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“大銃壊”−その日、空から銃が降ってきた−   作者: 秋浦ユイ
片里毱歌篇 7時55分〜10時47分
15/19

EP11

『うおおお!! イエスマン様!

新たなる選ばれた者がお見えです!!』

何だか、こっちにぞろぞろと来やがった。

「ち、ちょっ……大丈夫ですかね? 片里さん!」

「さあな――」

銃器が散らばる道を、隊列を組んで綺麗に足踏みまで揃えている。その姿は芸術そのものだ。

「――だが、生き残りがボクたち以外にもいた、それだけでお釣りが返ってくるんじゃないか」

向こうからやってくる見知らぬ集団に、パクは何やら落ち着かない様子。だが、この展開は面白い。

「やあ、会えて光栄です」

ボクは集団を出迎えるために歩き、彼らに挨拶をしてみた。まずは意思疎通が図れるか、そして、どんな思考をしているのかを理解するとしよう。

「我も光栄なり……ソナタらも選ばれた民なのだ。気を休めて、どうか心を落ち着かせよ」

先頭に立つのはリーダーだろうか? 最初に敵意はあまり感じられない。

「アナタ方はどういう集団なのでしょうか」

単刀直入に聞こう。今はとにかく、一秒一秒が惜しい。

「ちょ! 片里さんっ……ホントに大丈夫?」

パクが遅れてやってきた。ひどく焦っている。

「アハハハ、そんなに警戒しないで下さい……我らもソナタらと同じく、天地神々の御怒りに触れた衆人の、その一人なのです」

おおー、やっぱり……そういう系か。いずれ現れると思ったが、既にもう形成されたか。

「ソナタらも我らと同様に選民されたのですよ!」

――この未曾有の災難から転じて、宗教を創り上げる……歴史が物語っているな。結局、人類は抗えない事象に、神仏などのせいにし、救いを乞うのだ。

何か、この事態が社会実験のように思えて、ボクは実に面白いと感じる。

「……も、もう行こうよ片里さん……」

パクが小声でボクの耳元で囁く。

「いいじゃないか……」

ボクは彼に返した。彼らは至って純粋で正直な心だよ。だからこそ神仏などを信じて祈る……。

ボクも、それらを否定しない。だからこそ人類はここまで生き永らえられたとも思うし、何より信仰や偶像というのは――

――この銃が降った世界では、正常な頭と言えるからだ。

「んでは、もう一度聞きますね……アナタ方は、どんな集団なのでしょうか?」

先頭の彼は全身、白装束を纏い、顔を白い布で覆っている。ボクは、そんな彼に向かってもう一度問うた。

「あぁ〜そうでした、伝え忘れていましたね」

後方の者たちも同じく白装束だ。見るからに危ない雰囲気を漂わせるが、怪我をしている者や汚れている者も見受けられる。

――そして、ライフルらしき物も背中に抱えている。

『我らは――「新興イエスマン正教会」。先の「銃壊じゅうかい」で選民された人々を、我、イエスマンが神に代わって導いて参ります』

ふっ、「銃壊」……もう名称が付けられたのか。

「ならばアナタが文字通り先導者というわけですか」

「イエス……」

男が手を広げて静かに放つと、周りの信者たちが次々に歓声を巻き起こす。

「イエスマン! イエスマン!

イエスマン! イエスマン! イエスマン!」

まあ、こういう組織などが創られるのは容易に想像はできた。だが、ここまで熱狂を巻き起こすとなると、後々が恐ろしいとも感じる。

「ど、どうするんですか……もしかして、彼らに着いて行くんですか?」

パクが再度、ボクに話しかける。さっきからたじたじとしていて見るに耐えないが、その気持ちは理解できる。だからこそ、一周回ってボクは冷静になる。

「勿論だ。その方が利点がある」

ボクは彼に囁きかけ、先頭の白布を頭に覆う彼に手を差し伸べた。彼は、それを認識するなり、拍手を繰り返す。

そして瞬く間に信者たちも拍手喝采を巻き起こす。パチパチと鳴り響く人々の音。そして時折聞こえる「イエスマン!」。まるで呪文のように、その名を口にする。

「ようこそ光栄だ……ソナタらを慈悲深く想い、共に、この終末世界を歩もうぞ」

彼は差し伸べたボクの手を取り、横から信者が出てきた。信者の手には彼らが身に着けている白装束。

「さあ、これを羽織りましょう」

ボクらに、その衣服を手向けると、羽織るようにと促される。

「は、……はい」

パクには半ば強制的に付き合わせる形になったが、この際、生き残ることを望むなら、コミュニティに属していた方が生存率は高くなる。単独行動や身勝手な行動は自滅への一歩だ。

「まあ案外、キミに似合うんじゃないか」

パクはどこか渋面を構えて着用する。どこかこれは、民族衣装のような印象で、信者とイエスマンを名乗る先導者らの結び付きを表すように思える。

「有り難く、着させてもらうよ……んで、これからどこに向かうのかな」

ボクは衣装を着ながら尋ねる。

「今から我ら選民一同……地下駅へ向かう。また、それら道中の選民も救いながらね。さすれば我らは神に祝福されるであろう」

地下駅か……確かに生存者も大量にそこに避難している可能性は高い。線路を歩いていけば時間はかかるが、安全に別の街へと赴けるかもしれない……。

まあ、銃器によって何かしら道が塞がれていたら危ういけれど。希望はまだ、そこにあるな。

「承知した……ついていきますよ、“イエスマン”」

ボクは慣れない微笑みを挟んで、最後尾へと移動した。

「ちょ……片里さんっ!」

またもやボクの真横に息を切らしてやってきた。

「待て、ソナタらよ――」

同時にイエスマンが呼び止めた。信者らは一人一人、ボクらを凝視する。

「万が一ソナタらが、神に背く“裏切り者”であるなら容赦なく――」

信者一律に銃器を構え、ボクらに向けた。懐に隠していた拳銃、背中に携えたライフル。まさか全員が全員、銃器を所持していたとはね。

ただ、パクの話が真実であるならば、その銃器には弾は込められていないことになるが……。

「ひ、ひゃぁ!ちょ、急に何なんですか? 同じ教徒ではないんですか!? 話が違うじゃないですかあ!」

信者の微々たる表情で分かる。――銃器には弾が込められている。

冷や汗を流しながらも、怯えるシリアスな光景が物語っているよ。

「で、でも、それ脅しの道具でしかないですよ! いや、脅しでもないんじゃないか……自分、確かめましたよ、弾なんて入ってない!」

先導者イエスマンがボクらに近づき、静かに、拍手を繰り返す。

「素晴らしい推察です……賞賛に値します」

信者もそれに呼応して拍手を繰り返す。思ったよりも、まずい集団であったな……。

銃が降ってくるなんて異常事態が起きて、たがが外れておかしくなってしまったのか。元々、こういう奴らなのか。

「だが、我らが所持携帯する銃器には、しっかり込められているんですよ。鉛玉がね」

心でため息をする頻度が多くなってきた頃合いだな。

「もし、裏切り者であったなら……神に代わって我らが処罰を下しますので」

イエスマンが信者らに銃を下ろすようにと合図をすると、彼は再び先頭を歩き、何事もなかったように歩み出した。

「はぁ〜もう、ヤバい奴らだよ……」

パクが膝を抱えて、意気消沈。

「気が熟したら、別れを告げるさ……その時まで我慢してほしい」

ん、いや待て。なぜボクは彼を同行者として認めたことになったんだ?

ただ同じ場で生還した、というだけなのに。別に彼が別の場へ行きたいのなら、ボクは止める義理なんかないのに。

「……パク、キミはこのままボクに着いて、果たして本当に良いのだろうか?」

「え、片里さん?」

眼鏡をかけ直す彼から、ゆっくりと目を逸らす。

「ボクは、この世界で生きたいとは思わない。ただ、なぜこんな事態になったかを知りたい。それだけなんだ……」

「――それで命が尽きるかもしれない。ボクの探求心と好奇心は許さないけれど、キミはそれでもいいのかな」

ボクの人生はボクのもの。他人の人生はボクが介入する余地も権利もない。だからこそ彼の決断に委ねるしかない。

「自分も、確かにこんな世界嫌だよ。だけどせっかく、生き残ったんだ! それなら自分も――」

パクと出会って、まだ間もないけれど、全体的にこの人は臆病でありながら、自分の芯となる部分が地に足がついているように、そんな感じがする……。

「――自分も真実知りたいじゃないっすか!」

真実を知る、真理を知るというのは、世界に挑むということだ。何年も何十年も莫大な時間と労力と貯金が必要だとボクは考える。

それでも、突き詰めることを決めた人間は手段を選ばないので、他の何よりも怖い人間だと思う。

ボクは、そんな人間を「怪物」と呼んでいる。

「ふっ……」

彼は、ボクに似た――その怪物の匂いがするよ。

ボクは彼の肩に手を軽く置いて、柄にもなく笑い声を上げてしまった。

「え? ちょちょ……」

パクは混乱したけれど、先を進む信者らの後に続こうとボクを揺する。

「裏切り者に思われてしまいますって! ……行きますよ!」

パクは呆れながら進んでいく。

『ソナタら! コチラへ参れっ!』

すると、イエスマンがボクらを呼んだ。

「ほ、ほらぁ……きっと怒られるよ……」

彼は萎れながら頭を地面の方に傾ける。何事だ? また何か、ボクらに釘を刺すのか?

「取り敢えず……向かうぞ」

遠くで信者らが一斉にこちらに視線を送る。早く来いと言わんばかりで不気味だ。仕方なくボクら二人は、イエスマンの場へ向かう。

「これは、何なのか存じているか?」

指を刺したのは地面に大きく突き刺さる石……コンクリートの瓦礫だと思ったが、そうじゃない。なぜなら、瓦礫だとしても深い漆黒であり、辺りにその様な建物の痕跡がないからだ。

それだけで一概にコンクリート破片や瓦礫ではないと判断するのは、早計ではあるが……。――異質な雰囲気を感じざるを得ない。

「こ、これ……って……何ですかね、片里さん」

周りがザワザワし始めた。信者の中にも、これに該当する鉱石や物の知識を持ち得ていないのだろう。

一目見ただけじゃ何も分からない未知な石……それも、それほど大きくない。手で収まるほどの。

「隕石か?」

ボクが口を手で覆ってボソッと呟いた。

「い、隕石……?」

すると辺りは驚嘆に満ちた声を次々に上げた。

《9時30分》

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