11.『藍』の魔女
今回キリのいいところまでにしたら長くなりました!
最近5,000字以内に収められていない気がしますので長くなりすぎないように気をつけます。
文字数ブレブレですみません!!
目が覚めるとそこは暖かな日差しに包まれ、鳥たちが囀る穏やかな風景が広がっていた。
魔物の森で楽しく戦ったあとの記憶がない。
窓を眺めると穏やかな景色が広がっていた。
森の中のようだが明るく、魔物の森のように瘴気が広がっていない。
辺りに結界が張られているようで外からはここの主に
許可をもらうか破壊しない限りは入って来れない作りになっている。
あんな魔物がうじゃうじゃいる場所に踏み入れるということは日陰でしか生きられない事情持ちか、どこか別の国の戦闘員とかだろう。
結界の強固さから見るに、どこかの諜報員の可能性が高い。
いずれにせよ碌でもないのでさっさと逃げるが勝ちだ。むくりと起き上がり、軽くて肌触りの良い布団を畳んで傍に置く。
身の回りを整えて、いざ窓から脱出しようとすると(安全な場所で寝かせてくれたお礼はきちんと言わないといけないよ!)と脳内の妹に諭される。
このまま相手が面倒な立場にいると勝手に想定して、礼を欠いた行動を取っていたらいざ、妹に会えた時に恥ずかしくて顔向けできなくなってしまう。
だからきちんとお礼をしてから魔物の森に戻ろう。
そうと決まれば探知魔法を発動させて家の裏手の方にいるらしい気配の方へ歩き出した。
どうやら裏手には畑が広がっているらしい。
綺麗に整えられた土に多数の草が生えている。
野菜なのか他のものなのか薬草知識を履修していないから分からないけど、生き生きと育っていることは分かる。
ジョウロで水をあげているこの家の主人であろう長髪の女性に声をかける。あの結界魔法は彼女が発動したのだろう。
あそこまで強固な結界を張れる人間は彼女くらいだろう。しかも持続魔法だから魔力も減っていくはず。
やはり私をここまで運んでくれたのは只者ではない人間らしかった。
何かあとでゴタゴタがあったら嫌だから礼をしてすぐに戻る方へ舵を切ろう。
「助けてくれてありがとう、安全な場所で寝られて助かった。お礼をしたいから何か欲しいものとか、やってほしいこととかない?」
そう声をかけると白銀の髪色をした女性は指を一振りしてジョウロを空中に浮かせて水やりをさせたままこちらに振り返った。
結界魔法を発動させながら浮遊、使役魔法を使っている彼女は魔女だ。結界を見て人間だったらどうしようと思っていたから少し安心する。
「おはようございます。やはりあの肉の塊はそのままにしておくのが正解だったのですね。
戻ってきたらモゾモゾ蠢く肉の塊に埋もれていて、何かの魔物に襲われていたのかと思いました。
何れにせよ元気で良かったです。」
それなら料理が苦手なのでお願いできますか?と言われたが空返事になってしまった。振り返った彼女の瞳が宝石のように綺麗な赤紫色をしていたから。
妹は黒髪だから髪の色は違うけど、どうしても目の前の女性が妹に見えてしまうのは私が会いたいあまり盲目になってしまっているからだろうか。
7歳の頃の妹しか見ていないから、大人になった姿がどんなに綺麗なのか見ることができていない。
目の前の女性のように少し落ち着いた声音になっていたのだろうか。
背はどのくらい伸びたのだろうか、どんな衣装が似合うのだろうか、つい思いを馳せてしまう。
本当に妹という可能性は?
いや、王宮書庫は特別閲覧許可がないと閲覧できないほどの重要機密が詰まった場所だ。
そんな国の中枢に厳重保管されている書物に誤りはないはず。
確かにあの子は薬草や薬の図鑑が好きだったし、孤児院で何度やっても料理がてんでダメでよく黒焦げにしていた。
基本丁寧な口調で話し、よく笑っていた子だった。
目の前の彼女は笑わないし、髪の色が違う、声の抑揚もない。
だからここに妹がいるはずはないと無理やり自分の感情を飲み込む。
でも妹の面影がずっと重なってしまって、空返事したあとも今までになく動揺して固まってしまった。
目の前の女性が困惑した顔でこちらを見ているけど口が開閉するだけで、何も言葉が出なかった。
「まだあれから1日しか経っていませんし、身体が治りきっていないのでは?もう少し寝ていてはどうでしょうか?」
話しかけられてからやっと言葉を発せられた。
「……いや、お礼をしたらまた魔物の森に戻るよ。
少し前までは生きる意味があったんだけど今はもう、なくなってしまったからあの場所にいたんだ。」
ここで突っ立っていても悪戯に時間が過ぎて、今は魔物とやり合ったおかげか静かになっている怨嗟もすぐに燻ってくるだろう。寄り道しすぎるのはよくない。
早く用事を済ませようとキッチンに案内してもらうことにした。
彼女はキッチンへと足を動かしてはいるけど私の話を聞いた後から、何やら考えているようだった。
キッチンは広めで使いやすい構造をしていた。
孤児院と天と地の差ほどもある快適さで、魔力を通せば水も火も専用の魔道具で使えるようになっている。
調節は魔力量で行うらしく、説明を受けながらひたすら感動していた。
孤児院では水は全て井戸から汲まないと使えなかったし、火は薪を用意して火打石で火起こししないといけなかった。火力調整は薪を足したり減らしたりして加減するのだ。
いつでもひんやりと食物の鮮度を維持できる冷蔵保管庫を開けて食材を取り出す。
お腹が空いたから鶏肉を使って少し豪華な朝食にする。パンが少し硬いものだったから薄くスライスしてサンドイッチにしよう。
皮を剥いだ鶏肉にオイルとハーブを塗して少し置いておく。浸けている間に玉ねぎを飴色に炒めて根菜とコトコト煮る。
剥いでおいた鶏肉の皮を細く切ったらスープに入れて旨みを足しておく。
パンは薄くスライスしてバターを塗る。
ハーブオイルに塗しておいた鶏肉をカリッと焼き、バターを塗ったパンにレタス、鶏肉を載せてサンドイッチにする。
もう一つトマトとチーズ、きゅうりを挟んだサンドイッチも作っておく。
作った食事をテーブルに置き、魔女と食べることにした。
彼女は食事をする前までは考え事をしていた様だが、サンドイッチを一口食べた後は夢中でもぐもぐと口を動かしている。スープを飲んで満足したのか、ふとこちらに視線を戻した。
「身体が再生していく様子を見るにあなたは人間ではありませんよね?
周りが焼けこげたり凍ったりしていたので魔法を自在に扱える、会話もできていることから上位の魔人。
魔物なら核を破壊しないと完全な死は迎えられませんが、あなたはあの強さの魔物を複数相手しても核を壊してもらえる相手に会えなかった。
あれ以上の強さですとそれこそ魔王直属の配下である四天王と呼ばれる魔物達とやり合わないといけません。ですが、その四天王クラスの魔物は滅多にあの森で出会すことはありませんよ。
そのほぼ無いに等しい可能性の死への渇望を他所に向けることはできませんか?
何かそうしなければならない原因があるのでしたら教えていただけると。」
四天王は確かに書物の中の伝説扱いされている魔物である。何せ魔王が300年ほど現れていないからだ。
滅多に会えない四天王を待ちながら魔物と戦って何度も肉塊になるのは気が滅入る気持ちが顔に出ていたらしい。
お話いただけますか?とまた問われる。どうやらこの親切な魔女は相談に乗ってくれるみたいだ。
それならと魔女が食後にと淹れてくれた桃の香りの紅茶を飲みながら話を続ける。
「私が魔物だと分かってるのに随分と親切だね。
人助け、もとい魔物助けが趣味なの?」
聞くとすぐに返事が返ってくる。
「いえ、あなたがあそこで何度も肉塊になる時間が勿体無いなと。
四天王クラスの凡その魔力量のみを探知する魔力探知を森全体にかけておき、四天王が現れるまで私の店の手伝いや食事をお願いしていただく方が利に適っていると考えました。
四天王と会う前に魔女の能力で核を破壊できる方法を見つけることができるかもしれませんよ?
ここは魔法に精通したお客様が来るお店ですので、そういった魔法書やまだ見ぬ研究途中の魔法陣を見られるかもしれません。」
食事のところだけホクホクとした顔をしていたことから主な利益とはそこだろう。慈善ではないことに安心した。あと研究途中の魔法はすごく気になる。
「なるほど、きちんと自分の利益になるように想定しているから親切なのね。
確かに何度も肉塊になるのは心情的に嫌だなー。
それなら私の中の怨嗟を何とかしてくれるなら四天王が来るまで働こうかな。衣食住はよろしく。
食事はきちんと3食おやつ付きで作るよ。
見ての通り魔物というかリッチだし素材採りに行くのにもってこい。」
魔女は私を雇用する気があるらしく、目がやる気に満ちている。私としてもこの炎をなんとかしたいから願ったり叶ったりだ。
「それは魂に付随するものか、別のものか判断したいので、少し見ても良いですか?
魂に付随しているかどうかで根本的な性質が異なりますし、一度きちんと見て封印魔法か別のものにするか判断したいです。」
カップの中の桃の花の香りの紅茶が名残惜しくてちびちびと飲みながら答える。
私が飲み足りないのを察したのかティーポットを寄せてくれた、お礼を言う。
「魔物とやり合って今はわりかし落ち着いてるからご自由にどうぞ。封印魔法以外の手段は確かにあまり思いつかなかったかも。」
この魔女は薬草以外にも色々と知識があるらしく、魔法知識しかない私より良い案が思いつくかもしれない。
どんな魔法が見れるか少しワクワクしながら待つ。
魔女は魔法陣を空中で描き、私の方へ向けて魔法を発動させた。
発動した魔法陣が光り輝きながら空中で回転している。特に抵抗もせず、ティーポットに入っている紅茶を注いでまた桃の花の香りを楽しむ。
棚を見ると様々な種類の茶葉を揃えているようで、紅茶好きとしては嬉しい限りだ。ゆっくり一つ一つの茶葉を眺めていると魔女が声をかけてきた。
「なるほど、魂を炎が喰らいかけていますが辛うじてまだ分離していますね。炎が取り囲んでいるので遠赤外線でじっくり魂を焼かれかけている状態です。
封印することは不可能ですが、魂から引き離して沈静化させることはできます。
特殊な魔法薬と魔法を合わせて使用しますが。
なんの因果か材料もあることですし、魂を喰われたらもっと面倒くさい手順を踏むことになるので早速魔法薬を作ります。
私が調薬している間に甘いお菓子を作っておいてください。量があるものが好ましいです。」
言うやいなや奥の部屋へ行きゴソゴソと物音がしたあと、ピカっと全体が発光する現象が4回ほど起き、爆発音、雷鳴、形容し難い音が鳴り響き、3時間ほど経ったあとに部屋から出てきた。
待っている間に頼まれごとをこなしたが暇だったので掃除、洗濯、洗い物、昼食を使い魔達とこなしていた。
甘いものはクッキーを作った。ただのクッキーだとつまらないからアイシングクッキーにした。アイシングはレモン、紅茶、モカ、オレンジとレパートリー豊かに量産しておいた。
昼はバジル、トマト、チーズにレモンを効かせた冷製パスタ、サラダと朝作ったスープにキャベツとジャガイモを足したスープにした。
ちょうど皿に盛り付ける頃に、
「できました。これで鎮火できそうです。」ボロボロの魔女がふらふらと部屋から出てきて言った。
先に入浴してさっぱりして、元気に昼食を食べている魔女を眺める。
ふと手を止めて、何やら考えながら彼女は口を開く。
「光魔法…大丈夫でしたよね?この儀式をするには精霊の祝福と加護魔法が必要なんです。
今から転移してアルギュースに行きます。そこで精霊の祝福をもらいながら加護魔法を施し、魔法薬を飲めばその炎を鎮火できます。
あと作ってもらったクッキーを精霊のお礼の品として渡すので忘れずに包んで持ってきてください。」
食べ終わってからせっせと魔女は出発の準備を整えた。合間に何やら瓶の中に入ったキラキラ光る液体を飲んで動いていたが、聞いても専門的すぎてよく分からないから突っ込まないでおいた。
私も後片付けを使い魔にやってもらいながらお菓子をバスケットに入れた。可愛らしいリボンもつければお店で売っているような華やかな贈り物となった。
まるで昔孤児院で売るためのクッキーをみんなと作っていたころのようだと思って、小さく声に出して笑っていたらしい。
気づいてすぐに声を止めて隣を見たけど、幸い準備に夢中で気づかれなかったらしい。ほっと息を吐いて残りの準備を手伝う。
10分くらいで支度は終わり、すぐに転移魔法を発動させた。
転移先は私がごろ寝していた草原の近くで、少し進んだ先の森はあらゆる植物や泉が輝いていて幻想的な雰囲気だった。
周りが発光しているのは妖精なのかそういう品種なのか、土までも輝いているような錯覚を持ちそうになりながら歩いて数十分後、目的地に着いた。
「着きました。今から魔法陣を描きますのでここの木の根元に座ってください。
そのあとは動かずにゆっくり景色でも眺めていてください。準備ができたら声をかけますので魔法薬を飲んでください。」
こくりと頷いて、大きな池の前に設置した魔法陣の上に座った。
魔女は小さく呪文を呟いたあと、魔法薬を飲んでくださいと声をかけてきた。ぐっと瓶の中の液体を飲む。
味は…飲み込むのがとても辛いっていう感想だけ残しておく。相変わらずトロッとしててなんか嫌だ。
救いは無色透明なところだけだった。
下の魔法陣が発動したのか周りが発光している。
キラキラした光が集まってきて、綺麗というより眩しく感じてきた。
私の周りをくるくると楽しそうに光が踊っている。
花を持っている光や、青や黄色のカラフルな光もいる。眩しいけど綺麗な光たちを眺めていた。
こんな綺麗な景色は滅多に見れないから、妹にも見せてあげたかったな。
そんなことを思っていたらいつの間にか終わっていたようだ。立ち上がると心なしか体が軽い気がする。
もう一度見てもらったが、想定通り鎮火して今は大人しく小さな炎になっているらしい。
おお…と感心していたら周りに光がたくさん飛び交いクッキーのお礼をするかのようにカラフルにくるくる私と彼女の間を回ったあと、光の余韻を残して森の奥へ消えていった。
「さて、帰りましょうか。今日は帰ったら寝ます。
久しぶりにちゃんとした魔法を使ったせいで疲れてクタクタなんです。夕飯の時に起こしてください。」
小さくあくびをしながら魔女は転移魔法陣を発動させる。よほど限界だったのだろう、帰ってすぐに自分の部屋に戻って行った。
私が寝ていた部屋は来客用の部屋らしく、滅多に使うことがないからそのまま使って良いと言われた。
まだ太陽が少し傾いたくらいだ。夕日になったら夕飯の支度をしよう。
次回から別の魔女視点になります。
章が変わりますが今回の続きとなっております。




