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“大銃壊”−その日、空から銃が降ってきた−   作者: 秋浦ユイ
片里毱歌篇 7時55分〜10時47分
17/19

EP13


《10時8分》

「我らと手を組みませんか? さあ、どうでしょうか……」

白旗が温風に流れる、とある場所へ一同は向かった。「新興イエスマン正教会」――この銃が降った世界で形成された教団だ。

この新宗教運動は、この災難で生存した者たちを「選民」として、イエスマンと名乗る指導者が迎え入れるというもの。

「ワタクシの組合に宗教勧誘はお断りダ。お引き取り願いたく思いまス……」

現在、その指導者イエスマンと対話をするスーツ姿の男。切れ味のある目に、威圧感を演出する七三分けスタイル。

「んでは、断るなら宜しいですか?」

信者の中には、彼に対する信仰心というより、絶対的な力によって隷属した人間も少なくないと思われる。

だが、その指導者と対等に……萎縮するわけでもなく、堂々と正面から交流をする彼は一体、何者だろうか。

「うーん、少しワタクシも忙しいからネ。手短に頼むヨ……」

信者らが円になって、彼を囲い出す。ボクらも反感を買わぬように混じる。その間に、機械音が円縁の信者から聞こえる。どうやら「力をもって人を制す」選択をしたな。

右隣にはパクが控えめに、スーツ姿の男に目をやる。そして脆く、放つ。

「な、なあ……あの人、なんであんな余裕なんだ。ライフル構えたりしてるのによ……」

答えは当然、こうだろう。

「『対等』だからだよ――」

ボクは息を吐くように言い放つ。

指導者イエスマンが懐からピストルを取り出して、語気を強める。

「ソナタの拠点を占領してもいいかな? アレはソナタの拠点なのだろう……?」

指導者はどうやら、あの白旗の場を欲している。とどのつまり、彼も腰を休める巣が欲しいのだろう。そうしたら、女王蜂のように信者らをこき使って、楽をして栄養を得ることを期待している。

指導者も指導者で人間だ。甘い蜜を吸いながら気長に生き延びたいさ。

まあ、不確かだが、そんなところだろう。

「た、対等って……どこが? 一方的に押されてんじゃん、可哀想だよ」

今、ボクが知りたいのは七三男の思惑だな。彼は「組合」と口にした。つまり彼も同じように組織を作り、人を呼び込んでいる。

ボクは、その組織理念を知りたいねぇ……。

「申し訳ない、ワタクシたちの組合は株式じゃない。ただのボランティア、ダ」

「故に数多の市民を抱えているんダ。悪いけど『平和』を乱さないで欲しいヨ」

七三男が、痺れを切らしたのか、腰から銃を取り出した。矢張り、彼も持っていたな。

「あ、あの人も構えたよ? 弾は入ってるのか?」

「恐らく、弾丸入りの銃だよ」

パクが驚いた声を上げないようにか、口を手で覆った。

このタイミングで銃を露わにするのは、相当な自信家だな。彼も彼で、指導者や信者の銃に弾が入っているのは織り込み済みなんだろう。

ボクには彼らがなぜ、銃弾を所持しているのかは分からないけれど……両者ともにどこか闇が深そうだ。

「だからこそ、手を組みたい。ソナタとな……ここは穏便に行こうか」

七三男が、一呼吸をして答える。

「穏便にか……一ついいかい? アナタの求める世界ってのはなんだい」

指導者と七三男が依然と向かい合い、銃口を向け続ける。その緊迫した空気感は、広がる銃の道と相まって地獄の様だ。

「『世界平和』だ。銃壊された世を選民に導く。それが我の役割なのだから!!」

イエスマンは手を大きく開けて語った。すると周りの信者らが念仏を唱え始めた。「イエスマン! イエスマン!」と耳障りなほどに。

さすがにうんざりだ……。ボクには彼が救世主にも指導者にも見えないよ。別に彼らを否定するつもりはないし、信じる個々の価値観は尊重する。ただボクは、彼が偽物の指導者だと思うだけ。

「そうか、世界平和か……ワタクシも同意見だヨ」

七三男が静かに、元の位置に銃器を忍ばせる。

「ワタクシはね、まずは……降ってきた銃を回収しているんだ。そしたら、犠牲になった人々も救えるしネ」

「素晴らしい活動だ……」

祝福するように指導者が手を叩き始める。それを真似するように信者らも手を叩き始める。

「拠点にいる、生存者にも一度……問い掛けてみては如何かな? ワタクシはキミたちと手を組むよ」

『世界平和の為にね……』

七三男が、悠々と道を歩いていく。人壁に向かって、何も言わずに。

「しばらくしたら、ワタクシは拠点に戻る……その時まで組合員と仲良くしといてくれ」

指導者は、前進する彼を見送る。人壁は空気を読んで崩れていき、彼を静かに送り出す。

「ソナタの名を聞こうか……」

七三男が、振り返り不敵な笑みを浮かべた。

「金澤だ……ワタクシの名前を取って、組織の名前も同じく『金澤信用武器保管組合』って言うんだ……」

そして言い終え、彼はどこかを目指して消え去っていった。

信者らは指導者を中心に固まりを形成する。ざわざわと不安事や疑問を口にする信者も見受けられるが、指導者は何も言わずに歩き出した。

そう、白旗の靡く場へと。

「ただいまより、『金澤信用保管組合』の拠点へと赴こうぞ!」

一人でに歩き出した指導者の後をついていくボクら信者に宣言する。

「イェース!!」「イエスマン!」「イエス!」

狂信か盲信か……はたまた別の何かか。人々は唱えていく。

白旗の空間に着くと、目に付いたのは地下への階段。ボクらはそこに無秩序に目指していく。

この場も例外なく、瓦礫と銃器に覆われて、地獄と化している。そこに新興教団が加わることによって、より終末世界を演出しているように感じる。

まあ何が起きようと、この際、ボクは肝が据わっている。

銃降下の災難と謎の隕石……これらが指し示す結末が何よりもボクは楽しみだ。

地下階段を下って行くと、そこには大きな鉄の扉が備え付けられていた。

――ゴンゴン!! ゴンゴン!

『開けなさい、我は主らに交渉を持ち掛けに来た』

指導者が扉を強くノックし、中の人々に呼びかける。

あの金澤と名乗る男が言うには、どうやらここには生存避難者らが大勢いる。それもあの男を中心に組合を組んでいる。

何を目的としているかは今のところ不明瞭。弾丸入りの銃を手にしていることと何かしら関係性があるんじゃないかと予期しているが、実際のところ、どうだろうか。

信者は静まり返り、指導者の勇姿を見つめる。

――キキィィー!!

指導者が鉄の扉を開く。その甲高い音と鈍い音が合わさって、不快感を呼び起こしたのはボクだけじゃない筈。思わず苦虫を潰したかのような表情をしてしまった。

「我が名はイエスマン!」

扉が開き、指導者が一人、ゆっくりと中へと入り出す。前衛の信者らは境目で見守る形。

中衛、後衛と自然と隊を成す協調性が不気味だ。ちょうど中衛にいたボクらは、前衛の信者に続く形で中に入っていく。

パクや、その他複数人の信者が顎を震わせているのを目撃したのだが、ボクは気にしない。

「おうおう! 急にやってきた何様だ?」

一人のタンクトップのスキンヘッドの大男が、指導者に近寄ってきた。

「それは申し訳ない……我はイエスマンだ。この銃壊の被害を受けた選民を導く者だ」

信者らは、扉を出てすぐの、少し広めの空間に円を組んで膨らんだ。

「ップ……ンガハッ! なんだそれ!」

大男が低い声を鳴らして、腹を抱えて笑うと、少し遅れて空間内が人間の笑い声で埋め尽くされた。

空間はシェルターのように頑丈な冷たいコンクリートで出来ていて、仕切り板などを用いて人々が寛いでいた。

教団らに怯えながら覗く子や親、老人も見受けられる。

「んん? イエスマン……? 馬鹿言え! 何の真似事か知らないがぁ〜、金澤が異常者軍団を受け入れる訳ねぇよ!」

「金澤さんとも、話はしてきて話もついた……」

「あん?」

大男が笑いながら疑問符を口にした。そしてライフルを所持する前衛の信者らが、一斉に、それを避難者に構えて見せた。ガジャ!と空間に金属の細かい音が連続する。

「おっ……おい……それ銃か?」

「や、やばいよ!」 「早く追い出して!!」

阿鼻絶叫が四方八方と飛び交う中、今度は指導者本人が銃を手にして大男に向ける。

やはり、争いは避けられないんだな……何とも醜い。結局このイエスマンという奴も、力で人間を自分の好きなように**支配コントロール**したいだけの下衆でしかない訳だ。

「ね、ねぇ……片里さん、ヤバいよ……」

パクの声が後方から聞こえていて、ひどく震えている。

「あぁ、そうだな」

文字通り、一触即発の状況だ。大男は、微塵の狼狽えを見せることなく指導者を睨みつける。

そして他の力自慢していそうな、筋肉隆々の輩が指導者や信者の目の前に立ち塞がる。

「なあイエスマンさんよぉ……それは**玩具おもちゃ**じゃねぇんだわ。オレたちこれのせいで全部、失っちまってるから腹立つんだよソレ!」

指導者の銃口に、威圧的に挑発するようにオデコをくっつける大男。

「……金澤さんはオレたちの恩人なんだよ。行き場を無くしたオレたちに居場所を与えた。俺からすれば、あの人が救世主だ」

イエスマンが答える。

「では問おう……我らと手を組みますか? 組みませんか? どちらでしょうか」

まずい、犠牲が出てしまうな……どうにか切り出していかなければ。ただ、ボクが出たところでややこしくなるだけ。ここは静観するべきだろうか。

「する訳、ねェ――」

――パァーン!!

「っ……!」

「さあさあ!! 静粛に選民達よ!! 選択するだけで良い……どちらの道を選ぶ!」

その銃口から飛び出る銃弾が、大男の額を貫いた。響き渡る発砲音が地下に響く。重い重い、その一発を軽々しく奴は放ちやがった。

矢張り……頭のネジが外れすぎているな、指導者コイツ

「う、撃った!」「あいつ撃ったぞ……」

「こ、殺される!」「キャァー!!」

地下内に留まる全ての人々が、その一連を目撃して一気に混乱の渦が発生する。

確かに予想はできた。奴が計り知れない奴だとも認識していた。ただボクはもう、我慢の限界だ……。性根が腐り果てていて反吐が出る。

ボクは前方に歩き出し、今までに出したことのない声を張り上げた。

『全員聞け!!』

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