EP;3
「まずは審査しようじゃないカッ、ワタクシ達……『金澤信用保管組合』の一員に相応しいかネッ」
七三分けの謎の男
そして銃を僕達に向けるアンナ。
場の緊張感は独特だ。
神尾さんは一歩前に出て僕を庇うような態勢。
「おうおう!急に何飛び入りしてんだ、アンタ?まずは名前を名乗れってんだよ、常識だろうが!」
七三分けの男を挑発するかのように
神尾さんは、ズボンに手を突っ込んだ。
何が何だか……ホントに息づく暇がない!
終末世界なんだって嫌でも認識してしまう。
「それは失礼……うーん、まあ常識と仰られましたが、それは“以前の世界”での話であって現状の世界では相違ではないことを――」
依然と七三分け男は階段をニ段残した所で僕らを見下している。これは比喩であり、実際の事だ。
「理解しているかナッ?」
男は懐から、銃を取り出した。
詳しい種類は分からないけれどゲーム知識で
言うなら、レボルバーに見える……
だが、そんなのは今は脅しの道具ではない。
現実世界でも大差ないと思うけれど、重要なのは性能でも種類でもない
そもそもの“弾”が無きゃ話にならない。
「っち……それが新しい常識か?舐めんな!」
神尾さんは唾を奴に吐きながら
後ろを振り返って僕に呟きかける。
「いいか、兄ちゃん……嬢ちゃんをアイツから引き離して線路を渡れ、少しの間、俺はアイツを踏み止ませるからよ」
「え、で!でも……」
突発な提案に少し戸惑ったけれど目力のある覚悟を決めた顔を見て、乱心する心を改めた。
提案は頼もしかったけれど
同時に僕は淋しさを感じてしまった。
それは単に自己犠牲の道を提案したからじゃ無い
――もしかしたら、もう二度と会えなくなるかもしれないから……
「大丈夫、弾なんて入ってないんだからよ」
ゴツゴツとした神尾さんの手で僕の両肩が押さえ付けられ、小さく力の入った両手を感じた。
同時に“大丈夫”という言葉に妙に納得してしまい、ゆっくりと頷いてしまった。
「特別に教えてあげましょうカッ!現在の常識を……まず一つに既成概念を捨てる事ですネッ」
神尾さんは、頷く僕に優しく微笑みかけた。
それは何処か父親のような温情を感じる……
「んだと?アンタが今の世の中を
語れる訳ねぇだろうがよ!」
直様に七三分け男の方に身体を捻り
野次を飛ばす、その姿に
所詮、僕はまだ何者でも無い小さな存在なんだと卑下してしまうぐらい……
――大きな背中だ。
「言えますとも! だってワタクシこそが……」
『東京、いぃやぁ〜世界を変える人ですよォ』
まさに間髪入れずにアンナが、七三分け男に歩み寄り、同じ段数の所で立ち止まった。
「ん、いや……アンナ……」
瞬時に言葉が出てこない。
僕は瞬時に“その男は信頼出来ない”
と言えなかった。
「嬢ちゃん、ソイツはあぶねぇぞ……」
思わず神尾さんも言葉が漏れたみたいだ。
アンナはまた光のない瞳で
僕らに銃を構えている。
この構図は戦隊モノの敵対関係を表すみたいな露骨なシチュエーションだと、何処か頭でよぎると友人であったアンナが……
――そっち側に行った事に強く堪えた。
「そんなに君達に審査時間を避けれないかラッ、端的に答えてネッ……」
「何をだよ!俺達もアンタと別れてぇよ……子供を上手く手中に収めたのが嬉しいのか分かんねぇけどよぉ……早く、その子を――」
――パァーン!!
“時が止まった”出来事だった。
地下鉄内が、その音で鳴り響く。
遠くへ遠くへとこだまする。
「っ!!」
その耳の奥から騒ぎ出す乾いた発砲音は
僕の瞳に大きく映った背中を
一瞬にして縮こまらせる。
僕らが絶対にあり得ないと考えていた事。
でも万が一、それが起きたら取り返しの付かない事態になりかねないと感じでいた。
『あぁ、多分これら降ってきた銃に装弾なんかされていねぇんだと思う……』
「あぁ……う、う嘘だ……嘘だ嘘……」
『大丈夫、弾なんて入ってないんだからよ』
倒れ縮こまった神尾さんに一目散に近づいた。
撃たれた箇所は太腿なのか、そこから大量に血の水が流れ出ていた。
「神尾さん!神尾さん!」
「っ、え……ん…………?」
神尾さん自身も撃たれた事実を認識できていないのか、はたまた撃たれた衝撃なのか、目を強く細め歯を食いしばり、全力で痛さを堪えていた。
「うん、面接では……面接官を貶しちゃダメだヨ」
「して……古都さんのご友人をどうしようカ」
もうこれ以上、悲劇は起きないと……
――――銃が降り注ぐ以外の悲劇が。
起きないと思っていたのに。
僕は正面に僕達を見下す、奴を睨んだ。
「やめて下さい……樹太朗はアタシの友達です
お願いします……き、傷つけない……で……」
アンナが小さく訴えていた。
動揺しているのか身体が震えている様に見えた。
「そうっカ、なるほどネ」
奴は顎に手を添えて、その次に口を開いた。
「どうかな迷える若者よ!
ワタクシ達と一緒に来ないかい?」
どうすれば。
神尾さんを連れて線路に向かうか……
でも、そうしたら後ろから撃たれるかもしれない
「兄……ちゃん……いけ……」
「へ……え?」
太腿を押さえながら上体を起こす神尾さんの姿は見てられない、それでも耐えながら言葉を紡いでいる……。
「行け、アイツに…………捕まるな…………」
僕に放つ言葉は神尾さんを“見捨てる”
という行動を勧める物。
「線路を渡れ……そしたら人が居るはずだ……俺のことは気にすんな……」
「そんなこと……絶対にしない!神尾さんも助ける……アンナもどうにかするから!」
ヤバい、出血が酷い。
早く何か処置しないと……
「……樹太朗、お願い……来て……」
うるさい……うるさい!
なんで、そっち側に行ってんだよ!アンナ!
僕は力一杯に患部を抑えた。
「っが!ん、ああぁ!!」
学校だったかアニメだったかで得た知識だけど、下手でもとにかく止血しないと危険だ!
「ねぇぇ……樹太朗……お願……い」
アンナの声が鬱陶しく感じた。
いつもは楽しく好意的に感じていた彼女の能天気な性格にもだ……。
「樹太朗……きて……」
『静かにしてくれ煩い!!』
――アンナに……友達に、こんな大きな声で強い当たりで感情的に言葉を投げたのは初めてだった。
故に後悔と罪悪感で胸が熱くなった。
目の前に危険な状態な人がいて
直ぐ傍らにはした危害を加えた張本人。
「ん……樹太朗……」
焦っていた……限界なんだよ、僕はもう……。
静かに僕の名前を呼ぶアンナの声が耳を通る。
“これで嫌われても良い”と後から湧いてきた感情が僕の気持ちを攫った。
怒鳴った声は発砲音と同じように
地下鉄に響き渡り場は静まり返る。
今はただ、神尾さんの出血を止める事に集中。
もし奴に撃たれても、この人は助けるべきだ。
「いけ…………樹太朗!!」
「……いやだ…………」
「行くんだ!!樹太朗!!」
真っ正面から、名前を呼ばれている。
強くでも優しさに包まれた声色だ。
逃げたら神尾さんは死ぬ……そんなのダメだ。
死んじゃダメだ。生き残ったんだから……
――信頼し合えたんだから!
「樹太朗、いいんだ……だから
自分が助かる道を行け!」
「……助かる道」
頭の中で何度も神尾さんの脳内再生する。
どうしようもなく、心が折れかけていた。
神尾さんの目を見れば、優しさを感じる。
僕はその優しさに思わず頷いてしまった。
だけど神尾さんはニヤけて笑った。
もう、顔が真っ赤だよ……。
一度、アンナと奴の方を見る。
七三分け男はリボルバーから出る煙を眺めている
その銃の弾を何処から拾ったのかは分からないけれ……きっと、奴は本気で僕らを殺そうとしている
その横にアンナは銃を構えず棒立ちしていた。
密かに頬に涙を流しているのを見て
より罪悪感に襲われてしまった。
殺されるのも嫌われるのも、逃げるのも。
どっち道、最悪に嫌だ。
――なら……なら!足掻いてやる。
「おい七三分け!アンタの仲間になってやる……」
僕は立ち上がり声高らかに
上から目線に物を言った。
「……樹太朗」
「神尾さん、大丈夫です……アナタは絶対助ける」
止血はある程度、出来たと思う……
でも神尾さんの体力も長くは保たない。
猶予は残されていない。
「んへぇ、そうかい……君は偉いね、若いのに度胸もあってネェ……普通、“逃げるか取り乱して可笑しくなるか”だからネ」
七三分け男がリボルバーを構えて、悠長に。
だが、僕は逃げない。
神尾さんを……救うんだ。
「金澤様――」
アンナが七三分け男に頭を下げていた。
「お願い……します…………」
その姿を七三分け男は見ると
リボルバーを懐にしまい東口の方へと歩き出す。
「着いてきなさい、樹太朗君……」
僕は彼女の、その姿を見て
アンナもアンナで極限状態なんだと……
奴に支配されているのだと
改めて冷静になって認識した。
アンナのお陰で結果的に場が収まって
少しの安堵感が心の内側から湧いてきた。
神尾さんを壁側に肩を貸して向かう。
そして楽な姿勢を取らせた。
その間、苦しそうだ……。
「待ってて下さい、神尾さん……
必ず戻ってきます直ぐに!」
僕は奴の後ろを辿って東口側の階段を登った。
《事象発生44分後 9時44分》




