私は高速で頷いて改善しますと即答した。


そのあと震えているケイトが小さく抗議してきた。

「よかった幽霊じゃなくて、生きた人間で!!気をつけて出歩いてくださいよ。というかなんでこんな深夜に出歩いてんですか?」


ああ、と私は返答する。

「最近思い出したいことと自分の目標がごちゃ混ぜになってしまって寝れないからです。何かしてないと頭がおかしくなりそうで。なので片っ端から書庫の本を読んでます。」


そう伝えたらみんなは何か悲しそうな顔をして私の頭を撫で、ポケットから可愛いヘアゴムやアイマスク、飴玉を私の手に乗せた。


「寝れたら寝なさいよ。一旦休んだら思いつくなんてこともあるからあまり追い込みすぎないこと!先輩からの大事なアドバイスよ〜それじゃあおやすみ。」

アリス先輩はそう言って手を振って自分の部屋に帰って行った。


「思い出せるところだけでも伝えてくれたら私も探すの手伝うわよ。

それに誰かに今までの思い出を話すことで思い出すきっかけにもなるかもしれないし、いつでも話してみなさいな。今日はとりあえず寝るわね、おやすみなさい。」

ユリア先輩も優雅に帰って行った。


「僕は特に慰めとかありませんが、突っ走る方向性を変えたらいかがでしょう?

例えば自分の記憶を詳しく分析するとか、そうすれば夜の徘徊…ゴホン!書庫に行って疲れを溜めることも減りそうですし、おやすみなさい。」

そう言い、ケイトも颯爽と帰っていった。


深夜に唐突に現れた、嵐のような諜報3人組だった。



ちなみに後日、夜に洗濯へ行こうと思ったけどバッグを忘れて服を着ている服の中にしまい込んで移動していたら、アリス先輩に首根っこを掴まれて懲りてないんか!!と、叱られた。


バッグを忘れたと話しても聞いてもらえず、翌日の諜報部屋で私たちが深夜にわざわざ廊下にいた理由を考え反省なさいと言われ、1時間正座をさせられた。


結局意味はわからず正座させられた足が痺れた以外は特に何も分からなかった。



私が懲りないと呆れられたのか噂の対策としてアリスは掲示板に、「宿舎の幽霊は諜報部隊の新人です。

どうか生暖かい目で見てやってください。疲れを癒しに宿舎へ帰っている職員の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが何卒よろしくお願いします。」

と張ったことにより、私はあの大物のアリス先輩を困らせる新人として一目置かれることになった。


相変わらず移動が楽なので服の中にしまい込む癖は抜けないままだった。


ー完ー


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