EP;保科くれは
《8月1日 8時5分頃兼光公園前交番
兼充駅まで徒歩で約15分》
――その30分後、空から銃が降ってくる。
――――――――――――――――――――
正義とは何か。
「オレが思うに正義ってのは三つ入りのミニプリンを2人で分け合う時に最後の一つを一緒に食べ合う事だと思う」
「は?」
こうして交番で後輩と馬鹿みたいに雑談できるのも平和なお陰だ。
まあ、ちゃんと業務はあるけどよ
「一緒に食べ合う相手ってのは誰でもよくて家族、友達は当然として電車やバスに乗り合わせた、赤の他人にでも共有出来るかだと思うぞ」
「何なんすか、急に先輩……」
「いーや〜、別にオレの考えを話しただけよ……まあ、こうやって高松に語り掛けてんのもオレの3つのミニプリン論的な話だよな」
「なんすか……変な論を作んないで下さい」
はぁ、ホントに今日は平和。
鳴らない電話に
鳥の囀りに蝉の鳴き声。
大したタスクがないのに開けたパソコン。
交番ってのは狭狭しいもんでよ。
ちっさい建物に事務室と受付場の2部屋しかねぇ
その部屋ってもワンルームを二分割した感じだ。
デスクを向かい合わせに設置して
電話、コピー機を部屋に入れたらギチギチ。
成人男性2人が業務や待機するには
圧迫感がえげつない。
「あと、その三つのプリン論、色々と破綻してません? 例えばプリンが食べれない人だったとしたら、どうすんですか?」
高松は馬鹿みたいなオレの話に答えながら
パソコンのモニターをジロジロと見て
カチッ、カチッカチッとマウスクリックやキーボードをリズムよく押す。
「まず訂正させてもらうと、3つの“ミニ”プリンな! 後、プリン食べれねぇ奴は無理に食べさせねえって……無理強いはさせねぇ」
「はいはい……つまり保科先輩が言いたいのは“正義”は押し付ける物じゃないみたいな感じですか」
「う、……なんか合ってるようで違うんだよなぁ」
東京都の、とある街『兼充市』はオレが産まれ育った街。高校の時、人を護る仕事をしたいと志した瞬間から想う。
――平和が一番だと。
確かに広く見れば平和なんて
本当の意味で世界には無いのかも知れない。
激化する紛争や戦争。
格差社会に異常気象、環境汚染に食糧問題。
目を背けている訳じゃないが、どう考えても人間は着実に自滅の道を辿ってる。
そう言う意味では
この街も真の平和である訳じゃない。
だからこそ平和が一番なんだと想える。
「そんな間話は置いといて保科先輩……巡回の時間じゃあないすか?」
「んげ、マジ……?」
はぁ、嫌だなぁ巡回。
外はギラギラ猛暑日、一発出れば砂漠だな。
早く行けと言わんばかりに
腕時計をオレに見せ
次に扉を親指で差した。
「ほら先輩……昨日も一昨日もボクが変わってあげたんですからね」
「はぁ〜……しょうがねぇな」
オレは深い溜息を吐いては吸った。
席を立つ腰が重いがやるしかない。
キャスターの付いた椅子から立ち上がり
積み重なる書類の上に乗った帽子を被る。
上着は羽織らん。暑いから……。
ワイシャツを捲りながら壁にぶら下げた
自転車の鍵を手に取った。
デスク作業も作業で骨が折れる。
案外、1日に来る紛失届の処理や不審者情報。
その他、諸々は室内で大体出来るからさ……
「行ってくる……」
「サボならないでくださいよ」
扉に背向ける高松は手を挙げて振る。
振り返る事はないが、いつも通り。
――ガチャ
扉が閉まると狭っ苦しく
待合用のチェア
受付カウンターが敷き詰められている。
交番の入り口から一帯に漏れる日光。
オレはそこに直立し、スライドドアを開ける。
何でもいいが、暑いのは勘弁――
その後はオレも仕事で警官しているからな。
市民を護り、市民から頼られる存在だ。
今までの怠惰を払うみたいに
背筋を伸ばして、自転車に乗った。
巡回と行っても、ただ地域を廻るだけじゃダメ。
これはオレのポリシーみたいな物だが……
積極的に地域の方々に挨拶は当然として、それにプラスしてオレは世間話に混ぜて悩みや相談事を聞き出している。
お節介だとか、鬱陶しいと想われていても
そう囃し立てられているのが華だろ。
「こんにちは〜」
早速、今日初めての地域住人だ。
自転車から静かに降りて静かに挨拶をする。
この方は毎日、ここの公園前を散歩している
ご高齢の女性だ。
「こんにちはー、保科さん暑いのに大変ねぇお疲れ様〜」
「暑いのはお互い様ですからねぇ、ご婦人は水分取っていますか?熱中症とか、お気を付け下さい!」
「あぁご気遣いありがと確かに熱中症怖いわぁ〜」
オレはこうして飲物の購入と休憩がてら近くのコンビニまで本人の希望もあって付き添った。
「ありかどうねぇ、付き添ってくれてぇ……」
「いえいえ、では帰りもお気を付けて!」
ご婦人とコンビニを後にして
再び地域の巡回を始めた。
住宅街、車の通りが多い場。
路地裏や人目の使い場。
地域の至る所を巡回していく。
そんな中で
――ふと思う事がある
こうした人助けは“正義”なのだろうかと。
人によってはお節介で余計なお世話だと感じる事が多々ある。介入不可の領域は人それぞれにあるから線引きは慎重にしているつもりだ。
だが、護れない命なんて無い。
護れない命ってのは……きっと……
『保科……ワタシね……死にたいの…………』
「っ……!」
急に昔の事をフラッシュバックしてしまった。
あの事を思い出す度に頭痛が酷くなる。
堪らず自転車を降りて
近くの電信柱に寄りかかる。
「ん、お巡りさん……どしたん具合わるいん?」
「あ、ん……だ、大丈夫ですよ、気遣いありがとうございます」
近くの高校の制服を纏う、女性だ。
金髪に染め上げた髪にルーズソックス……。
まあだが、こうして人に気遣い出来る子がいる事がオレは嬉しいし、希望を持てる。
「そうだ貴女は近くの高校の――」
「あぁ、そうそうアタシ兼充東高校で通っててさぁ〜そうだお巡りさんさぁ〜少し探して欲しい物があんだよねぇー」
「探し物? 落とし物でしょうか……?」
この子は妙にノリが軽くて距離が近いなぁ。
所謂ギャルという存在か。
だが根は良い子なんだろうと思う。
「そそ、なんか〜ええとぉ宝石みたいにキラキラしててぇー空から急に降ってきたんだよねぇ〜」
キラキラ? 宝石?
空から降ってきた……?
「そ、そうなんですね〜」
「そそ〜今さ学校行くとこなんだけど、校門から降ってきたさぁ試しに拾ってみたらカラスに取られちってさぁ〜」
彼女は指に自身の髪を束ねて、ギャル特有の語尾を伸ばす話し方で相談してきた。
確かに、この子は人の気を遣える良い子。
だが純粋なのか無垢なのか或いは……
この子がオレに頼ってくれるのは本当に有難いし、その為にオレ達がいる。
だからこそ取り敢えず今回は保留しておこう。
「分かりました、では学校周辺や地域を隈なく探して見つけ出しておきますね!」
「え、マジぃ?お巡り様々なんだけど!!」
「はい、では貴女は学校へ戻っては――」
言葉を紡ごうとした、その直後。
――ドン!!
突如としてオレと高校生の真横に落ち
大きな音を立てたのは――
「え、なになに?これ!」
「っ……拳銃……?」
な、なんだ。
空から、拳銃が降ってきたのか?
オレは、地面に落ちてきた拳銃を一心に見つめ脳内で事態を理解しようと掻き乱される。
「ねね!お巡り様、なんで空から――」
オレの身体は頭で考えるよりも早く行動していた
女子高生の手を引っ張り走り出した。
この拳銃がこの日本に、入手や所持、存在している事などイレギュラーな事態であるのは間違い無し
「ちょちょお巡り様ぁ?なになにぃ!」
女子高生が混乱するのも無理ない。
だが……これはもう……
――ドン!!ドドドドン!!
次々と至る所に同じ様に銃が降ってきた。
まるで雨の降り始めのようにポツポツと
可笑しい。明らかな異常事態だ……。
オレ達が走ってる真上からいつ降り注いでくるかは分からない、だが四方八方と雨の様に落ちる
“ソレ”が指し示す。
――逃げなきゃ、命を奪われると――
『死にたいなんて……言うなよ馬鹿か?』
「んでも、死なないと解決しない……だからワタシは死ぬの決めたの……」
「じゃあ、なんでオレに言うんだよ、オレがどう言う奴かお前は知ってるだろ? 全力に止めるに決まってるだろ!」
「だって――」
――想起したのは、高校時代――
初めての彼女に、最後に言われた言葉……
『……生きていたいから貴方に止めて欲しかった』
「ねぇ!ヤバいって……マジでマジのマジでぇ!」
「大丈夫、今……安全なところに!」
安全な所?
この世に安全な場所なんて……
いや待て考えろ!
周りを見ろ、だが止まるな。
住宅はダメだ直ぐに壊れるだろ……
逃げるなら地下または頑丈な屋根の下。
だが、そんな都合よく。
辺りには電柱と石垣にマンホール。
マンホールに逃げるか?
「ちょ!あそこまで行こ、お巡り様ぁ!あそこだよ、あそこ!高架下っ!!」
彼女の叫び声が耳をさんざめき、混乱と焦りで固まった脳内が活発に動き出した。
「っ、分かりました!!
一緒にあそこへ避難しましょう!」
保科くれは、後に地下鉄へ行き
自身の正義について葛藤する。




