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3.『藍』の魔女

気圧の乱高下が激しくて体調が一向に良くならず、更新が遅れてました、すみません!!




ものすごく懐かしい夢を見ていた気がする。

表情筋を酷使する夢でも見たのだろうか、顔がピクピクしている。

レバリーでの仕事までに顔の強張りが解けていますようにと心の中で呟いた。


むくりとベッドから起き上がり、髪を整えつつ洗面所で顔と歯を磨く。

働かない頭で私がこの国に来たばかりの頃を思い出した。


森の移動が楽だから変装魔法をしばらく使っていたことと、体内循環魔法が想定以上に魔力を消費するらしく空腹で倒れそうになったことは前途多難すぎた。


森を抜けた先にあるピアトラ国内の村に着いたは良いけど入り口に着いた安心感からか空腹と疲労で倒れてしまった。


その村は森の近くで毎年魔物の被害が深刻で、子供は少なくお年寄りが多いため力仕事もあまりできず、貧しい生活を強いられていた小さな村だった。


そこで魔道具兼雑貨屋を経営していたおじいちゃんおばあちゃんに拾ってもらい2年ほど過ごした。

村の中の学校に通い知識と魔法を身につけたため、

道中の路銀稼ぎに目処が立ったから王都に向けて歩みを進めた。


おじいちゃんおばあちゃんへのお礼に自然の魔力を取り込んで動くマリオネットを、村の人たちへのお礼は村全体を守る結界魔道具を渡した。

いつになるかはわからないけど妹と再会する目的を果たした後に魔道具のメンテナンスも兼ねてまた会いに行きたい。


魔法を覚えて魔物を狩り、素材や心臓となる魔石を持っていざ冒険者ギルドで換金!と思ったら、冒険者登録ができるのも16歳になってからだった。


村を出た頃には11歳くらいになっていたが、成人は16歳からであと五年ほど待たなければいけないらしい。


しかし私には魔法の知識がある。

ボロボロだがすごい量の魔法知識が詰まった魔導書を村の図書館で見つけて、内容を頭に叩き込んでいた甲斐があった。




説明を受けた町から王都にの1つ近い町で成人に見せる変装魔法を使い、素材換金をしてお金を得た。

魔物の肉を食べているため食べ物のためにお金を割く心配がないのは本当に助かった。


宿は適当に安いところをとり最低限休んだらまた次の街への道中魔物を狩る、次の場所で売るという日々を過ごして2週間、とうとう王都にたどり着いた。


だがしかし、王都でも倒れかけていた。

なぜかと言うと王都の門に魔物避けの結界が貼っていたらしく、門を潜った途端ものすごい空腹感と眩暈に襲われたから。


地面と仲良ししながら少し寝てれば治るかなと考えているうちにオーナーと出会い、トントン拍子に住む場所と仕事を得られることになるとは当時の私には全く想像できていなかっただろう。今もできないけどね。




働き始めて慣れてきた半年後から休みの日に王都の図書館へ通い詰めた。お金集めに最適な魔物を調べたいのと自分の存在は何なのか知りたかったから。


2つあらかた調べて分かったことがあった。

一つ目、私の正体はゾンビではなくリッチというらしい。

ゾンビは意思がなく魔法も使えないが、リッチは意思があり魔力を生命力として存在しているため膨大な魔力と魔法知識を有しているようだ。


確かに死んでるし、魔法の概要を学んで想像したら大体できるからこの能力がリッチ特有のものなのだろうと納得できた。


ということはあの空腹は魔力が減っているからであって、魔物肉を食べたら元気になるのは肉に魔力が多く含まれているからみたい。普通のご飯を沢山食べないとお腹が満足しない原因は食物に含まれる魔力量にあったらしい。


ということは自然の中にある魔力を取り込むようにすれば食事が必要なくなると言う便利な身体なわけである。

思い立ったら吉日、すぐに郊外に出て魔力を周囲から取り込む技術を自然にできるよう3日ばかし特訓した。


この身体は魔力さえあればご飯もなにも要らない。付き合いでの食事以外は摂っていない。

太りも痩せもしないので特に疑われたこともないからそのまま気にしないことにした。


二つ目、王都一といわれる図書館の書物と村の魔法知識に関する教科書と比較すると、村の学校では魔法に力を入れた教育が施されていたようだった。


小さな学校やおじいちゃんおばあちゃんの家の書棚にも置いてあった魔法知識の本は、どれも王都の図書館より数多くの魔法と禁忌魔法が書かれていた。


なんであの村にあんな知識の詰まった魔導書が置いていて、教育も魔法に関しては力が入っていたのかわからないけどあの時必死に勉強して多くの魔法を習得できたことは運が良かったのだと分かった。




というこれまでの1年を振り返ってみた。

調べ始めて3ヶ月後に図書館への用はなくなり、時間が空いたところに片っ端から仕事を受けて行ったため、今では人気の労働力になった。



そんなこんなを思い出しながら仕事用の制服に着替えて変装魔法をかけ、昼の仕事へ向かった。


私の仕事には2種類ある。

ズバリ、安全な仕事か危ない仕事か、である。


安全な仕事は昼夜問わず、酒屋、喫茶店などの接客である。たまにギルドの案内や受付もヘルプがかかってくることもある。


お金が貯まることは良い事なので臨時でも何でも気にせず仕事を受けていたらその道の人たちが顔を覚えてくれていて、私の空いている日や多忙な日を聞いてくれるまでの仲になった。


危ない仕事も然り、仕事ぶりが良いと顔を覚えてくれて積極的に報酬の美味しい仕事を割り振ってくれる。


昼の仕事を終えたあと、シャワーを浴びて軽く準備運動をしたらもうすっかり夕焼け空になっていた。

そうするとまた変装魔法を掛け直し黒い制服に着替える。


長袖のシャツに多機能のベルトや隠しポケットのついたハーフパンツ、仕込みナイフのついたブーツのいつもの仕事着は意識しなくてもすぐに仕事に専念できるように身体が勝手に動くようになった。


リッチなんだから闇に紛れるなりしてさっさと終わらせれば良いと思うかもしれない。

だけど裏の人たちに自分の正体がバレたらどうなるか分からないため、対策として何十通りもの変装パターンを用意している。ちなみに性別も変えられる。


変装を変えていたらいずれ忘れてしまうと、王都に入る前に元の姿を忘れないよう、記憶を結晶化している。私が例え忘れたとしても、本来の姿で妹と再会したいから。


今日は背が低めの黒ツインの猫目の女性の日にした。

お相手のお屋敷にお邪魔して恙無く仕事を終え、仲間に処理をお願いすれば終わる簡単なお仕事を3件ほどこなす。


中には護衛もあるけど大体はこの簡単なお仕事を頼まれる。最新の防犯魔道具がそこかしこに巡らされているけど指振り一つで簡単無効化し、消音魔法を使った氷魔法で永遠の眠りに案内する(リッチ)には呼吸するように簡単なお仕事だ。


今日も今日とて最後の依頼を終えて無事に帰ろうと窓際から部屋の扉へ意識を向けたのだが、そこに1人長身細身の男が立っていた。

仕事仲間が来るにしては早すぎるし何より知り合いの中にいない容姿をしている。


「どちらさま?」

聞いても相手は薄く微笑むだけ。

挨拶がわりに氷で作ったナイフを5本ストトトトっとそれぞれ身体の急所近くの壁に突き刺したがそれでも微笑みを携えたままその場から動かない。


「私の仕事への復讐に来たわけではないのね。

なら、今はお仕事終わりだから後日にしてもらえる?

お化粧直しもしていない状態で知らない人とおしゃべりはしたくないの。それじゃあね」


とりあえずあちらは観察しているだけのようなので寮に帰ることにした。

私の部屋の周りには防犯結界を張り巡らせているのでよっぽどのことがない限りは安心して仮眠を取れる。


脇を通り抜け、部屋を出ようとしたら唐突に話しかけられた。


「生きている気配もしませんし、あなたは本当の姿ではありませんね。ちなみに()()って何にでもなれるんですか?」


…こいつ、私が自分にかけている魔法に気づいている。

直前に魔法を発動したわけでもないことから生まれ持ったスキルだ。しかも全て看破してくるなんて厄介なのに目をつけられたと私は舌打ちをこぼす。振り返ってぶっきらぼうに返した。


「そうだと言ったら何になる、違うと言ったら何も言わずに居なくなってくれるの?

背後からずっと人を観察するのが趣味の人ではないでしょ?


仕事の依頼なら見ての通り簡単なお掃除なら得意だけれどお話しするのは苦手だし、それ以外は応相談よ。」


男は変わらず薄く微笑んだまま話しかけてきた。

「いえ、あなたの仕事を眺めていただけですので今日は失礼させていただきます。

報酬は高いと有名な職ですのでいつでも来てくださって構いませんよ、生きていてもそれ以外でも人手はあればあるほど良いですから。」


「報酬は、高い…ね。お仕事の話なら貴方が再度私に会ってきた時にでもゆっくり顔を合わせてお話ししたいわ。」

返答を求めずに踵を返して寮に戻る。

男は口元だけ微笑んだままその場から動かなかった。



愚痴を脳内で溢れさせながら寮へ飛行魔法で戻る。

人のことは言えないけどあの男が不法侵入してきた時気配も音もしなかった。


私が張り巡らせていた感知魔法にも反応しなかったから、おそらく私の感知魔法外から懐に瞬時に入り込んだのだろう。そんなことができるのは転移魔法くらいだ。


移動手段がタチ悪いし先天性スキルも相性最悪だし、厄介なものに目をつけられた。そもそも転移魔法なんて人間基準ならば相当な魔力量を持ってかれるはず。


転移魔法は禁忌魔法の分類に近く、内容もとても難しいし、原理も法則も今までの魔法より未知の領域に近い。仮に習得しても人間が使ったら数キロくらいが限度だろう。

私の感知魔法は周囲2キロだから2キロ以上転移魔法を使ってやってきたのだ。


ぽんぽん気安く使えるものではないし、ほんの数キロでもとんでもない魔力を持っていかれるらしく、それより距離が伸びるとどんどん莫大な消費量になっていく。


この世界は飛行魔法も存在する。魔力消費量は転移魔法と比べてそこまで多くないが、命がいくつあっても足りないと言う理由であまり普及せず、習得した者はよほどの変態か狂人かのマイナー魔法と言われている。



おまけに魔法発動前後の特有の音もしていないから消音も入れている。

飛行魔法は消音していても周囲の空気の揺らぎはどうしても出るものだから、やはりあの男が使ったのは転移魔法だろう。


こちらが気づくまでわざわざ待っていたことから趣味の悪い相当な手練れである。

私が人間みたいに容易く死なないことがバレているし仕事を引き受けるとしても相当めんどくさい物を押し付けられそうだ。


はあ…とため息をつき、今日は人生で2番目の厄日だと思いながら寮に帰ってきた。


ちなみに転移魔法は勉強中の身である。

なんせリッチに生まれ変わってからまだ3年、人間だった頃も9年。


人間だった頃は生きるのに必死で、言葉遣いや周りの大人達への振る舞い方を実地で学んだだけで魔法について勉強をしたことはなかった。


孤児院の小さい書庫にあの国の歴史書はあったけどそれ以外は何も知らない子供だった。


だからリッチになってから村で通った学校というものはとても興味深く、本来なら8歳〜12歳までの4年間で学ぶ内容を2年で習得するくらいの猛勉強をした。


まあ、生物と違って睡眠を必要とせず、みんなが寝ている時間も勉強していたから短期間習得できただけだけど。


学校に通いながらおじいちゃんおばあちゃんが楽になるように畑仕事や掃除をし、それ以外は勉強という日々は今まで経験したことのない楽しさと新鮮さがあった。


私がお金持ちになったらもっと安心して住めるようにあの村を改造し、小さな一軒家を建てて妹と移住すると決めている。

おじいちゃんおばあちゃんと妹を会わせたらきっと喜ぶだろうから。


村の中で全てが賄うように魔法で改造していくのも楽しそう。



そんなこんなを思いながらまたシャワーを浴びてお気に入りの石鹸を使い、血の匂いを消す。

ハーブ系のオイルは血の匂いと混ざると自分を料理しているような気分になるから基本花と香木の香りにしている。


髪と身体を火と風の複合魔法で乾かしてから、落ち着いた服を着て平均的な身長の茶髪茶瞳の女性に変装した。

王都に入った時もこの姿だったから、なんだか馴染みがある姿だった。


もう少しでレバリーの出勤時間だ。

妹に早く会うために仕事をしてお金を貯めなければ。

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