13.『赤月』の魔女
更新大分遅くなりましたすみません!
今年の冬は気圧の乱高下が凄くて辛いですね…
彼女のどこからそんな元気な声が出るのか、使い魔の猫が飼い主の意図を組んだ迫力のある声を出したのか分からないが家が揺れるほどの大きな音だった。
ここまで来ると音魔法の攻撃に近い。
咄嗟に防御魔法を展開して正解だった。サイドテーブルの花瓶や部屋の窓が粉々になっている。
起き上がると既に使い魔の猫が主人の元に戻ったようで、再び静かな空間が広がっていた。
柱がギシギシと悲鳴を上げているのを聞いて、小さなため息をつきながら家全体に復元魔法を展開しつつリビングへ移動する。
美味しそうなミックス豆のトマトスープを持って彼女は顔を出した。テーブルにはパン、チキンステーキとサラダ2種のワンプレートが置いてあった。
「おはよう、少しは回復できた?
そこの山積みの本を暇つぶしに読ませてもらったよ。人間の効率的な疲労回復って本を参考にして作ったから食べて。デザートはリンゴ。食後に出すよ。」
目の前の食事も美味しそうだが、デザートにリンゴが食べられると聞いてホクホクした気持ちで席につき、暖かいうちにいただく。
豆のスープは何だかとても懐かしい味がした。
このスープ、孤児院で食べた思い出がある。シスターは家庭的な人だったし、家庭料理として有名なのかな?
チキンステーキは溢れる肉汁と皮のパリパリした所を楽しむ。あとからレモン果汁と胡椒のピリッと爽やかな香りが鼻を抜け、油っぽさを感じずにいくらでも食べられそうな味がする。
サラダはオーソドックスに玉ねぎドレッシングのかかったグリーンサラダとほうれん草のミモザサラダで、肉の合間に食べると程よくさっぱりする。
家にあった簡素な硬いパンがチキンステーキとサラダを挟むことでレストランで食べる豪華なサンドイッチに早変わりした。
いつもは野菜を適当に煮たスープと硬いパンの食事を摂っていたけど、この味を知ってしまったらもうあの日には戻れないだろう。
とんでもない料理人を招き入れてしまったものだ。森で血みどろの魔人を拾った自分を褒め称えたい。
夕食を堪能して食後の紅茶を飲もうとした時に、あ、と口を開いたまま彼女の方を向く。
今の今まで彼女の名前を聞くことを忘れていた。
「私としたことがすっかり忘れていましたが、お互い自己紹介がまだでしたね。先に私から。
…そうですね、真名を明かすと存在が消えてしまうので、ガーネットとお呼びください。
見ての通り魔女ですが薬屋の店主でもあります。
これから私が採りに行けなかった素材を手にできる喜びに今から震えていますが、きちんとお休みは用意しますので。服や日用品や食材が足りない時は言ってください。
あとご飯は3食お願いします!よろしくお願いします。」
お辞儀をしてから、レモングラスの紅茶を嗜む。りんごとの相性が抜群に良い。
奥に綺麗な赤いシロップが見えるがあれはりんごだろうか?りんごの紅茶にしてくれないだろうかとソワソワチラチラ眺める。
「私はアイ。ちょっと自暴自棄気味になってたけど今はガーネットのおかげで元気になったよ、ありがとう。
料理、掃除はするし(魔法で)素材採取もできる、なんなら薬の調合もできる。分身もできるし使い魔も使える有能リッチだよ。
お給料は宝石が欲しいな。屑石でもなんでも良いよ。
1日3食たまにおやつ付きで味の好みとかは追々。
よろしくね、ガーネット。
あれは林檎のシロップに巢蜜を入れたものだよ。
作ってすぐよりもじっくり寝かせた後の方が美味しいから、3日後くらい経ったら食べられるよ。」
自己紹介をしてから、ちらりとシロップの方を一瞥して止められた。この森で甘味は超がつくほど貴重品であまり食べられない。少し残念な気持ちになりながら、3日後を楽しみにすることにした。
「ごちそうさまでした、とても美味しかったです。
明日は採取していただく素材を説明します。大体3日間ごとに更新していきますので、期限を伸ばしたいものなどがありましたら都度調整しますので今日はゆっくり身体を休めて下さい。
お風呂は私が沸かしてきます。
手前の左手が浴室、一つ奥がトイレです。他の部屋を開けても構いませんが何が起こるかわからないので注意してくださいね。」
「そんなに泥棒が多いの?中身が何かわからない部屋、このフロアだけで6室くらいあるけど。」
軽く首を傾けながら片付けをしているアイが尋ねる。
「泥棒ではなく薬の投薬に協力してくれている魔物や生捕りにしている魔物などをそれぞれ収容しています。協力的な魔物はともかく、他は飛びかかって襲ってくる可能性があります。
拡張魔法を使って部屋を増やしたり広くしているので、あの見た目に反してうじゃうじゃ魔物がいます。探検する際は魔物達を傷つけないように気をつけてください。」
お風呂へと続く扉を開けながらそう説明した。
2室は薬草栽培保管に、2室は薬品保管、残りの2室は魔物収容部屋になっている。
調合したての薬は自分で作ったスライムに薬を飲ませる。
毒になる副作用や痛みを伴うものがあってもこの子達なら消化することができて便利なことと、どんな副作用があったのか身体の色で判断することができる。
そうしてスライムが何も色付かなくなるまで試作を繰り返す。
魔物たちには薬の治験をやってもらっている。
最初は小さい魔物から、そのあとは大きい魔物へと移っていく。
投薬が多いほど重篤な副作用が出やすいため、魔物の中位サイズまで投薬して問題がなければ流通させることにしている。魔物は耐性が強く、人間で例えると大量に服用しない限りは問題ない範囲にしている。
魔物の収容部屋が2室に分かれている理由は好戦的な魔物と自発的にきてくれた魔物とで分けているからだ。どの個体も健康的で元気で大変素晴らしい。
好戦的な方には劇薬を、友好的な魔物にはただの薬を使って日々薬の研究を進めている。両者共とてもお世話になっているため、衣食住は使い魔を派遣させきちんと提供している。中には森にいる時より快適だと喜ぶ魔物もいるため、今のところ不満はないよう。
万が一副作用が出て苦痛を感じるものだったらすぐに使用を中止し、難治性の場合は決して苦しませ無いことを信条として掲げている。
理性のある魔物はとても有効的に協力してくれている。報酬は法外なもので無ければ基本欲しいものを渡している。
大体は住む場所や食物、食物の種などが主な報酬で、たまに治療薬が欲しくて来ることもある。
考え事をしているうちに浴室の清浄魔法とたっぷりのお湯をバスタブに入れ終え、タオルなどを近くに置いて準備万端にした。リビングの方に向かう。
「眠いので先に入らせていただきます。身体用石鹸は赤い方、洗顔は緑の石鹸です。髪はボトルに入ったものを使ってください。
実験用の椅子に拘束されたあと送られるので浴槽のボタンは押さないでください。
タオルと一応着替えも置いておきます。」
必要事項を伝えたらゆっくりお風呂に浸かることにする。酷使した身体を労うために濃縮ラベンダーオイルを数滴垂らして少し気分を上げる。
シャワーを浴びて石鹸で全身を洗っていく。
石鹸に使う主成分は不味いことで有名なマロの実を使った石鹸。
マロの実を乾燥させて、種を取り一晩水に浸けておく。タネは粉砕してから水を入れぐつぐつと煮立たせる。冷えたら、実を入れて一晩浸けておいた水、乾燥させた花や香草、ココヤシオイルを一緒に混ぜ合わせる。
顔用のものはマロの実、ココヤシオイル、ハチミツ、ハーブ、アヴァメリ国の海泥を使っている。
商品として扱うものは固まる直前にハーブや花を抜くものもあるけれど、香りを楽しみたい私は花や香草を入れたままにして使用している。
石鹸作りの副産物としてアロマキャンドルと虫除け、魔物避けの香も作ることができた。
季節や気分で配分や材料を変えて作れるため、自由自在なレパートリーがある。極めていくとそれなりに楽しくてお店でも人気の商品になっている。
ここの店は一般的な素材を使って買いやすい価格の物と、魔法をかけたり少し高い素材を使用した価格は高めだが効果はばつぐんに効くように調合している私が育て上げた薬たちを並べている。
お高めの薬は全て家の中で長期間保管しても効果が切れないよう長持ちする保護魔法をかけている。
こんな辺鄙なところに来る人たちはよほど懐に余裕があるのか効能重視のものを買っていくため、辺境に薬を取りに行ったりしないといけないが最初の頃と比べてここでの生活も安定していた。
そろそろ新しい薬作りにも着手したいところ。アイにはたくさん働いて貰わなければ。
最初の1週間は簡単な2種類の薬の材料を挙げていこう。1週間ずつ様子を見て、慣れてきたら難易度を上げていってどのくらいまでいけるか様子見しよう。
ザバっとお風呂から上がりタオルで身体を拭いてから、ヨロヨロと自室へ歩く。
そもそも上位魔物は書物に書いてあるが、ほぼ架空の存在として扱われていたためどの程度の力を持っているのか判別がつかない。
[歴史上では約800年前にリッチが現れたと記述されている。リッチは高位魔法を何種類も同時発動し、肉体が破壊されても再生し、核らしきものを破壊しても消滅しなかったそうだ。
何度も身体が再生し命が幾つもあるようなその姿に人々は絶望したが、聖女の回復魔法で人々は再び立ち上がり、勇者の光の剣で幾重もの闇魔法防御を打ち砕いた末に指輪が砕け散った。
するとあんなに再生していたリッチは断末魔をあげながら灰になって消えた。
そして世界の狂気は消え去り、再び安寧がもたらされた。]
と書かれているがどんな魔法が使えるか、どんな特性があるかも記載されておらず全く参考にならない。
そのリッチは俗に言う魔王と呼ばれていたらしいが、魔族の中で1番強い存在を魔王と呼ぶためどれも同じ種族とは限らない。
魔物図鑑にもリッチの記述は少なく、本当に参考にならない。とりあえず普通の人間の扱いをしてダメなことがあれば本人が言うからいいかと眠りについた。
意識が覚醒して瞼の裏から朝の明るさを感じているとまた猫のトタトタという足音が聞こえてきた。
すぐに防御魔法を展開したけれど予想に反して今回は普通の音量だった。
やはり昨日は魔力の出力間違いをしていたのだろうか?一先ず家が破壊されないことに安堵した。
朝の挨拶もそこそこにテーブルに座る。
きゅうりとハムのサンドイッチと昨日の豆のスープに少しスパイスが加えられていて、朝の食欲のない時にちょうどいい刺激になった。
食後の紅茶を楽しんでから、今日の仕事内容について話した。
「今日から薬の材料を集めてきてもらいます。
一先ず体力、魔力回復薬を初級の材料で良いので10本ずつお願いします。茎から上だけでいいです。
リストはここに置いておきます。
慣れない作業だと思いますので早く終わっても特に仕事は追加しません。空いている時間に薬草図鑑などを見て勉強しておいてください。」
と話し終えてから食器をシンクに持っていく。
2つの初級魔法薬は3種類ずつの材料で作られる。
1種類は必ず魔物の素材から作られるため、少なくとも20体は倒さないと素材は手に入らない。
しかも素材は少し離れた地域にあるため、それで1日は潰れるだろう。
初めてで3日間の課題ならこれで良いと思った。
アイからは「りょうかーい」となんとも気の抜ける返事をもらった。
そのままそれぞれの部屋の様子を見て回ったり、魔物たちや畑のお世話をしていると午前中が終わる。
昼食はミルクスープにパン、ソーセージとゴロゴロ野菜の上にチーズがかけられたものを食べた。
チーズはさっぱりしていて臭みが少なく、パンの上にのせると更に絶品だった。
どこのチーズか聞いたら、近くの村にある牧場から買ったものらしい。
この美味しさを今まで知らなかったことが悔しくなるくらい好みの味で、時間が空いている時に買いに行って少しずつストックすることに決めた。
午後は店番をしながら足りていない薬の補充や、薬草の在庫を書き留めて足りないものを明日採りに行くことにした。
ひと段落して、ふと窓を見るともう夕焼けから夜の幕が降りかけている時だった。
全て元の位置に戻しつつ、家全体に洗浄魔法をかけて店じまいをする。
今日の夕飯はシチュー、温野菜の蒸し鶏サラダ、パン、リンゴだった。
シチューは鶏肉や野菜がゴロゴロ入った好物だった。
アクセントにチーズが入っておりスプーンを動かす手が止まらない。
よっぽど私の表情がいつもと変わっていたのか、
「そんなに喜んでくれるとチーズもうれしくなりそうだね。おかわりあるから沢山食べて。」と目を細めて少し笑いながらアイが言った。
大きく頷いてちょうど食べ終わった皿をアイに渡し、おかわりをお願いした。
2杯目もペロリと食べてしまった。チーズの美味しさたるや幸せな気分になりながら食後のローズヒップとリンゴを楽しむ。
のんびり食後の時間を楽しんでいると、思い出したようにふとアイが言った。
「そういえば薬の材料集め終わったよ。
そのあとは薬草図鑑読んでたけどあれ面白いね。
私も少し薬草の勉強しようかな。」
なるほど、彼女には簡単すぎる課題だったようだ。
—寿命について—
人間は70年
魔女は300年
エルフは1000年
魔族は魔力枯渇、核破壊、再生できないくらいまで破壊されたら死にます。
なんか増えたらまた足していきます。




