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4.『藍』の魔女




ちなみにオーナーが用意してくれた社員寮はお店まで徒歩5分という最高の立地である。

本当に何から何まで用意してくれて、オーナーに頭が上がらない。



「おはようございます」

お店は午後9時からだけど、私は新作衣装のモデルというアルバイトも担っているため30分前に行く。


「おはようアイちゃん〜!今日も頑張りましょうね!早速だけど2着お願いね〜!」

良い声のオネェ様が大人しめの色をしたドレスを手渡してくる。低いけど愛想が良くて高めに聞こえる不思議な声帯を持つオネェ様だ。


「分かりましたすぐ着替えてきます。髪型やメイク、ポーズの指定はありますか?」


「今回はそのままでいいわよ〜大人の女性を感じたいのよ!

終わったらこの椅子に座って横を向いてそうね…この花束を持ってもらおうかしら?」


頷いて試着室で着替えて撮影を始める。

このドレスは少ない時は1着、多い時は5着ほど撮影する。


忙しい時期は撮影をする時間がなく、撮り溜めするしかないからそう言う時期の前後はとんでもなく忙しい。


無心になりながらポーズを変え衣装を変え、写真を複数枚撮られたらこのアルバイトは終了する。


撮影が終わった衣装でそのままレバリーの仕事にかかるというのが意識しなくても身につくくらい日課になっている。報酬は勤務後に大体もらえる。


午前10時〜午後3時まで接客バイト

午後5時〜午後8時まで危ないお仕事

午後8:30〜午前4時までレバリーの仕事


というのが私の日課なのだけど不法侵入者が現れたせいでいつもより疲れていたらしく、いつも以上に表情筋が仕事をしていなかったらしい。

勤務中、他のお姉様方にとても心配された。


「ちょっとアイ、あんた表情筋が全滅しているわよ。目の死に方に拍車がかかっているわ、ほらいつものおじさまが心配そうにこっち見てる。


何かあったのならオーナーに少し休憩もらえるように相談するから、私に話してみなさい。

というかそのままだとみんな心配するから早く吐き出しちゃいなさい。」


優しいナイスバディのお姉様が私をカウンターに連れながらオーナーに連絡してくれた。

バーテンダーのイケおじに好物のリンゴジュースを頼む。お姉さまは美容に良いとかでサングリアを頼んでいた。


「ほら、ぱっぱと話しちゃいなさい。甘酸っぱい話でも激甘でも、苦くても辛くてもいいから。余韻が残る味わい深い話でも良いわね…」


「そんなバリエーション豊かな話は残念ながら…噛めば噛むほど味が出る話で悩んでいる訳ではないですね。」

リンゴジュースを半分ほどぐびぐびと飲む。疲れていたみたいで心地よい甘さが身体に染み渡るのを感じながら話を続ける。


「今日の事なんですが仕事を掛け持ちしているうちの1つで職場(現場)に変な不法侵入者が現れてですね。

転移魔法持ちの男性でのぞきの趣味があって、しかも人の弱みを握って仕事をさせたいらしくて。

報酬は高いらしいけど、どうご挨拶しようかなと思いまして。」



「転移魔法を使うって人外かよほどの変人じゃないの?それか依頼して転移魔法を利用するお金持ちとか?

人の弱みを握るところといいどちらにしろ、ろくでもなさそうね。


やっぱりお得意の魔法でご挨拶してから拳で語り合うか、きっぱり拒否するしかないんじゃない?」


サングリアをグラスで回しながらゆっくり楽しんでいるお姉様があっさりと返してくる。


挨拶して終わりで済むならいいけど転移魔法を本人が使っているとしたら、魔法の撃ち合いになってどっちかが死ぬか街が消えるかしか決着がつかなそうなんだよねーと思いつつ考える。


「まあまた会った時に決めることにします。

名乗りもしないしまともに会話をする気も無さそうだったので、一体なんだったんだと気疲れしていて。


人の生活(仕事)内容を覗く趣味があるってそもそも変態ですよね、今度会った時に本人に覗きは変態ですよって伝えます。」


「ちょっとロクでもない奴じゃないの!

今度会う時は騎士団連れてしょっぴいてもらった方がいいわ!

というかなんでそんな奴と会う約束しちゃったのよ!?バックれなさい!!」

お姉様が小さく怒ってきた。美人が怒ると迫力が違うなあと眺めながら口を開く。


「でも約束しちゃったものはしょうがないんですよねぇ。

まあ相手が何かしてくるわけではなさそうなので何かあったら殴って逃げますよ〜」


「そう言う問題じゃないでしょ!」と言う迫力あるお姉様と話していたら、たまたま近くを通りがかったオーナーがうっと息を詰まらせ膝をついた。


どしたんオーナー?とお姉さんが慌ててオーナーを宥めている間、私は決意に燃えていた。

よし、乱闘しても問題ないように強めの結界を張って多少やり合ってから、仕事の詳しい内容について質問しよう。


グッと拳を握り締め、ありがとうお姉様とお礼を言ってからいつも通り仕事をこなす。決意も相まって私の表情筋はいつも通りに復活していた。



オーナーは何やら「違う、結果的にはそうなってしまったがそう言うことをしたかったわけじゃなくて、冤罪だ」と何やら小さく呟いていたが、


「体調がすぐれないのでしたら、治癒魔法かけましょうかオーナー。大丈夫ですか?」


と聞いても大丈夫、と言うだけでフラフラと裏に戻っていった。オーナー大丈夫かな。


そのあとはいつも通りに仕事をこなして1日が終わった。その日以降も滞りなく仕事をこなしていった。




あの不審者に出会ってから3日が経った日の事だった。

危ない仕事が1件しかなくて早く終わったからと街を散策して目に入ったカフェに入った。

空いている店内で適当に座った窓際の席の向かい側に例の不審者がいた。


よしきた!とやる気を出して結界を張ろうとしたら、「ここで何かしたらすぐに騎士団に引っ立てられるよ。ちなみにあそこの騎士団の中には僕と同じ看破スキル持ちがいる。」と言われたので大人しくしていることにした。


店員さんにおすすめのケーキと紅茶セットを頼む。お相手はコーヒーを頼んだようだ。

程なくしてスフレチーズタルトと桃の花の蜜を入れた紅茶が運ばれてきた。


防音魔法を張り、仕事について聞こうとした時に3日前お姉様と話した内容を思い出して本人に伝えた。

「覗きは変態がすることよ。」


目が笑っておらず口元を微笑みに変えていた目の前の不審者は目をカッと見開いて一瞬固まった後、

「違う!!!いや、覗きは犯罪だけど私が見ていたのは君の仕事振りだけだ!!」

と即座に言われた。


「でも覗いて(犯罪して)たよね?

気配消して背後からずっと観察しているから不審者か変態にしか見えない。

もう少し印象良くスカウトはできないの?まあいいや、仕事内容を聞きに来たからお願いするわ。」


「いや、確かに初対面があれは確かに僕が悪かった、だけど変態扱いされるのは心外だ!!

まあいい、いや全く良くはないが…ンン!!少々取り乱して失礼致しました。

とりあえず仕事内容についてお話しします。


僕は諜報部隊の国家公務員です。と言っても部隊を統括しているので、いわゆる長という立場になりますね。


諜報部隊と言う表向きではいますが、君の今こなしている簡単なお仕事もこの中に入っているいわゆる何でも屋。


魔法に長けている労働力を求めていたのですが丁度あの時、辺りを散策していて良かったですよ。

報酬は今まであなたが得ていた月額の3倍になります。


仕事内容によりますが早く仕事を終わらせることができればそのあとは休みになりますし、諜報の仕事も裏方であれば会話に神経を集中しながら生活することにはなりますが、基本他に気を遣わなくて良いですし表の仕事であればきっちり9時間で終わります。


どうでしょうか?それにあなたが今1番知りたがっていることの真実も知ることができますよ。」


無意識に私の眉がピクリと動いた。

手は出さないように我慢していたけど危うく反射で喉を掻き切るところだった。


手に持っていた氷のナイフを霧散させ、波打っている心情を深呼吸して落ち着かせる。

諜報部隊だからこちらが何を目的としているか既に調査済みなのだろう。


「安心してください。あなたが生物の理から外れていることに関しては私しか知りません。


諜報部隊の者達には闇魔法を扱うのに優れた魔法使い、とでも説明しておけば良いでしょう。

ここはクセが強い者しかいないので基本チームワークとは無縁ですし、個々で動いていますので他所に興味を向ける者もいませんし。


もしこの話を受けてくださったなら誓約魔法をかけて誓っても良いでしょう。


住むところはそのままで構いません。衣服は専用のものを用意しておりますのでそちらをお渡しします。

食事は必要であれば王城に食堂がありますのでそちらで。


勤務時間は大体平日の朝9時〜夜18時ですので、仕事に関してはレバリーのみを残してあとは退職なさってください。

レバリーも出勤日数を減らしていただくこともあるかと思います。


ですが基本不自由なく日常生活は送れると保証いたします。報酬が足りないのでしたら、任務達成ごとに特別手当として別途支給致しましょう。


街の図書館では浅層の情報しか得られませんよ。調べるなら情報の蔓延る深淵からでないと深層には辿りつきません。

目的のためならばもっと危ない橋を渡るのも一興ではないですか?」


魔法で契約内容を記した羊皮紙をこちらに向けて、

いかがですか?と視線で問いかけてくる。


今1番欲しいものと知りたい情報、隠したい事全てがバレている状況で断れることができるだろうか。遠回しに脅されているとしか思えない。


ただ妹に関しての情報は喉から手が出るほど欲しい。

その情報がある場所にも諜報部隊として送ってやるという意味も含まれているのだろう。


何年後になったら妹を探しにいけるのか目処がイマイチ立っていなかった目標金額までの道のりもすこし可視化できそうだ。


なら断る理由がない、今1番欲しいのは妹に関する事と妹を探すための資金。


「わかった、その話に乗ることにする。誓約魔法は掛けた相手の魔力でお互いの位置が嫌でも分かるし、縁を持つことになるから絶対嫌。


報酬は依頼達成したら特別手当を出すことと、必ず妹に関する情報のある場所に送る事。」


この男性が偉い立場にいることは理解したけど、覗かれた時点で素で話してしまっている。

特に咎められないしそのままで良いだろう。


羊皮紙に名前を書いたら契約成立したみたいだ。

職場に案内するのは1週間後にすると言い、奢りますよと言われたから遠慮なくいちごのミルフィーユとオペラを注文した。


ケーキを食べながら自己紹介をし合った。

男の名前はネルと言うらしい。年は数えていないからわからないらしく、おそらく二十代後半だろうとのこと。私は20になったばかりだということにした。


9歳までは普通に生きていたのにいきなり12歳から暗殺を生業としていたら辻褄が合わない。

自分の年齢もよくわかっていないし、そこのところも知りたいなと思った。




それから一つの仕事に専念したいため、日中のバイトを辞めることになったとそれぞれのお店で事情を話したら大層寂しがられた。


貴重な戦友がいなくなったと居酒屋を経営している奥さんに言われて、別れるのは寂しかったがなんだかむず痒い気持ちになった。


1番驚いたのは危ない仕事の方もすんなり辞められた事だ。1週間後に完全に身を引くと伝えたらあっさり了承され、そのまま辞める時まで口封じに来ることもなくいつも通り仕事をこなせた。


ネルが根回ししたのだろう。

諜報部隊の長の国家公務員はすごいなと思いながら3つの危ない仕事を今日もこなした。



そういえば王城の書庫には特別閲覧許可を貰わないと見れない魔導書が数えきれないほど存在するらしい。世界の歴史が載った書物もあるらしく、自分自身のことももっと調べることができるだろう。


功績を上げれば諜報での後学のためという理由で特別閲覧許可を貰える。

まだまだ人間も把握し切れていない未知の魔法が載っている本もあると言われ、思わずワクワクしてしまった。


これからの生活が楽しみすぎる。

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