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“大銃壊”−その日、空から銃が降ってきた−   作者: 秋浦ユイ
片里毱歌篇 7時55分〜10時47分
18/20

EP14

《10時38分》

「おやおや……信者の一人に、裏切り者が紛れているのかな?」

指導者が、ボクの唐突な叫びに反応を示した。

「誰が、最初から信者になる気があったって?」

ボクは羽織っていた白装束の衣服を脱ぎ捨てて、無謀にも宣言をした。

本当に無謀で、打算も計算も計画も何もない……自分自身の感情による行動だ。

「そうかそうか……」

指導者と信者らが一斉にライフルをボクに向ける。辺りの生存避難者は混乱の一途を辿り、今にも脱出しようと抜け出しかける。

ただ――負け戦なんて仕掛ける理由はない!

『ボクには、この場を、この世を一気にひっくり返すことができる情報を手にしている!』

ざわざわと騒めき始めて、遂には罵詈雑言が飛び交う事態にまで発生し、暴動が起きた。

「そうか……言ってみなさい……キミの最後のセリフを聞かせてくれないか?」

ボクは上着の両ポケットから、例の石を取り出した。

『これが何か、お前らには分かるか』

「ただの石ころだ……意味も価値もない」

「本当にそうかな?」

普通の人間にはそう見えるかもしれない。ただ、意味のわかる人間には理解できた。これはただの石ころではない……ただの隕石でもない。

ボクの近くに寄ってきたライフルを構える信者を突き飛ばしてライフルを奪った。

「うっ、あ……な、なんだお前……!」

力の弱そうな人間を選んだので、相手には悪いがすぐに奪い去ることができた。

「撃つんじゃない……」

指導者が迫るような低い声を響かせる。奴もボクをすぐには撃てないだろう。なぜなら情報をボクは手にしているから……ボクにしか知りえない情報をな。

ボクのこれがハッタリだとしても奴には何の損得もないことだが、万が一でも奴にも知り得ない特待情報だとしたら。

殺そうにも、すぐにでも殺せないだろ? 微塵の情報でも、この世界では……情報が力を得る。

――情報によって暗闇が灯されるから!

「最後まで、聞こうじゃないか……どうせすぐに天罰を与える輩だ」

ボクは地下の中で光源を作り出している蝋燭や電気を撃ち落とした。地下の人々は、嫌でもボクに注目する……。

「ち!ゅ!う!も!く!!」

声をもう一度、張り上げて、そしてボクは、二つの石を擦り合わせた。ギリギリと音を立てる中、一瞬、人々が沈黙を貫く……。

「な、……なんだ……」

ボクが放ったライフルによって煙が立ち込めた。するとボクの両手から暗闇を晴らしていく。

「石が……光っただと?」

皆々が騒めき始める。そして一種の大混乱をはらんだ緊張の糸が千切れる程の暖色の光源。

――そう、擦り合わせた石から、発光したんだ。

「原理はボクにも、まだ解明できていない。ただ、擦り合わせる度に点灯と点滅を可能とすることを発見したんだ……」

指導者が呆然としている。

「これはキセキじゃあないか……」

「そう、これはキセキなんです。銃と同じ様に、この隕石が数多……降ってきていることも予想できる」

「この世界が、求める物は安全だ。支配じゃない、戦争でもない……希望があれば、どんな絶望でも人類は足掻ける」

ボクは淡々と話し始める。

「ここにいる、全生存者に告げる……今、一度地上へ行き! 石を探してくれ!」

『希望は、まだ存在している!!』

ボクは石を掲げながら、人々を駆り立てた。人間は希望があれば何でも出来る。どんなどん底に立たされても。この石が、その希望なんだ……。

親子、老人、信者も、皆……この石の光を見て微笑みながらぞろぞろと外に出向く。

――間違っていたとは言わない。ただ、それが正しいとも言わない。混乱にまぎれ、自身のエゴの為に人をすべるのは、持論として正しいとはボクは思えない。

「パク……そこにいるんだろ、頼む。扉を閉めてくれ」

ボクは後ろを振り向き、確かにそこにいたパクに語りかける。

「い、いいのか……片里さん、大丈夫なのか」

彼は心配そうにボクを捉えていた。ボクは鼻を鳴らして一笑した。

「大丈夫だよ」

パクは聞くと、目を閉じて覚悟を決めたように扉を閉めていく。

「生きてくれよ……片里さん!!」

古い扉が閉まる、その特有の鈍い音が鳴る。埃が辺りを舞っているのが石の発光から分かった。

――遂にこの地下には、ボクとイエスマンのみ。

「やあ……早速だが……ハァ、ハァ……キミは人を導いてどうしたいんだい?」

「導く? ボクは真実を説いただけさ」

一目散にイエスマンが語る。なぜだが疲労感を絶え絶えに、言葉を力なく漏らす。

「お……オレが……オレが人を導かないといけないんだ……」

どうやらメッキが剥がれてきたみたいだな。まだ、出来て間もない宗教の長だ。どんな経緯で奴が、あれ程の人間を集めて隊列を組んだのかは不明だ……。

確かな人身掌握と支配力、またカリスマ性と言うべき行動力。時期や場面が違えば、凄まじいことになっていたさ。だがね、彼も同じくボクと同じ人間であるのは変わりないんだよ。

「キミが何を目指しているかは知らないが……人々を導くのなら武器による支配力じゃなく、人に寄り添う教えを説いてみてはどうかな」

ボクは両手に持った光る石の一つを、彼に優しく投げた。

「その石は本当に未知だ……しかし、調査を進めれば、銃落下の真実が分かるかもしれない」

男はボクが投げた光る石を拾い上げずに頭を下げる。その白い布の下で何を思うのだろうかね。

「フッ、どうかな、一緒に真実を追求しないかい」

「……ソナタには分からないだろうな、我の気持ちなど」

「知らないさ……知り得る手段なんてないんだからね」

奴は銃を手に持って自分のこめかみに当てる。

「お前の生きる意味はなんだ……そんなにボクの述べることが嫌か?」

震えるその手を見て、ボクは血の気が引いた。

「嫌じゃないさ、素敵じゃないか? 神が我に役割を与えてくださったのに……ソナタが壊したのだから……ハハッ」

相当に参っているな、これは。

「自死なんて何も産まないのに、なぜその道を……少なからず君を盲信している民はいるんじゃ?」

「そうだね、だが……こう御告げが出ている」

彼は、その白い布を取り払い、不気味な微笑みを見せた。

「偽物の救世主が現れたら……本物が死ぬべしとな。さすれば世界の均衡が崩れ去って我の憎しみが果たされるんだ」

また再び、こめかみに銃口を当てる。不安定にブレつく顔が、どうにも心気に溢れる。

「“そうして再び、新たな本物が現れてこう言う” 世界は――イエスマンが導くままにと……」

――パァーン!!

これは彼なりのケジメか。はたまた……生き様なのか。ボクに止める権利は無い。無慈悲に、その銃弾を受け入れるだけ。

閉ざされた、密室の地下に転がる一つの遺体。そして石の光によって作られたボクの影一つ。

――この世界は犠牲者が多すぎる。あまりにも無情に残酷だ。ボクが大嫌いだった、あの日常ですらこんなポストアポカリプスは存在しない……。

いや、それは一概には図れないか。もしかすると、**指導者(彼)**も日常によって押し潰してきた感情や正義を振りかざした、それだけなのかもしれないから。

ボクは静かに地下を後にした。この重い鉄の扉を力一杯に開けていく。

「おい! パク……そこにいるんだろ。開けてくれてもいいんじゃないかな?」

少しずつ開いていく扉の隙間から、パクが腰を掛けて待っているのを見た。

「あ、片里さん! マジか、こういう感じで生存することってあるんだ」

謎に関心する彼を尻目にボクは地上へと階段を登っていく。

「キミはボクを見下しているのか……何なのか」

地上に出ると、信者や組合の連中らが隕石を探し回っている。

「なんか……これこそ信仰じゃないけど……宗教的な扇動みたいだよな」

とパクが眼鏡を擦ってかけて、冷静に物事を語る。

「まあ、いい……確かに人の希望だ、あの石は。この先、あの石を巡って新たな分断や争いが生まれることも想定済みだが、現状を切り抜けるには」

ボクは、外の景色を一瞥して、銃器に埋もれたアスファルトを見た。

「これしかなかったよ――」

《10時47分》

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