EP9
《事象発生から54分後 9時54分》
どこだ!どこだ……!
金澤の野郎!
ついさっきまで揉め合っていた
兼充駅の東口に着いた。
「ハァー……ハァー……」
交番から駅までの道のりを、こうも早く
辿り着けるとは、この世界の歩き方に慣れているみたいで嫌気が差す。
ふざけやがって!
元はと言えば、空から銃が降ってきたのが!
馬鹿みたいな話なんだよ!
「っち……五郎の死体は隠されたか……」
五郎が倒れていた場所には固まった血痕しか
残っちゃいない。不自然なぐらいに、その場所に血痕が溜まっているのが胸を苦しくする。
オレが守れなかった人数、こうして
血が流れていくのは、もう、ゴメンだよ……。
護れ、護れ護れ!
駅の中に古都さんや、金澤がいるかもしれない。
オレは改札口を通り、地下まで続く階段まで
疾走していく。
「っ……大丈夫ですか!」
階段を下り終えると、西口側の階段前で
壁にグッタリと背中をつける男がいた。
「け、警察官……か?兄ちゃんは……ハァ、ハァ」
脚を伸ばして、顔を白くする。
腿を見れば、ズボン越しの1箇所から出血跡が
見受けれる。
「撃たれたのか……?あ、安心してくれ
直ぐに手当てしますから!」
オレはワイシャツの素手を力一杯に引きちぎって
彼の腿に巻き付ける。
「っ!あぁ……!」
彼が小さくうめく。
「あ、ありがとう……アンタ、名前は?
俺は神尾だ……」
脂汗を出し、神尾と名乗る。
サラリーマンなのか黒スーツを纏っていた。
「保科だ……神尾さん、これは誰に?」
銃弾を持っている人間なんて限られている。
一見、この男性は人に危害を
加えるようには見えない。
「あぁ〜クソみたいな野郎だ……
細目の七三分けで見るからに胡散臭い奴だ
金澤なんとか、なんとかって組織を勧めらたよ」
溜息を吐きつつ
呆れたように悄然として言う神尾。
「金澤か……」
矢張り、金澤だった。
人の物を奪っておいて、人一人を射殺!
あわよくば更に人間に危害を加える!
到底、許せるものか。
必ず奴を無力化しなければ!
「保科さんも、アイツになんかされたのか?」
「あぁアナタに使った銃は元々、オレの物だ……
しくじって、奴に奪われてしまったんだ」
神尾は唇を噛み締めて、舌打ちをした。
「マジかよ……」
そして意気消沈と言った具合で話す
「実はよ高校生の男女がアイツに付いちまった
……オレがこんなザマにならなければ
二人だけは逃がされたのにな……」
オレが持っていたレボルバーには6発、銃弾が
込められている。
五郎に1発、神尾さんに1発の残り4発。
この4発を奴が誰にどう使うか……
一刻も早く奴を見つけて食い止めなければ。
「アイツは東口から出てった
俺の事はいいからよ……アイツを食い止めてくれ
そう遠くは経ってねえからよ、頼む!」
神尾さんの必死の訴えによって
オレは心動かされた。
どうして、オレの様な職業の輩が市民に劣って
怯えているんだ!ってな……。
ただ、この負傷状態の人間を置いて行くのは
危険だ。ただ止血するだけじゃダメだ
最高は彼の腿から銃弾を取り出して消毒。
最悪、銃弾を取り除けなくとも消毒と手当てを。
「っ……」
思わず顔が強張る。決断するべきだ……。
神尾さんの顔は真剣で、命に替えてでも
懇願するようだ。
どうする……。
迷ってる暇はない
かと言って、この人を放って置くわけには……!
『誰かいますか〜!! 誰か〜』
東口側の線路から人の声が聞こえた。
――生存者か?!
『誰か〜!!生きてる人いますかぁ!!』
オレは大急ぎで、線路側へ。
ホームドアから身を乗り出して叫ぶ
「生存者2名此処にいます!
その内、負傷者が1人ッ!!」
線路から、人影が蠢くと
ライトで自身を照らしていた。
「了解!私は医者だ!今、そちらに向かう!」
良かった。運良く医者がやってきた。
彼が入れば神尾さんは助かるはずだ……。
医者を名乗る、恐らく男性が
ホームドア付近までやってきた。
「手を貸します……登れますか!」
「頼む!感謝する!」
彼をホームまで上りあげようと
オレは手を差し伸べた。
すると、ガシッとオレの腕が捕まり
力強く飛び跳ねるように彼はよじ登る。
「っし!」 「よし!」
少し力が余り、後ろにのけ反ってしまったが
怪我なく医者の男をホームまで上げれた。
「さ、怪我人は?」
「あそこに!」
オレは西口側に疲弊している神尾を指差す。
彼は背中の大きなリュックサックを
その場に床に落として
神尾さんの元に颯爽と寄っていく。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……なんとかな」
オレも、その場へと駆け込むと
患部を診ていた。
「っ、熱を持って腫れてきているな
早急に縫って、安静に――」
「銃に撃たれたんです……患部に恐らく銃弾が埋まっていると思われます」
事実を聞くと医者の男は、固唾を飲み込む。
「……そうか……」
危機感を感じるような余韻を残し
切迫した様に彼は、リュックサックの元へ歩く
「私は安東だ15年、医者をしてきて
今まで私は色んな手術をこなしてきた――」
リュックサックを持ってきて、語る。
「だが今回のような不可解な事象と
更に一歩間違えれば取り返しの付かない状態は
人生単位で初めてだよ……」
オレ達、2人は彼に切願の思いで彼を見る。
「期待しても……いいよな?」
神尾さんが軽口を叩くと
安東さんは鼻高々に顔をニヤつかせる。
「あぁ今回も成功させるさ、必ず」
そう言って安東さんは手に持ったリュックサックを再び、床に置いてチェックを素早く開く。
そして、医療器具らしき物を
ゾロゾロと取り出す。
「そ、それ……ずっと持って歩いてたんですか?」
オレが疑問を口にすると
準備をしながら説明してくれた。
「あぁ、事象が起きてからは意外とスムーズに
事は運んでな……」
「銃降ってきた時、先生は地下鉄に?」
神尾さんが次に疑問を口にした。
彼もオレと同じく地上内で間近で
銃が降ってきた所を目撃した人間なのだろうか。
「あぁ、そうだ……私も、その時は何が起きたか
分からない状態だったさ、だが咄嗟に地上から
逃げてきた負傷者に治療する同業を見てな……」
安東さんは手袋をはめて
消毒液を患部に付けていく。
「少し痛いと思うが、我慢してくれ……
生憎、麻酔はないんだ、だがあんたなら
耐えれるでしょう――」
無慈悲に消毒液を吹きかける安東さん。
「っっ!!あぁ、こんな痛みっ!
毎日、8時間以上働かせている俺には」
『屁でもねぇぇぇ!!』
気合いと根性、そして少しの痺れ痛みの声が
ホーム内に、地下鉄内に響き渡っていく。
思わずその忍耐に感心してしまうオレが
そこにいた。
手術はこの後、慎重に運んでいった。
オレも少しばかりだが、手伝った。
当然、オレにも非はある。
自分のしくじりで金澤に銃を奪われ
奴に引き金を引かせてしまったのだから。
「っし、暫くは安静にするように……
移動の時の松葉杖の様な物を後から持ってくる」
安東さんは取り除いた弾を乗せた紙皿を
チャック付き袋に静かに入れた。
「たくよぉ……あの金澤とか言う奴ッ!!
ぜってえー許さねぇ!」
手術を終えたばかりの神尾さんは汗だくで
心中を察する。
神尾さんが、またもや叫ぶ
オレは彼の肩を持って立ち上がらせた。
「金澤?ソイツがアンタに撃ったのか?」
安東は銃を撃った人物の話になると反応を示す。
「あぁ、オレから銃弾入りの銃を奪ってな」
安東は手術後の後片付けを険しい顔をしながら
話を聞いていた。
「そうか……情報をありがとう……
君達この後、行き先が無ければ
私達の所にこないか?」
「っ?また組織かよ……先生の組織なら
信頼は出来るかもしれないけどよぉ」
耳元から神尾さんの不機嫌そうな声が聞こえた。
「確かに信頼度や安心度は現状じゃ
測れないけれど、私の様に医者の者や
弁護士や政治家の人間もいた……」
「――君の様に警察官や警備員もいる」
安東さんが、オレにアイコンタクトを取る様に
目を合わせて紡いでいく。
確かに話を聞くに、纏まった集団組織なのだろう
適材適所、様々な分野や技術を有する集団に
属すのが今は自然に考えれば安全なのだろう。
だが今、オレが優先すべきは
悪行を働かせる金澤を無力化する事。
「っ……だがよ、俺のダチが金澤の野郎に
拉致られたんだ、有難い話なのは分かるし
そっちの方が安全なのも分かる――」
「ただ、ダチを……見捨てる訳にはいかねぇ――」
静かなる怒りを感じる。
ただ、オレにも
金澤に対する気持ちは同じような物。
「そうか……2人は同じ目標を今や抱えている訳だ」
リュックサックに医療器具を丁寧に詰めていく。
肯定するような感心するような穏やかな声色だ
「だがね……アンタその状態じゃキツくないか?
暫く大人しくしないと傷口も開くかもしれん」
「先生……そうは言ってられない
奴はマジで人を殺す!いや、もう既に誰か
殺してるかもしれないんだ……」
安東さんはリュックサックを閉め
背負うと、神尾さんの肩を持った。
「っ、先生?」
「別に私は担当患者を見捨てれないだけだ……」
オレと安東さんが神尾の肩を持ち
ゆっくりと、ゆっくりと東口側の階段を登る。
「ありがとうございます……安東さん
んでも、奴は武器を持っています危険ですよ」
「……異常者を放っていく方が危険だ」
一段、一段……ゆっくりと登っていく。
安東さんの心意気は本物。
今まで括ってきた修羅の場数が違うのだと
思い知るほどに頼もしい眼差しだ。
「ホントに恩に切るよ先生……
それに警察の保科さんもよ」
神尾さんが清々しい微笑みを見せる。
オレ達は、金澤を無力化する事に向けて
着実に段を踏みしていた。
やっと改札機が見え、外が見える。
オレ達は、ゆっくりと歩みを進めて外へ出た。
「さあ……どっちだ、その金澤とやらの場所は」
安東が息を整えて、辺りを見渡し言い放つ。
彼が崩壊した街を見て何を思ったかは分からない
ただ、心なしか決心を固めた様に息を吐いた。
『おおっと……人数が増えてるじゃないカ』
真っ正面から堂々と歩く人間が見えた。
その姿は忘れもしない“奴”だ。
「フハッハッハ!
なんだよ、出迎えてくれんのかよっ!」
神尾が意気揚々と奴に向け
1人でに足を引き摺りながら歩き出す。
『おやおや……しぶといねェ』
奴は悠長に駅の方へと向かってくる。
銃は構えていない上に
銃を両手に持っていなかった。
「奴が金澤か」
安東が睨みを利かせて
リュックサックのサイドポケットを探る。
奴は絶対に食い止める。
必ず……必ず!
「あぁ、そうだ……銃を持ってる
気を引き締めて欲しい……神尾さんも!」
『おおっと……君もいたのかぁ〜
負け犬が尻尾巻いて逃げ仰たのにねぇ
執念ばかりが先行したら命取りだヨ』
《事象発生1時間32分 10時32分》




