EP;草山樹太朗
OP;草山樹太朗
《 8月1日 8時25分頃 東京都兼光 草山家 兼光駅まで徒歩約15分》
――その10分後、空から銃が降ってくる。
――――――――――――――――――――――
「お……勝った……」
モニターに映るこのゲームはfps。
つまり一人称で敵を倒しまくる
シューティングゲーム。
僕が独りで夜通しやる程に好きなゲームだ。
「う……ん、後一戦やって辞めるかな」
高校からは少しゲーム回数を減らしたりしたけど、結局楽しくてやってしまう。
僕はデスクに乗っかった
スマホを付けて時間を確認した。
8時25分……。
今日は平日で学校がある日。
だけど、今日は久しぶりに仮病を使って休む事にした。母さんにも予め休む事を言ったし……。
それに今日は終業式だ。
別に終業式に出た所で成績に響く訳じゃないし。
この日を使って勉強した方がいい。
――そう、これは合法的な仮病だ。
ふと僕はスマホの待ち受け画面に映る母さんと父さんの顔を見つめる。
両親は二人揃って過保護。
いざって時 、僕を護れるように2人揃って護身術を習った事もあったっけな……。
本当に小さい頃から
細かい所まで気を遣ってくれた。
まあ一人っ子ってのもあるかもしれないけど……ホントに感謝しているよ。
だからこそ、勉強とか頑張んないとな。
「あ……うわ、始まってる、出遅れたぁ」
再びモニターに全神経を向けた。
右手にマウス、左手にキーボードを添えた……
この試合が終わったら、また30分勉強だ。
そして30分過ぎたらゲーム。同じ様に勉強……
こうして交互にやっていくと意外と勉強は捗とる
最近、このやり方を編み出して結構気にってる。
――ドドドド!!
「あ、シールド割れたぁ……」
ヘッドホンから銃撃の音。
どっからかで撃たれてダメージがエゲツない。
取り敢えず、隠れてシールド回復して……
――ヒュー、ドン!!
「うわ!」
「ま、マジかよ……そんなとこにいたのかよ?」
隠れていた建物内に敵が潜んでいたらしい。
回復をしている隙を狙われて
ヘッドショットで即死。
僕は両手で顔を覆って、溜息をした。
「ふぅ……さあ、やるか」
ゲームに一旦、区切りをつけよう。
恐ろしいよな、ゲームって一度沼にハマれば
自力で抜け出す事は難しい。
だからこそ時間を決めてやらないと
一瞬で1日が終わっちまう……。
「えっと、今は8時35分か……」
今、学校はホームルームかな?
優越感とまではいかないけど、学校という縛りからの解放が心地いいや。
明日からの夏休みも充実した日々を送る為に、まずは未来への投資をやっておかないとな。
母さんにも父さんにも
二人が安心して僕を独り立ちさせれるように。
卒業後は大学に入って、バイトをしよう。
そしたら自分のお金も手に入るから
親孝行でもしたいな。
なんか美味しい店だとか
何かしらの物をプレゼントしたりさ……
机に問題集を広げ
シャーペンと消しゴムを手元に置いた。
モニターの電源を一旦切って
スマホのタイマーを30分にセット
そして――
「――スタートっと」
――――ゴン!!
スマホを自分のズボンのポケットに入れた瞬間、頭上から鈍い音が鳴った。
ん?今、屋根に何かぶつかったか?
そう思考している間も連続的に音が鳴る。
――――ゴン!! ゴン!! ゴン!!
大きめな雹が降ってきたのか?
だけど何か違う、重い何かか……
僕はデスク横にある窓辺に立ち上がり
閉じていたカーテンを勢いよく開けた
――――ゴン!! ゴン!! ゴンゴン!!
いや違う雹でも雨でもない!
暗雲が立ち込めていると同時に悪寒がした
窓辺を一歩、二歩三歩と後退りを反射的にする。
――――ゴンゴン!! ゴロ!!
さっきの一瞬で見えた光景は言葉に出来ない程に衝撃的で意味不明だった。
空から落ちてきたのは…………。
――――パリン!!
「っ!な……え?」
窓ガラスが割れて勢いよく
破片が部屋に撒き散った。
生命の危機を覚えて部屋の扉へと飛んで向かう。
それはまるで
つい数刻前の日常を叩き割るようだ。
――――ゴンッッ!!
「あ……だめだ!ダメだ、ダメだ!」
天井を突き破ったそれは。
僕がさっき、プレイしていたfpsで……
何回も何百回も何千回と目にしてきた“武器”
――銃。
逃げろ!家が……僕の家が……
僕達の家が潰される。
早く、早く!
人生で、これ以上の恐怖を感じないのではないかと思えるぐらいの命が関わる重大な事だ。
だからこそ混乱は極まっていた。
家の2階を駆け、階段を下る。
何処に避難するべきかは思考をしなくとも分かった。身体が勝手にそこに向かっていたんだ。
『樹太郎ぉ〜地下室は入るなよぉー、父ちゃんの仕事場だからさ、無くしたり壊れたらいけない大切な物が沢山あるんだよ……』
脳内に駆け巡った、小さい頃に言われた言葉。
一度、行ったことがある。
いや何度か立ち入ろうとしたけれど、二人に止められたんだよな……
小さい頃の……
悪戯目的ではないのを覚えている。
兎に角、地下室が気になっていた時期だった。
2階へと続く階段横の謎のスペース。
その床には窪み、取ってがあった。
小さい頃の僕はそれに興味津々だった。
何か家具を置いたり物を置くにしては狭すぎるし、何か意味があるのではと子供ながらに考えを走らせていたっけな……。
そして、そこのスペースに父さんがやってきて僕を、あっちへ行けと言わんばかりにリビングへと連れてってくれて……
――そう地下室だ。
そこの床の窪みを
手探って
取って
掴んで、どうにか開いた。
どうやって開けるかまでは考えていなかったけれど、やっぱり命を感じた状況下では関係なかった。
開いた先は階段になっていて真っ暗だった。
一歩踏み入ると人感センサーが反応したのか自動で電気がついた。
「あ、う……うし!」
つい、言葉が漏れた。
僕は急いで蓋を“銃”が
入ってこない様にしっかりと閉めた。
――――ゴゴゴゴ!!
地下室の奥へと入り、少しそこで待機をした。
上から轟音が今も鳴り止まない。
嵐の日のような、大雨の日のような……。
雨や風の音に似ているのだが
んでも明らかに異質に感じ得た。
鈍くて重い強い音だ。
あぁどうして……
こんな事になったんだよ!
僕は頭を抱えた……。
そうして苦痛の声を出す事も出来ず、心の中で何度も何度も、これが悪い夢である事を望んだ。
「そ、そうだ……」
ポケットに入れておいたスマホを取り出した途端に地下室の電気が消えてしまった。
「え、嘘だろ……なんだよ……」
自分に言い聞かせるかの様な小さい声で嘆いた。
だが安心しよう。大丈夫……
と、取り敢えず生きてる…………。
僕は生きている。
そうして深呼吸をしてみるけれど
心の臓はうるさい。
取り出したスマホのサイドボタンを軽く指の腹で押し、眩い輝きが僕の顔にぶつかった。
暗がりと光りの落差による弊害、ボヤけ眼状態で
スマホの顔認証ロック解除する。
「よ、よし……」
早急に親にメッセージを送ろうと
メッセージアプリを開いた。
二人の安否と
何が起こったか、いち早く知りたかった。
「…………くそ!」
だが一向にメッセージアプリが開かずに、ソワソワしていたのだが、スマホの上部を見ると
“圏外”の文字が表示されているのに気がついた
「何でだよ!」
これじゃあ、何が起きたか調べることも出来ない。人に連絡する事も出来ない上に……電話も……
た、試しにSOSの緊急電話を掛けることにしたのだが、誰も出る事はなかった。
父さん……母さん……。
今はもう僕は祈る事しか出来なかった。
小さい頃、あんなに気になっていた地下室の全貌にさえ興味を示す事も出来ない状況……
それに電気が落ちた事によって“暗闇”が形成されて余計に精神を抉ってくる。
スマホのライトを点ける事も出来だが、何だかバッテリーが勿体無い気がして気が引けた。
僕はただ
独りであること、謎の銃が落ちてきたこと
暗闇であること、連絡手段も何もない事……。
――そして今も尚、鳴り響く轟音。
それら全部の要素をひたすらに呪いながら全て、夢である事を願っていた。
手を合わせて、ひたすらに祈っていた。
――――――――――――――――――――
「ん……音が止んだ……?」
寝ていた訳ではないし
起きていた訳でも、白昼夢でもない。
そんな自分自身の状態も分からなくなる暗闇で三角座りをして伏せていた僕だった
気がつくと轟音は鳴り止んでいた。
スマホを取り出して時刻を確認すると
9時00分であった……
体感的には8時間、もしかしたら1日にも感じていたのだが、それほど時間は経っていなくて驚く。
もう外に出ても大丈夫なのだろうか……。
地上が今、どんな状況なのかは
想像したくはなかった。
もう、いっその事、壮大なドッキリであって欲しいと強く思うまでに心は疲弊している……
実際そんな事はあり得ないのは言うまでもない。
静かにゆっくりと
僕は地上へと道を。階段を進み
蓋を開けた。
蓋は案外、スムーズに開き
ゴマ粒程度の僅かな希望を抱く
「あ……あ…………」
――僕は固まった。
そこは家の景色ではなく
外の景色が広がっていた。
それも荒れ果てている景色。
近隣の住宅は潰れ果て跡型も無い。
瓦礫は一部、肌を見せているが大半は
例の“銃”によって埋め尽くされていた。
銃と言っても拳銃やライフルなど種類は様々だったが、今はそんな事はどうだっていい。
本当にどうでもいい……。
――住んでいた家は姿を消した
リビングだった場所、自分の部屋だった場所
キッチン、トイレ……風呂場……
間取りを脳内でなぞりながら
ゆっくりと練り歩き
再び地下室の蓋上まで戻ってきた
靴下も靴もスリッパも無い裸足のままで、フローリングが銃器に変わった床を歩く。
ゴツゴツと凹凸しており痛みが走る。
表面の無慈悲な冷たさと
乗っかった時の不安定さが気持ち悪い。
全部、全部……僕は変わり果てている家を見て、冷静ではなくなった。
そして同時に、可笑しくも想う。
下手したら地下室の蓋が破壊されて
ゲームオーバーもあり得たかもしれないのに
「――よく…………生き残ったな…………僕」
銃落下発生3時間後、草山樹太朗に悲劇が訪れる。




