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“大銃壊”−その日、空から銃が降ってきた−   作者: 秋浦ユイ
草山樹太朗篇 8時25分〜10時32分
3/19

EP;1

 ――例えば人類が僕一人だけになっていたとしたら、僕はきっと生きていけない。


 僕は()()()()()崩壊した街を練り歩く。

 

 無力感と虚無感が脳を巡り

 遂には吐き気を催してしまった。

 身体はガクガクと震え上がる中、歩く。

 穴が要所要所、空いていて危ない……。


 あぁ、本当に

 兼充(かねみつ)は希望の無い地獄に変わり果ててしまった。

 

 倒壊した建物の瓦礫から煙が立ち上り小火が発生していて、辛うじて原型を残したビル群は硝子を失い情けない姿になっている。

 

 近くの草木は散り散りに砕け散り跡型も無い

 惨劇が見て取れる。

 

 この状況の最も恐ろしいのが様々な種類の()()が山の様に無秩序に積まれている事、そして全ての元凶が、空から降ってきた――


 ――これら銃によるものだという事。


 僕が踏み入る足場は全てその銃器の中。

 高さはくるぶし辺り。浅い水溜り程だろうか。

 (アスファルト)に穴が空いてるのも相まって歩き難いや……

 

 今はただ……人を探そう。

 そう自身で絶望の最中、強く唱えている。




「誰か!いませんか!!」

 

 崩壊した混沌の街に無秩序に声を荒げる。

 奇しくも声は反響せずに恐らく二次被害の火災の音らで掻き消されている。


 誰かに届いてる実感も湧かない。


「誰かいませんか!!」


 本当に可笑しいよ……

 日本という銃規制が厳しい国だぞ?

 いや、そもそも可笑しいのはそこじゃない、誰か予想付くと言うんだ?


 ――空から銃が降ってくるんだぞ?


 折角、立ち上がって人を探していても

 この地獄の風景を見ていると声を張り上げる気力も全部、削ぎ落とされてしまう。


 本当に急な出来事だったから、尚更。

 


 運良く生き残ったけれど、精神的にキツい。

 どうすりゃいい?

 

 今残るのは、ヂリヂリと何処かしらが燃える音と自分が歩いて回る時に発生する、ガタガタとジャラジャラと重くて鈍い音しか聴こえない。


 急に足から力が抜けて銃の地面に崩れ落ちた。

 裸足で、もう何十分も歩き回っている。

 銃器を踏み締めるのにも痛くて不安定で冷たい

 

 ――――神様いるなら答えてくれ……母さんや父さんは生きてるかとか、何でこうなったのかをさ。


 

 僕以外に本当に人は生きているのだろうか

 もう誰でも……いい……

 

 

「お、おい……そこのアンちゃん?」

 

 後ろから声が聞こえた。

 嗄れた声だ。


「え?」


「生きてるよな!やっぱり生きてるよな!」


 後ろを振り返ると

 中年ぐらいの黒のスーツを見に纏った男がいた。


 その男の人の姿を見た瞬間に、人に出逢えた事の喜びを全身全霊に感じた。

 

 血の気が抜けていた足腰な血が巡り出し、勢いよく立ち上がっていた。

 

 胸がソワソワした、心臓の音が高鳴った。


「あ、あなたは……」

 

 知らない人であろうと、人に出会えた……。

 その喜びで胸が一杯になる。


 僕に声かけてくれた中年の男性は

 今にも涙をこぼしそうな表情。

 その顔を見て僕も目に涙を溜めてしまった。

 

 ふと男の手を見てみると

 拳銃を持っているのが分かった。


 僕も思い出したかの様にズボンの上から長めの筒を撫でるように確かめた。


 護身として使えるかもしれないかもしれないので、予め持っていても損はないと所持していた物だ


「お、オレは!神尾(かみお)……神尾信成(かみお のぶなり)だ!ち、近くの会社員で……あぁ名刺もある!いるか?」


 興奮気味に、神尾信成(かみお のぶなり)と自身の名前を名乗りながら、スーツの胸ポケットを探り出す。


「あぁ、名刺は大丈夫です!ぼ、僕は草山樹太郎(くさやま じゅたろう)18歳の高校生です!」


「良かった……人がいてくれて――」


 神尾さんは安堵の声を漏らす。

 それと同時に僕の瞳に疑い難い光景が映った。




 

 ――え?どうして?


 「ななんで、僕に銃口を向けているんですか?」


「わ、悪いな……お、俺もこの状況、よく分からねぇけどよ、一つだけ懸念点があるんだ」


 手に持った拳銃を強く構える、神尾さん。

 どうして、こんなことが出来るんだ?


 さっきまでの冷静でいようとした心がドクドクと早まり、焦りを帯びて僕の目頭を熱くさせた。


「ああ、あの!や、やめて下さい……

            お願いします……!」


 動揺で周りの物音が聞き取れなくなりそうだ。

 

 震える、手足が震える。

 

 全身の穴という穴から水が滴り落ちる感覚が拭いきれない……異常な程に緊張をしている


 思わず握り拳を作った。


「日本は崩壊した電気、通信、水道有りと凡ゆる物が崩壊してると思われる、恐らくだが特定の場所以外は安全地帯とは言えない状況下だ」

 

 神尾さんは、ガタガタと銃を震わせながら

 迫真の目つきで僕を目の敵にしている様だ。


「やめてください……やめてください!どうして、そうなるんですか?可笑しいですよね!」


 僕は必死に訴えることしか出来ない

 身体を動かす事も勿論、できない。

 

 下手に動いたら撃たれる可能性が

 少しでも残っている。

 だが、神尾さんの心を信じたいのも事実。

 

 こんな事で争うなんて可笑しいよ。

 何とか説得しないと…………


「別に兄ちゃんを殺したくて俺も、やってる訳じゃない……こ、これはな互いの為だ」


「な、何を言ってるんですか」


 神尾さんは言葉を詰まらせながら訳を話す。


「そこらの銃器を一つも携帯しないと“誓え”、誓えない場合は、俺に“殺されてくれ”」


 僕は理解には到底、及ばなかった。

 言わばこれは脅しの類。

 

 こんな状況下なのに――“殺す”?


「人間ってのは直ぐに裏切る生き物だからな……こうでもしないと安心出来ねぇんだ――兄ちゃんも分かるだろ、この事態が――」



『“異常事態”だって』


 どうして!争わないと……いけないんだ!

 せっかく生きて巡り会えたのに!


「僕はアナタの条件は呑めません!」


 僕に向けていた銃口が、一瞬大きくズレた。

 神尾さんは唇を噛んで目を細め

 再びギュッと銃を握りしめる。


「今はそれどころじゃないですよね……僕達は生き残ったんだ、それなら生き残った人なりにやる事はあるはずですよね!」


 神尾さんは勢いよく目を開けて、閉じ込めていた感情を露わにした。


「……だから!俺が今、互いに生き残る道を提示しているだろうが! 人間がまともな奴ばかりだと思っていたら本当に死ぬぞ」


 神尾さんは限界を超えたのか強い口調で声を挙げる。でもそれでも人を“殺したくない”そんな強い気持ちが伝わる。



 なんだか不思議と過去の事が脳裏によぎった。

 まるで“走馬灯”のように一瞬。

 

 小さい時、僕が馬鹿やった時に親が涙を流して僕を正してくれた、その時の出来事が静止画として浮かび上がった。


 その時は妙に両親を可哀想なんて達観して怒られていたのを覚えている。

 自分が両親を怒らせたクセにね……


 大人は心を押し殺して生きる。

 

 僕だって人間だから分かる

 ――そうしないと精神が持たないから。


「俺には分かる、コレから大勢の生き残った人間達が地上に這い出て、この現状に直面して絶望することだろう……」


 今日で人生二度目の

 大人の本気の叱りだと肌で、心で感じ取った。

 

 僕より長い時間をかけて、大勢のタイプの人間に出逢ってそれぞれに感じて来たんだ。


 親のあの時にも分かった事がある。

 あの怒りとか涙ってのは遣る瀬なさ(やるせなさ)と葛藤と不安の証なんだと。

 

 母さん、父さん……。


 ――あの時はゴメン。母さん、父さん。


「だが、絶体絶命な状況なほどに

 人間の本性は発現する物だ!」


 緊張の糸が場にピンと張り巡らせれているのが分かる。喉が焼けるように痛くて熱い。


 それは彼の言っている事が正論で

 的を得ている事だと分かっているから。

  

 銃口の位置は僕の眉間を正確に捉え

 互いに額に汗を滴り流す。


 僕らの様な常に娯楽に溢れ選択の自由と、安心安全な生活に慣れた無知の知、または平和ボケした現代の日本社会を強く突いているみたいだ。


 平和的解決なんて、もう出来ないのかもしれない、そもそも平和なんて言葉は滅んだんだ。


 でも、僕は思うよ、この期に及んで人間同士で傷つき合うのなんて可笑しいって……


 ――だからこそ!


「僕は人の美しさを信じたいんです!銃の携帯はしないと誓います……だけど、こっちからもお願いしたい事があるんです――」


 

 

 だからこそ“信じるんだ”

 だからこそ“信じ合わないと”

 

 綺麗事に思えるかもしれない。

 馬鹿だって跳ね返させるかもしれない。


 それでも信じる事は

 どんな状況下においても不正解ではないでしょ?


『僕を信じてください!』


「な、なに……言ってんだよ……兄ちゃんよ」


 神尾さんの銃口は未だに僕の眉間、でも確かに 張り巡らされていた“緊張の糸”の力は少しずつ緩まっていくのが分かった。


「僕にこうして、交渉染みた事をしたのは……僕を少なからず信じていたからでしょう?人間としての心を信じていたからでしょ!」

 


「な……べ、別に!兄ちゃんを信じていた訳じゃねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 動揺したのか、はたまた的外れだったのかは分からない、けどこの問答が無駄な事ではないと思う。


「いいか……信じてって言うなら素直に俺に従ってこんな無意味な事は辞めようぜ」


 静かに言われた通りに、ポケットに入っていた拳銃を取り出し銃器で埋め尽くされた地面に放り投げた。


「そうだ……それで、これで終わりだ……」


 遠くでゴンッ!と重い音が聞こえると

 神尾さんは銃を下ろした。


「――今、言いましたよね。」


「ん、な、何がだ? べ、別にもう良いだろ?兄ちゃんは信頼に値する存在だって理解したよ――」


 僕はズボンのポケットの中身を外に出し、両手を頭の位置に挙げてアピールした。


 絶え絶えになった精神から出た声は

 か細く、弱々しいものだったけれど――


「さっき……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って……」


 ――捻くれ者で、揚げ足取りのやり口だが

 この際こうするしかない。

 

 でも明らかなのは神尾さんのやり方は間違ってる

 これは、ただの主従関係でしかないと言う事だ。

 


「はぁ……何が言いたい?もう、良いだろ?俺だってさっきのが正しいなんて思ってなんかいないさ」


「なら、なんで対等である事を

       提案しなかったんですか? 」


 我ながら、頭の可笑しい論を立ててしまった。

 別に此処まで大きく出なくたって神尾さんは武器を持たない事を条件に出しただけ。


「――条件は、お互いに出し合うものですよ?」


 確かに“殺されろ”と脅し染みた事を言われたのはショックだったけれど……この場を丸く収めるのなんて自分の有無によるのにな……


 ほら、見ろ……

 神尾さん、さっきから開いた口が塞がらない。

 きっと、呆れ返ってるんだろうな。


「グハ!」


 突如として呪いが解き放たれたような

 または緊張の糸が切れたように

 神尾さんは、笑い声を吹き上げた。

 

 それはもう豪快に大きな声で笑う。

 僕は驚きと困惑に満ちたけれど

 それと同時に“爆笑”という唐突な出来事が僕の心を大きく突き動かした。


「グハハハ!! 兄ちゃん、アンタ面白いなぁ〜」


 笑い泣きしている神尾さんを見ていると

 何だか自分も自然と笑みがこぼれてしまった。


 どうして神尾さんの笑いを誘ったのかは分からない……でも、この笑いは嘲笑でも嫌味でも蔑みではないのは分かった。


「ただでさえ、意味不明な事に巻き込まれて!こんな中年の奴に急に銃向けられて散々なのによぉ」


「兄ちゃんは俺みたいに馬鹿やる所か……冷静に俺を詰めたんだぜ? スゲェよ兄ちゃん!」


 なんか、よく分からないけれど同情されて、褒められたんだけど……。

 

 神尾さんの表情は柔らかくなって

 普段ならこんな風に沢山

 笑う人なんだろうなと妄想してしまう。


「なんか、兄ちゃんの言葉で目が覚めたって言うかさぁ……俺、明らかにヤベェ事してんなって気付かされたわ……情けねぇよな」


「い、いえ……あ、えと」


 神尾さんが目尻から出た涙を拭き取ると

 手に持っていた銃を遠く遠く投げ飛ばした。


 正直、驚いた。

 まさか、分かり合えるなんて

 確かにそれを望んだのは僕だけど……


「ホント……ごめんな、兄ちゃんよ……」


「大人として人間として不甲斐ない事をしちまった……許してくれとは言わないさ……」

 


 神尾さんは頭を深く下げて僕に謝罪をした。

 何だかよく分からないけれど、神尾さんの考えを改めさせれたみたいだ。


 銃は人を殺める道具、または恫喝の意。

 つまり銃は支配の象徴だ。

 

 それを投げ飛ばした時の神尾さんの顔は

 “子供のような自由で純粋さを帯びた”

 そんな印象だった。


「あ、えと大丈夫ですよ神尾さん……。」


「僕も、何だかよく分からない事、言ってしまったし……それにお互いに不安だとか恐怖が溜まりに溜まっていた結果だと思いますし……」


 お互いに信頼しあうと言うのは、短時間じゃ難しい事だ。年齢も育ちも考えも違うし……何なら今日みたいな未曾有の危機的状況下。


「ありがとな、こんな俺を……てか、兄ちゃんすげぇ冷静だな……ホントに18歳か?出来過ぎてねぇか? 」


 自分のやってきた事を悔い改める雲掛かった表情は苦笑いをして少しだけ晴れていった。


 許すも許さないも、選択すべきじゃ無い。

 きっと混乱していたんだ……お互いに。


 そりゃ決して冷静にはいられないし、正しさも正義も多岐に渡るんだから、大変に決まっている。


 でも本当に頑張って頭をフル回転させたな……

 “火事場の馬鹿力?”

 いや、少しニュアンスは違うけど……


「そ、そうだ!それより僕らは

     他に生存者を探さないとですよ!」


「そうだな、兄ちゃん……」


「で、では!このまま真っ直ぐ行くと駅があるので……取り敢えず、そこに行きましょうか!」


 それでも、僕らは生き残ったんだ。

 

 ――空から銃が降る、そんな世界で。

 《事象発生15分後 9時15分》

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