EP;6
遡る事、約1時間前
9時7分 事象発生から7分後
兼充駅から徒歩10程の高架下付近
「あの、コレ銃弾入ってねぇぞ?お巡りさん」
オレ達は今、危機的状況に陥っている。
――空から銃器が降ってきた。
その事態を重く受け止めているオレ
生き残ったからには、と意気込むオレ。
色んなオレがオレの頭の中でこんがらがる。
「ねぇ〜聞いてる〜お巡りさん?」
「あ、ああ!勿論だ!」
そう、まずは状況整理。
この女子高生と会話をしていた時に銃に振られた
運良く、高架下に逃げ込む事が出来たオレ達。
同じく、この高架下場に避難者が集まっている。
まず、当然としてオレと女子高生。
「こ、これどうするよ?」
そして今オレに落ちてきた銃器を
見せるハゲのおっちゃん。
少し離れた所に中年の黒髪ロングの女性。
柱に背中を付ける黄色のキャップを被る若い男。
――計4名。
「あ、あぁ……危険なので、所持しないように」
この混乱の状況下で狼狽えながらも
警官としての役割を全うするしかないと
本能で感じる。
「ええと……まず、取り敢えずは落下が収まったと思いますので、生存者で集まりましょう!」
この高架下にいる全ての人間に希望を見出せる様に、第一線で声を張り上げなければいけない、
そして市民の心と体を護るんだ!
「え、なにすんの?」
一緒に逃げてきた女子高生が放つ。
ギャルな見た目で陽気な雰囲気を纏うが
能天気な性格は、この事態では少々
オレの責任感が刺激され焦りを感じてしまう。
「ま、まずは安全な所に避難しましょう……」
「安全な所って!」
ハゲのおっちゃんは食い気味に聞く。
「お、おそらく……シェルターや地下施設などは安全な場所だと考えられます」
後ろに広がる銃器が道路を埋め尽くす悪魔みたいな光景をオレは見た。
その場に避難してきた人々はゆっくりと
一つの輪を自然と作り上げて
それらの光景を黙りこくって眺めていた。
「なんか、ヤバいね……」
女子高生がトーンを落として暗い空気を齎した。
ハゲのおっちゃんは
絶望したのか膝から崩れ落ちた。
「ねぇ……幼稚園は無事かしら……」
中年の黒髪ロングの女性が、萎れた声で放った。
オレはどうにか重い空気を覆したいと奮闘したが、何も声を出せずにいた。
「多分、全部潰れてるぜ、こりゃ……ハハッ」
黄色のキャップを被る若い男性が
ぶっきらぼうに言う。
同時に喪失感の含む空笑いを繰り返す。
女性がオレの服を力弱く引っ張り
「あ……あ…………」
言葉にならない声を出しながら
向こうを指差す。
「お、奥さん……」
「子供を……幼稚園に預けたばかりなんです……」
その言葉を耳を通した。
青白い顔して、何度もオレの顔を見るなり
「助けてください……」と繰り返す。
悲痛な心に満たされるのみ。
オレは口を開ける事が出来なかった……
「そ……っか……分かりました…………」
女性が無気力に放つと、銃器の道へ
歩み出した。
「お!奥さん!」
危険に思ったオレは咄嗟に声を出すが
声を出すのみ。
実際に彼女を身体を張って連れてくる事は出来なかった。いや、しなかった……
「奥さん……奥さん!危ないですよ!」
何が危ないですよだ……それならオレが一目散に連れ戻すべきだろうが!
どうして、身体が動かない!
足が動かない!気遣う言葉が出てこない!
何のための……何の為の警察だよ
「ああ……あの人、行っちゃったね
どうせ、助からないよ皆んな……」
キャップを被った男性は
無神経にもオレの心を突き刺す。
「もう……皆んな……死ぬんだ…………」
後方に彼が下がっているのを目視するものの。
オレは振り返る事が出来なかった。
言い返す事も、謝罪する事も出来なかった。
次第に彼の嫌味ったらしい声が遠くへと
消えていってしまった……。
「お巡りさん……?」
女子高生が今度はオレに話し掛ける。
ただ、オレは反応を示す事が出来ずに
瞬きを忘れるぐらいに、銃器に埋め尽くされた
街の悲惨さを目の当たりにする。
「ハハッ……最悪だな、オレ……」
オレは嘆いていた。
自身の全てを否定されたかの様な、現状を
ひたすらに呪い、嘲笑した。
何が人を護りたいだ……!
なんにも出来やしない、無力じゃないか……。
オレは叫んだ。雄叫びを上げたんだ。
自分自身に喝を入れる為か、感情の整理かは
よく分からなかった。
『オレが思うに正義ってのは三つ入りのミニプリンを2人で分け合う時に最後の一つを一緒に食べ合う事だと思う』
――三つ入りのミニプリンか……
なに、馬鹿げた事を言ってるんだよ。
自分が本当に不甲斐ない、阿保だ。
「お巡り様……」
女子高生が、オレの方を向いて
持っていた鞄を握りしめていた。
そう、皆んな不安なんだ。
どうしようもないんだ。
ハゲのおっさんも、ずっと膝をついてる。
こんな時こそ、オレの仕事。
いいや、オレの役割なんだよ……
人に寄り添える言葉を、行動を。
人々が無駄に命を失わないように。
「安心しろ……オレが、安心な所に向かわせる!」
声を張り上げて叫んだお陰かは分からないけど
頭の整理が、ついてきた。
確かに漫画でも映画でも見た事のない
地獄みたいな事が起きたけどよ
オレにとって見たら、余計に抗いたくなるんだよ
「お巡り様……それって」
オレは胸ポケットから無線を取り出した。
緊急時用に常に携帯している品物。
それこそ腰のホルスターには“銃”
今、この世界でそんな護身道具が意味を為すか
考えれば一目瞭然。
おっさんが言うように降ってきた銃に弾が入ってないんだとしたら……オレが予め携帯している銃と弾丸は馬鹿みたいに危険だ。
ザーザーザザザザと無線にノイズが流れる。
それを聞いたハゲのおっさんは
コチラを向いて、力無く立ち上がる。
「う、うわ!なんか、刑事ドラマで見た事ある!
かっこいいすね〜」
「だろ?」
女子高生が興味深そうに無線を舐め回して見る。
「今、近くの警察官らに応答を要した。
少なくとも、オレ達のように生き残ってる人間が居るはずだ……そうすれば互いの為になる」
交番の高松、アイツなら事なく生き残ってる。
そう根拠のない希望を胸に込める。
もし、アイツが応答していなくとも……
同業が何かしら反応してくれれば!
「……が……ガ……ッ、二ガ!」
無線から微かに人の声が聞こえた!
「っ!な、なんて!」
「え?え?いま、なんか聞こえたよね!」
女子高生と顔を見合わせて
さっきの音について疑問を呈した。
「おいおいおい!か、か貸してくれ!」
ハゲのおっさんが、急に息を吹き返した様に
無線の音を聞くなり無線を取り上げようとした。
「ちょちょ、待ってください、危ないっすよ!」
おっさんが手を伸ばす。
その手を掻い潜り、奴から距離を取った。
女子高生も危機を感じたのか同じ様に動く。
「た、高い所だ……高い所に近づけてくれ!
倒壊した建物の瓦礫が邪魔してるかもしれない!遮蔽物を避ける為にも!」
おっさんが唾を吐き散らかしながら
必死に訴える。
確かに窓を得ていそうな事柄だった。
「ね……静かにして……聞こえなくなる」
女子高生が小声で話す。
そして静かにする様にとジェスチャーをする。
オレはおっさんの言う通りに無線機を
高く挙げてみた。
「……ザーザ……んが……ガッ!」
無線機のノイズがオレの耳にさんざめく。
同じく女子高生、ハゲのおっちゃんの耳にもノイズが聞こえている事だろう。
「……二……イケ……ンニ……イケ」
静寂の中、ノイズ混じりの無線機から
僅かに声が乗っている。
さっきのが勘違いでなかった
その事に喜びを感じると共に
鮮明に声が聞き取れない事にヤキモキする。
「どっか行けって……言ってるんじゃないか?」
おっさんが、無神経にも伝えた。
女子高生は依然と耳を澄ましている。
「……二……イケ……チ…………カテ……ッ」
おっさんは、徐々に近づく。
「わかった!」
「な、なに!何処に行けって?」
女子高生が突然、大きな声を出す。
それに飛び跳ねて驚くおっさん。
オレも、真横で言われた物だから
身体が少しビクついた。
「チ•カ•テ•ツ•イ•ケ…………って!」
女子高生が、1単語1単語
クッキリ、ハッキリと伝えると笑顔を見せる。
「チカテツ……地下鉄って何処のだよ?」
おっさんが、投げ槍に言い返す。
「此処からだと兼充駅しかなくないか?
だいだい、徒歩で10分ぐらいの所にある」
オレが補足する。
おっさんは小刻みに足踏みした。
「そ、そうか……そこに行けば助かるんだな!」
「少なくとも、無線機を持った警察官はいるな
もしかしなくとも、地下鉄内なら大勢の生存者が、そこで避難しているかもしれない」
おっさんはオレの顔を見て、真剣に聞く。
女子高生はバックから携帯を取り出して
操作していた。
「んー、やっぱり圏外だぁー」
「先の銃器の落下で東京のインフラは壊滅的なんだと思う……圏外になる程だから電波やネット通信の基地局も期待は出来ないと思う」
「ふっオマケに、この薔薇道だよ!
最高だねぇ!さっきの男と女は、今頃くたばってるんじゃないかあ?」
おっさんが広がる銃の道を
顎で指して皮肉を込めた。
女子高生は落ち込みながら
バックにスマホをしまっていた。
「皆さんは、オレに着いて来てください……
危険ですので、焦らずゆっくり行きましょう!」
オレは虚勢を張って、2人に伝える。
一番初めにオレが銃の道に踏み入れた。
「そだ!お巡り様の名前は〜」
女子高生がオレの後をついて
名前を聞いた。
「ほ、保科だ!保科くれは、だ……」
糠沼に踏み入れる様に慎重に
銃の道を歩く。くるぶし程まで銃が積もっており
非常に歩きづらい。
それにゴツゴツとした形状も相まって痛む。
「俺は五郎だ」
後方からおっさんの声が聞こえた。
そうだ、彼女の名前も知っておいた
方がいいな……
「アナタの名前は?」
オレは歩きながら、女子高生に問う。
「うあ!ごめんごめん!」
女子高生はオレの背中を掴んだ。
バランスを崩したのだろう。
仕方ない、歩き難いのだから。
「大丈夫ですよー、ゆっくりで大丈夫です!」
オレは振り返り、伝えた。
彼女は目を見ながら呼吸を繰り返した。
「あ、りかど……そだ!」
「アタシ、古都アンナって名前です!よろです!」
《事象発生から17分後 9時17分》




