EP;4
「まず“金澤信用保管組合”とは何か君に話そウ」
地上の眩い光が目を刺激する。
僕は今、謎の七三分け男とアンナの
後ろに付いて歩いている。
負傷した神尾さんを救う為とは言え、神尾さんに発砲した張本人に従うのは不服だ。
だが、こうもしないと自分の命や神尾さんの命を護ることは出来ない。
――奴が武器を手にしているから。
「この道々に広がる銃器を拾い集め、埋め尽くされた市民を救い街の復興作業を進める物ダ」
「これでもワタクシ達は慈善の、言わば復興隊サ」
“金澤信用保管組合”と名乗る奴は、その実態を僕に明かしていく。僕が彼らの仲間に入ると公言したからなのだろうか。
だとしても、さっきまで言い争いしていた相手に心を直ぐに開くものだろうか……
アンナが七三分け男の半歩後ろを歩いている。だが、その後ろ姿は以前の何時も明るさを濁さなかった彼女とは掛け離れていた。
それは……そうか……
状況が状況なだけに思いがけず
僕は彼女に『煩い』と放ってしまったのだから。
小さい頃からずっと仲良くさせてくれた相手に、酷い言葉遣いだ……相手に非があっても遣る瀬無い気持ちで満杯だ。
ふと自分の胸に手を当ててみた。
「…………聴いているかい?」
――――ガサガサッ
前触れなく七三分け男が立ち止まると銃器の地面が鳴る音が止まった。
すると彼は僕の方をジロリと覗く。
その切れ味のある一言に、僕は思わず素っ頓狂な声を挙げだが、誰も気にも留めない。
「君は今から組織の一員ダ……
話を聴いて理解してくれないと困るヨ」
「そ、そんな事より……
なんで僕を急に受け入れた?」
アンナが振り返ると長い金髪の髪が靡く
だが、曇った顔で僕を見ていた。
男も体を捻り、真っ正面で僕を見る。
そして無表情で両手をポケットに入れた。
「神尾さんをなんで撃った?いやそれより!どうやって銃弾を手に入れたんだよ!」
僕は口が開いたと思えば立て続けに疑問を投げかけていた。準備していた訳じゃないが、ずっと心の中で泳いでいた疑問点が出てしまったみたいだ。
「質問が多すぎる要点をまとめなさイ……」
片腕をポケットから出す。
口を曲げて男は頭髪をカリカリと掻いていた。
僕の言動に呆れ果てている様に感じる……
「まず一つに、ワタクシは君を受け入れた訳じゃない、そこにいる古都さんが誠意を見せて組織に加入させる事を懇願したのダ――」
男がアンナに指を指して
皮肉を混ぜたような笑みを浮かべていた。
肝心のアンナとはと言うと変わらず曇った顔を僕に見せ、表情は一ミリも変わらない。
「ワタクシは彼女の誠意に答えたのみだよ……
仲間の意思を汲み取るのがリーダーである
勤めなのだからネ」
――それなのに
「感謝するんだナ……“友人”にネ〜」
僕はアンナの気持ちを完全に知る事は
出来ないけれど、圧倒的な力を持った人間に
抗えなくて支配される側になってしまうのは
理解できるし、アンナは何も悪くない……
「アンナ……?」
咄嗟にアンナの名前を呼んだ。
だが、彼女は目を合わせてはくれなかった……
「……二つ目、あの中年を撃った理由は単にワタクシが気に食わなかったからダ」
「……そ……そんな理由で?可笑しいだろ倫理観」
「当然な事さ、あの様な者が一人でもいると組織は内部からバランスが崩れていくのサ……
アイツはあのまま朽ちればいイ」
何とも自己中心的で倫理観の欠片もない。
同じ災難を受けた、同じ人間だとは思えない
心底、僕は奴を軽蔑する。
「っ!」
歯を食いしばり、拳を握り締めたりで
何とか奴に反抗する言動を堪えた。
「まあ中年男を救う事は諦めて、せいぜい君も長生き出来るように努力してみるといいサ」
奴は、そう言って再び歩き出していく。
言い返すな、言い返すな、と自己暗示する。
銃器と銃器がぶつかる音。
僕らがそれらを踏み締める音が辺りに響く。
「おい……待ってくれよ……銃弾は何処で!」
徐々に徐々に男とアンナから離れていく中、声を大にして、また疑問を呈したがスルーされてる。
銃弾の有無は今、この世界では
悪い意味でも良い意味でも必要不可欠……
だからこそ奴は話そうとしないのだろうか。
つぐつぐ
あの時の神尾さんの言葉が現実味を帯びているよ
――――ジャラジャラ ジャラジャラ
足が痛い……もう随分と、こうして裸足で銃器の地面や沼に足をつけている。
きっと普通の靴を履いていても
痛みは変わらないだろうけれど、靴が欲しい。
足裏や甲に青アザが出来てるのだと察すると、自分の限界は当に超えているのだと解る。
地下鉄から何分、掛かっていて何処に向かってるんだよ……歩いてるのはいつもの街なのに、何も分からない。
神尾さんの容体が心配だ。
……母さんや父さんもだ。
「おい……本当に組織なんてあるのかよ?
人の気配なんてしないぞ!」
一瞬、アンナがこっちを見た。
だが直ぐに正面を向いてしまった。
七三分け男はゾンビみたいに前進しまくって、行き先も僕がコレからどうなるのかも話さない。
こんな奴、信頼できるものか!
――――ジャラジャラ
「着いたヨ」
七三分け男が立ち止まる。
周辺を見渡すけれど建物も看板も全て破壊し尽くされていて何もわからない。
だが、ただ一つ白旗が建てられていた。
「此処……どこですかアジト……?」
「勿論さ、拠点がないと統率も取れないからネ
此処は元、銀行だった土地だ……
今はもう何も残っちゃいないけどネ」
銀行?
銀行って言ったら駅から近めにある
東兼充信用金庫……?
「改めて……新常識が此処に集約されているヨ
ようこそ“金澤信用保管組合”へ」
ん?でも、此処が拠点って言われても。
確かに建物が建てられていたであろうスペースには銃は一つも残されていないけど……。
こんな野晒しで……しかも一人も人がいない状態を拠点と言われても肩透かしを喰らう。
「さあ、地下へ行こうか」
「地下……銀行に地下なんて用意されてんの?
金庫室みたいな所?」
七三分け男は真っ新な正方形の空間へと
ゆっくりと歩いていく。
アンナは付いて行かなかったけれど
僕の真横に移動してきた。
「ほぼ合ってるヨ……かつて此処は大手銀行支店だったのさ、今は支店は移転したけれどネ」
「その名残で大規模な地下金庫室が残されていたと言う訳さ……ホントに運が良かった……今や物置き場だった元金庫室は立派なワタクシ達の拠点だヨ」
七三分け男は興奮気味な調子で言葉を紡いでいた。両腕を大きく広げて風を感じている。
時折り吹く風は温いのは変わらない。
この後、僕はどうするべきだ?
神尾さんの傷を治療する為にも
医療に長けている人を地下金庫から探し出すか。
何でも良いから使えそうな道具を持って――
――抜け出すか。
きっと一筋縄じゃ七三分け男は逃がしてくれない。きっと逃げたら完全に敵になる……
そうなった場合は僕らが不利だ。
――相手は発砲できる。慎重に動がないと!
「聞いて……樹太朗……」
「……ん…………アンナ?」
アンナの暫く閉じていた口が開いた。
曇っていた顔は健全だが、何かを伝えたそうだ。
「金澤は……見れば分かる通り危険な奴……
アタシはアイツに逆らえなくなった……」
細々と、淡々と伝える。
僕らの体の向きは正面を向いていて、奴から見て不自然にならない様にと気を遣っている。
「樹太朗や、あの人に銃を向けたのも、申し訳ないって思ってる……んでもね――」
――コッ、コッ
正方形の空間と、それに続く数メートルの距離には銃器は綺麗に無くなっていて地面が見える。
そして奴の皮靴の音も鮮明に耳を通る。
――コッ、コッ
段々と奴との距離が近づく。
先程までの荒い鼻息混じりの声とテンションがなかったかの様に彼は何も言わない。
「“アタシそれでも自分の命は惜しかったの”」
「……樹太朗……ゴメンね……」
アンナの細い糸の様な声と今にも泣き出してしまいそうな震え声に、ただ僕は聞くしかなかった。
紛れもなく、これは真実。
――奴に耳打ちして懇願したのがその証明だ。
今は正面から奴が近づいているので
真横を振り向くことは出来ないが深く同情する。
アンナの口から事態を知れて本当に良かった……
ありがとう……。
「おや……君……君サ」
革靴の軽快の音とは裏腹に
七三分け男が細い目を光らせる。
「裸足じゃないか――よく此処まで裸足で、やってこれたねぇ……アザだらけじゃないカ……」
「靴を支給してみてはどうでしょうか!」
アンナが横から割って入る様に、昔のいつもと変わらない明るさの片鱗を僕らに見せつけた。
「ん、あぁ……そうですねぇ古都さン」
一瞬、男は混濁した表情を見せたが
直ぐに調子を戻す。
アンナが、こうして装っているのも……
全部、恐怖や支配に一歩でも他者に介入させない為の生き方のような物なのかもしれない。
そうでもしないと、精神が保てないから……。
僕は下唇を強く噛んだ。
もう、誰も傷付ける出来事は起きないで欲しい。
「まあ、後少しで地下金庫サ、頑張レ」
そうして奴の後ろを着いて歩いた。
正方形の左上付近。
そこに地下へと続く階段が続いており
下ると時代を感じさせる鉄の扉が構えていた。
「此処が、拠点だよ……君はまだ正式加入者ではない事を念頭に人員と接する事をお勧めすル」
「勿論、無断で逃げ出して……あの中年男の所に行こうとあらば〜分かっているネ?」
《事象発生 1時間11分後 10時11分》




