EP;2
「もし、僕に銃を撃っていたら神尾さんは、後悔していましたか?」
「ん……ってかまあ
銃には弾なんか入ってなかったからなぁ……」
僕は今、神尾信成さんと最寄りの地下鉄へと向かっている。
僕らが歩く、道々には畏怖の象徴である
――銃器が地面として成り立っていた。
傍を見れば倒壊したビルの瓦礫や倒木などが乱雑に……そして退廃的な雰囲気を醸し出す。
立ち上る重圧に満たされた小火の煙が辺りを包むと焦げた匂いと鉄の滲んだ臭いが鼻を刺激する。
そう街はこれら銃器によって
壊滅に追い込まれた。
僕の家も当然、後型も無い。
近所の自宅もコンビニも道路も車も何もかも……
日常が一瞬で壊されたんだ。
「銃に……銃弾が入っていなかった……?」
「あぁ、多分これら降ってきた銃に装弾なんかされていねぇんだと思うぜ」
「どうして、分かるんですか?僕、分からなかったですよ……銃が入ってるかどうかって」
徐ろに、でも着実に地下鉄までの道のりを僕らは歩いて行く。
その間に
“降ってきた銃器には弾が入ってない”
そんな重要な情報が耳に入った。
当然、日本は銃規制が厳しい国。
普通に暮らしていて銃を眼にする機会も触れる事も、銃によって日常を害されることも殆ど無い。
それ故に基本的な銃器の扱いも仕組みも、フィクションで語られる断片的で不確かな情報でしか記憶として残っていない。
「そりゃ俺だって初めて銃を見て触ったよ……だからこそ念入りに調べ尽くしたよ」
「そ、そんな冷静に調べれるんですか……」
素直に想うことは神尾さんは
頭の回転が速い人なんだと言う事。
“空から銃が降ってきて街が崩壊”
そんな状況下で冷静に降ってきた銃を分析したり、今後の事を見通すのは普通出来ないや。
僕なんて、膝から崩れ落ちて絶望に耽っていたと言うのに……今も、あの時の絶望感がチラついて手や足が震えるというのに。
「いいか兄ちゃん、社会ってのは阿保ほど他人の事を見ていない そんな社会の中で精神壊さずに生きる工夫が“知恵と冷静”何だよ――」
「って我を見失って兄ちゃんに銃口を向けた奴が言えたもんじゃねえよな――ハハ……」
気まずそうに声量を下げて
申し訳ない程度の愛想笑いを振り撒いた。
横で歩幅を合わせていると染み染みと感じた、神尾さんは自分の行いを僕が思っているよりも後悔していると。
僕は無精髭が仄かに生えた、
神尾さんの顎を静かに覗いた。
「本当に“脅していた”だけだったな俺って――
自分よりも力も経験もない相手に対して
最悪な決断をしちまったよ……」
「でも」
間髪入れず、自信気に僕は言い放つ
「僕を――信じてくれた、今こうして少しでも、互いを分かり合えたじゃないですか――」
このタイミングでコレを言えたのは
きっと神尾さんの想いを、考えを人生を
無下にしたくなかったんだ。
「…………信じたね……そう簡単に人を信頼しちゃいけねぇけど、兄ちゃんの人を“信じたい”って気持ち俺も昔、抱いてた事もあったって――」
目を逸らして、浅い呼吸を繰り返して
また神尾さんは僕に目を合わせた。
「――思い出す事……出来たよ……ありがとな」
僕は力強く足を踏み締める
それはもう
地面となった“全ての諸悪の根源を”
ぶち壊す勢いで。
「兄ちゃんよこれからは
敬語とか要らねぇからよ、気軽にな」
「え、えと……でも歳上ですし
友達でも何でもないですし……」
「いいってカジュアルに行こうぜ? てか敬語って面倒いだろ?堅苦しいし……それにまあ――」
珍しく風が吹き
背中を押した気がした。
その風は生温く
まるで泡い希望みたいに
スッと過ぎ通っていった。
ただ、その風に負けんじと僕らは歩く。
「これは“対等”って意だよ」
――――――――――――――――――――
「着いた兼充駅……」
此処は兼充駅の西口で通常、道のりとして15分ぐらいで着くけれど今回は道が険しいので倍は掛かっているだろうか。
此処なら地下鉄が通ってるから
生存者達が沢山いるかもしれない。
改札機は閉じっぱなし。
緊急シャッターなどは閉まっていない。
駅員、警備員は誰一人としていない。
異様な静寂の中、二人の足音だけが響き渡る。
だけど、床を見ると血痕が残っていた。
だが、血痕が残っているのにも関わらず此処までの道のりで誰一人として生存者と遭遇していないばかりか、人の気配も何もなかった。
――そして目の前に地下へと続く階段の奥からも、人の気配や話し声も微塵も聞こえない。
「い、行ってみるぞ……兄ちゃん」
「はい、でも……警戒はした方がいいのかも」
互いの顔を見合って恐る恐る
階段を下る僕と神尾さん。
何となく警戒はしている物の
人がいて欲しい……
どうにか沢山、人が生き残ってて欲しい
そんな気持ちが心にある。
――コツン、コツン
とうとう、地下鉄のホームにやってきたのだが
人っこ一人いやしない。
そんな無音の駅のホームは正に伽藍堂。
「ん、な……なんだよ誰もいないのかよ」
「そんな? でも可笑しい……改札前とか駅ホームには銃の姿はない……一体どう言う事だ?」
「だよな兄ちゃん!きっと別の所に避難したのかもしれない……ほ、ほら線路を歩けば時間は掛かるかもしれないけど都市部にいける」
「そ、そうだよね……
きっと、そうじゃないと説明が出来ない!」
僕らは、身の毛もよだつ程に動揺し
疑問や可能性を連ら連らと並べていた。
そんな未曾有の状況下で摩訶不思議な事象に出会している最中に、僕達は耳にした。
僕達が降りてきた西口側の階段だ。
――コツン、カツン、コツン、カツン
地下のホームに続く階段からだ。
戦慄とまではいかないけれど
僕は背筋を伸ばす。
神尾さんは深刻な面持ちで、音のする方に身を乗り出すと、口の前に人差し指を立てジェスチャーを取っていた。
この音の正体は明らかに人間の足音。
その人間が僕らにとって脅威になるかは
まだ分からない。
“この場に確かに居たであろう、大勢の人々は地下鉄の線路を通って別の所に移動した”
そう、高速で解釈して数分。
それ故に固唾を飲んでしまう
――コツン、カツン、コツン、カツン
「ん、アレぇ〜樹太朗じゃん!!お久〜てか、何々どうなっての兼充!街崩壊してんよ?」
あぁ、嘘だ……良かった生きてる。
生きてる……。
ブロンドに染め上げた長い髪をクルクルと自身の指で絡み合わせながら満点の笑みを見せた。
「はあ〜マジで良かった!!テンション爆上げなんですけどぉ〜朝から意味不明な事ばっかだったからさあ、マジ最高ッ……!」
紅く塗り上げマセた唇で元気よく
陽気に話しかけていた。
涙目に、なっているのも見えた。
「うん……うん……」
相槌を付くしか、今は出来ない。
本当にアンナが生きてて良かった!
「ッゲ、どしたの樹太朗、涙でてんよ?」
茶化す様に笑いながら指摘するアンナ。
「そりゃあ、そうでしょ……てかアンナもだろ?
アンナ生きてて良かったマジで良かった……」
まさかこのタイミングで
出逢えるなんて思いもしなかった……。
甘い香りが場に漂い和む。
底抜けに明るくて、ギャル魂を宿した人だ。
「おっと、知り合いだったみたいだな兄ちゃん」
神尾さんは僕の反応で
安堵したのか警戒を解いていた。
「うん、古都アンナ……僕の数少ない友達なんだ!アンナも、この人は神尾さん信頼できる大人だ!」
2人に互いの名前を教え合った。
僕は今、とても心が落ち着いて弾んでいる。
アンナは着崩した兼充高校の制服を着用していて
その上着のポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと階段を降り終える。
でも不思議だ。
一人で行動していたのだろうか?
肝が据わっている……って言い方があってるか
分からないけど、少し冷静に見える。
「うわ、マジ? イイじゃん良かったジャン!……んで!どしたの二人は地下鉄にいんの?」
微笑んだ瞳に一瞬の陰りを宿さず
太陽のオーラを僕に浴びさせていった。
彼女と会話をするのは本当に楽しい
なんて事ない話題でも楽しくリアクションを取って、話題を広げてくれる。
小さな頃からの腐れ縁で小中高
今も尚、人見知りな僕の数少ない友達。
「まあ、そりゃあ……俺達も困っててなぁ、取り敢えず同じ生存者を探して、安全な所を確保して、物資とか集めてって考えてた所なんだよ嬢ちゃん」
「アハ〜アタシとおんなじですね!」
「そ、それなら!アンナも一緒に同行しない!
人は多い方がいいしさ!」
――コツン、カツン
ん、また階段から人が降ってくる音が聞こえる。
そうか、きっと皆んな考える事は同じなんだ。
地下鉄に行けば人に一先ず出会えるって……
「あ、で……でも……」
意味ありげに言葉を濁すアンナに
茶化すように神尾さんが言葉を混ぜる。
「ん、どした?遠慮しなくてもいいんだぞ!」
『だってアタシ……もう別の人の何処にいるから』
――うそ……だろ?
アンナが上着のポケットから両手を素早く出したと思った、次の瞬間。
――拳銃を僕らに構えていた。
「お、おい、嬢ちゃん!分かるぞ、分かるぞ〜俺も血迷って、同じ事しちまったからよぉ」
煽てるように神尾さんは言うけれど
アンナの構えは変わらない。
彼女は暗い靄に掛かった表情をする。
「よ、様子が可笑しいよアンナ!」
――コツン、カツン……
『あぁ良かった良かった、手柄だよ古都サン』
同じく西口の階段から降りてきた男は濃紺な無地のスーツを着込み、飄々としていた。
胡散臭さを感じる、その細目を光らせ
場に新たな雰囲気を演出させた。
「アタシの知り合いです……なので……
なので、何もしないで下さい……」
アンナが銃を構えながらも、いつものアンナとは違うテンションと声色。
何処か悪い黒い何かを抱えているようだった。
表情も彼が来てからと言うものの強張っている。
一体どういう事だ?
アンナはこの人と行動しているって事だよな?
その男は髪を七三で分けていて妙な威圧感を感じるので、恐怖心が湧いてくる。
彼は不気味な笑みをしながら
階段の最後の三段目で僕らを見下していた。
「まずは審査しようじゃないカッ、ワタクシ達……『金澤信用保管組合』の一員に相応しいかネッ」
《事象発生37分後 9時37分》




