EP;8
「……さ、君達には権利がある
組合に入るか、入らないかだ」
金澤に銃を奪われた!
オレがウダウダとしていたからだ……。
クソ……どうする!
「古都さん、どうしますカ?」
金澤は銃口を古都さんに向けて
威嚇するみたいだ。
彼女は動かず、何も言わない。
「ど、どうするって……」
『あぁ、地下には誰もいなかったぞ……』
怯える古都さんの後ろからズカズカと声が
近づいてくると、五郎は戻ってきた。
「な、な……テメェ、何やってんだ?
その銃、お巡りさんのじゃないのか?」
五郎は状況を理解したようだ。
古都を自身の後ろへと庇う形で奴に
やじを飛ばした。
「あぁ、アナタもいたんですネ……」
「今、自分が何しているか理解してるか?
最初からテメェは好けねえ奴だと思ってたよ!」
五郎は、銃に狼狽える事なく
奴に突っ込む。
金澤は顔色一つ変えない。
オレは依然、地面に尻を付けてる。
不甲斐ないばかりだ。
下手に動けば金澤に撃たれる可能性があるし
だからと、抵抗しなかったら……
奴に支配されるだろう。
そんなのは望まない。
例え生存者が大勢いて物資があったとしても
武力支配は憎しみしか生まない!
「ワタクシもアナタの様な暴言を軽々、吐く人間は好きになれないですヨ……」
「あ?」
金澤は五郎の眉間に銃口を向けている。
ダメだ……撃つぞ!
コイツなら容赦なく人間を撃つ!
「やめろ……五郎さん!落ち着いて下さい」
オレは立ち上がり、二人に向けて放つ。
だが両者は睨み合い
とてもじゃないが、仲介に入る事は出来なかった
「撃ってみろよ……」
五郎が目力を強くして煽った。
「ダメだ!金澤っ撃つな!
まず、話し合おう!全員が生き残れる道を――」
「そんなものはなイ!!」
オレの必死の説得も金澤によって一喝されてしまった……。絶対にあるはずの“平和な選択”を
なぜ取れないんだ?
そんなにも自分勝手に、生きなくとも!
「保科さん……ワタクシが心から
掲げる“正義”というのは自分自身サ」
金澤が、コチラに忽然と顔を向けた。
人相は……何処か、昔に見た事がある。
そう、オレが愛していた人を
――殺した人間によく似ている。
青白く、目に光が宿っていない。
何を考えているか、まるで分からない。
「よそ見っ!すんなっ、クソ野郎がッ!!」
五郎がオレの方を向いた金澤に向かって
拳を振り上げて飛び込んでいった。
やめろ……やめろ!
「危ないっ!」
――――パーンッ!!
小さな殺戮兵器の穴から極小の弾丸が飛び出た。
打ち上げ花火に似た音が周囲に響き渡ると
目で捉える事が出来ない
速度で五郎の眉間に直撃した。
「っ……あ、あぁ!」
五郎から最後に出た叫びは途轍もなく短く
全力であった。眉間から血液が噴き出ると
彼は強く身体を打ち付けて地面に力無く
倒れ込んだ。
その僅か数秒の出来事にオレは強い不安と後悔に襲われることとなった。
「――ワタクシは間違っていない……
間違いだとしても、ワタクシは正解なんダ」
金澤は銃を天に掲げた。
そして無力になったオレ達、3人を不敵に笑う。
「え、え?……な、なに……なんで撃ったの!」
古都は流れ出る血液と五郎に近づく。
そして強く金澤に責める。
「騒がないヨ古都さん……さあ、もう一度
問おうか……組員に入るか、入りませんカ?」
金澤が古都に銃口を向けた。
銃口の先を見るなり古都は何かを悟ったように
眉を広げてゆっくり手を前に出したまま
固まった。
「やめろ……古都さん」
確かに生き残るには従うしかないのかもしれない
ただ、それで良いのかよ。
奴は……奴は人を無神経に殺せる野郎だ!
「うん……ようこソ」
古都が、ゆっくりとゆっくりと
金澤の元へ歩む
「そうだ……そうだ、賢いヨ」
金澤は歩む古都を煽てる。
すると、金澤はオレと目を合わせた。
「さあて……君は、どうする?
もう既に5分以上、君達に費やしている
……そんなに使ってはならないヨ」
金澤が腕時計に目を落とす。
「古都さん……西口に向かって欲しイ」
金澤は古都の肩に手を置き
落ちていた銃を古都の胸の前に持ってきた。
「もし生存者が現れたら
コレを使って、食い止めて欲しい」
「はい……分かりました」
指示を受けてロボットの様に返事をして
廃人のように意思なく歩き出した。
彼女も彼女で、葛藤はあったのだと思う。
かつての瞳は輝きは暗く消えているが、だが密かに、今も葛藤している様にも思えた。
だからとオレが立場を変える一手を打つ事は
今の心具合じゃ出来ない。
奪われた武器、血を流す死体。
揺らぐオレの無価値の正義。
オレが彼らを導くと努力した結果が
腑抜けた自分の精神によって破壊された
これが、どんなに惨めなものか……。
オレの尊厳も価値も全部、馬鹿げた出来事で
ハリボテだと知ったよ。
「あの子は使いやすいね……
力を見せれば直ぐに順従になったよ、確かに最初は反発して殺すしかないかと思ったけれどネ」
金澤は、調子変わらず流暢に話す。
腹が立つ程に他人事だ……。
アイツにとってオレ達は
ただの駒にしか思っていないんだ。
オレは拳を力強く握った。
赤くなるぐらいに……。
「ずっと、そうやって突っ立ってても
何も事は動かないよ?
ましてや“事態が好転する”なんて事はね……」
「子供じゃないのだから、自分の言葉で、意思で
ワタクシに言ってみてくれヨ……保科〜」
ニタニタと人を馬鹿にする様に笑いやがって
それが屈辱である事を知っておきながら!
アイツはわざと、皮肉な言い方をした。
呼吸を整え、奴の眼をジッと見つめた。
「誰が、お前なんかに信頼を寄せるかよ」
唇を口で巻き込んで
奴に最大限の憎しみを込めて
「バーカ!!」
奴が眼を見開くと、オレは走り出した。
命中しない様にジグザグに不安定に。
銃を手いっぱいに拾い上げその場にばら撒いた。
複雑に宙を跳ねる、重々しい鉄の塊。
奴が2発、オレに向けて放った。
だが残念だったな……1発も当たってねぇぞ。
素人が!!
「ハァハァハァ……」
後ろから追ってくる音も発泡音も聞こえない。
きっと、奴はオレを諦めた。
いやまだ、それは分からないか……
きっと、そう遠くないうちにアイツと
また対峙する事になるだろう。
そうなったら確実に必要なのは
“武器”と“強固な精神”それだけだ
必死に走って、走りまくった。
銃に躓きそうにながら必死に走った。
その末にオレが無意識に辿り着いたのは
務めていた兼充公園前交番だった。
本当に無我夢中に走り切った場所が
この場だったのは何故なのだろうか……。
後輩の高松が生きているのかも知りたかった?
たが、目の前に広がる景色は
何も言えない程に破滅的だった。
当然、景観は破壊されている
何も残っちゃいなかった。
そこに後輩の姿も何もかもだ……。
オレは漠然とした頭の中を振り絞った。
腕を捲って、瓦礫と銃の山を登る。
瓦礫を退かして、銃を投げ飛ばして
必死に掘った。
オレ達がいつも座っていた椅子とデスク。
狭っ苦しくて、どうしようもなかった日々と
バカみたいな正義を抱えて笑っていた時間を
素手で掘り当てる。
オレが奴から逃げだ事。
古都さんや市民から逃れた事。
正義や欺瞞、偽善に押し潰された瞬間を
今は忘れていたかった。
「あ……あぁ……!」
――涙が溢れ落ちた。
交番の冷たい床が見えた、その時。
人間の一部が見えた……足、だろうか。
その足は全体的に酷い有り様だ。
アザや打跡は紫色に変わっている。
「……高松……」
オレは、その足を辿って瓦礫と銃を避けていく。
せめて物の弔いとして……敬意として……。
足から始まり、腿に腰、腹。
衣服はボロボロになっていて
流血もしていた事が見受けれる。
高松、お前……ごめん、ごめん……
本当はお前が生き残るべきだったんだ。
こんな、オレなんかよりお前の方が
遥かに人を護り導く人材なのに。
「……逆だったら……よかったのにな……」
埋まっていた高松の全身を払って
彼の亡骸を目にした。
頭部は瓦礫で潰れていて、赤の塊が散らばる。
それより下は打跡が痛々しく肌に見える。
銃器を手の平に乗っかっているのを見つけた。
金澤に奪われたのと同じリボルバーだ。
だがオレ達、警察官らに支給されていた物か
どうかは分からない。
オレは高松の亡骸の前で手を合わせた。
申し訳なかった、本当に今までありがとう
数多の感謝と謝罪を込めた。
そして、高松の手の平のリボルバーを手に取った
――重い……第一印象はそれだった。
試しに、そこらに落ちている拳銃や様々な機種を手に取って重さを比べた。
確かに、このリボルバーに質量を感じた。
オレはリボルバーのチャンバーを開け
六つの穴を確認すると5発……5発だ。
5発、これには込められている。
「高松……」
彼の潰れた頭部の方向を向いて呟いた。
制服は血や砂埃に汚れているが
確かに勇姿はオレの目に映る。
「お前の無念、払えるか分からないけどよ
力、貸してくれ高松……」
その後輩の肩身をホルスターに入れ
重く、しっかりとオレの体に感じた。
「もう一回、此処に戻ってくる……
その時にお前をキチンと弔うからよ――」
上着を脱いで高松の遺体に被せる。
「――待っててくれよ」
交番を後にする。
オレの正義ってのは薄っぺらい物かもしれない
ただ、見過ごせない事柄はある。
復讐じゃなくて、憎しみじゃなく。
警察として罪を償わせる。それだけに動け……
分け与えるだけの、押し付ける正義じゃなく
平穏としての平和としての正義を
皆で、オレで……見つけなきゃいけない。
それがどんな物かは、まだ
見つけられていないけれど
いつか、こんな世の中でも笑い合える日常を
作り上げていこう……ぜ。
なあ、高松。
《事象発生から48分後 9時48分》




