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“大銃壊”−その日、空から銃が降ってきた−   作者: 秋浦ユイ
保科くれは篇 8時5分〜10時32分
10/19

EP;7

 アレから何分、歩いたのだろう。

 五郎さんと、古都さんの足取りも段々

 鈍くなっているのが分かる。


 オレも疲労が溜まり始めた。

 一時的に滞在していた高架下から大分、離れているはずだ。いつもなら、あそこから駅までは10分で着く距離なのに。


 ――銃の道と、銃による被害で足場が劣悪だ。


「もう直ぐです!もう直ぐなので、二人とも

 頑張って下さい!」


 オレは二人に呼び掛ける。

 力無き声で古都さんが


「う、へーい」


 五郎さんの返事は聞こえず

 彼の吐息だけがオレの耳を通り過ぎていく。


「大丈夫すか、五郎さん……」


 心配になって、後ろを振り返る。

 振り返ると満身創痍の五郎。

 古都さんも同じく彼に振り向く。


「お、俺……歳だからよキツいんだわ……

 ハァーハァ先、行っていいぞ……」

 


 息を切らし膝に手を当てる。

 汗が額から首筋にへと滴り落ちる。


 確かに身動きが取りづらい上に7月末だ。

 気温も高く湿度も高い。

 風も、それほど吹かない……。


「置いていくことは出来ないですよ〜」

 古都さんが言い張る。


「そうですよ、それに一人は危険だ」

 続けてオレも、彼に言うと彼は息を整えながら

 ゆっくりオレらの顔を見上げた。


「ありがと、恩にきるよ……」


 オレは口角を上げて

 再び歩き出した。


 街は悲惨の悲惨。

 大災害後のような辛く胸が痛む状況だ。

 建物は殆どが、バラバラに倒壊していて

 砂煙が充満している箇所も見受けられる。

 建物の瓦礫から煙も出ているのも見つけた……


 オレ達が歩いてる、この道は変わり果てていた。

 時折り、何か足元に重い物を覆い被さる。

 また“何かを”踏み締めてしまう事もある。

 それを踏んだ感触は柔らかく……

 考え出すと、嫌な妄想を繰り広げてしまう。


 落ちている銃器を手に取る事は決して

 オレには出来なかった危険が伴うかもしれないし

 そして何より、所々に血痕らしき

 生々しい跡も目に入るので勇気が湧かないんだ。


 ――ガシャン、ガラガラガラと歩く度に重い鈍い音が聞こえて、とても不快だ。


「あ、あれ!見て!見てよ保科さん!」


 古都さんが、いきなり声を出した。

 そしてオレの真横に移動して来て

 遠くを指した。


 オレはその指の先を辿る様に目、指した。


「あ、アレは……」


「しろ……白旗か?」


 オレが口々に言い出す。

 そう、古都さんが指差した先に白旗が

 立てられていて明らかな人工的意図を感じさるを得なかった。


「だ、誰がいるんじゃねえか?」


「多分そうだよ!行こうよ保科さん!」


 二人が希望を見出した様に、または仰天を隠せないような声高らかに発言する。

 確かに生存者が立てた物だとしたら

 目印或いはSOSの意かもしれない。


「あぁ!行こう!」


 オレ達は顔を見合わせて、出来る限り

 早く辿り着くように早足で移動した。

 

 景色がブレる。

 歩くスピードが上がる事に銃器の音がうるさい

 そして、重くて煩わしい!


「あっ、誰か立ってるよ!」

 

 古都さんが走りながら声を出す。

 確かに誰かが立っている。

 オレ達の方を向いて棒立ちしている様に思えた。


 その前に、あの白旗が立っている場所は

 一体なんなんだ?瓦礫は散らばっている物の

 あそこの空間だけヤケに銃器がない。


 ――あの場所、何が立っていたっけな……


 そうこうしている内に、問題の空間に着いた。


「こ、こんにちは!だ、大丈夫ですか?」


 一目散に声を掛ける。

 声を掛けた人は黒スーツ姿で七三分けの男だ。

 ニコニコとオレ達を迎えていて、印象は良い。


「あぁ、良かった……ワタクシ達

 以外に生存者がいたとはネ」


「ハァー、ハァ……アンタ、此処で何してんだ?」

 

 五郎が、またもや息を切らす。


「んん?何してる……まあ、ボランティアかな

 君達も、この世界で生き残る方法を模索しているんだろウ?」


 彼は知的に淡々と話すと、白旗を持ち上げた。


「ボランティア……?」


「そうだよ……君達も僕のボランティア組織に

 入ると良いよ、きっと長く生きれるヨ」


 その白旗を曇り空に天高く、掲げる。

 古都は一心と、その白旗を見つめる。

 オレは少し俯瞰して辺りを目視。


「金澤信用武器保管組合……って組織なんだ

ワタクシの苗字を烏滸がましくも入れさせて貰っているんだ……少し名称が長いけど覚えて欲しいネ」


「ふぇ〜もう何かそう言う組織作ったのかよ

 すげえな……んで、人数いるのか?」

 

 五郎が粘り気のある言い方で、男に近づく。

 男は白旗を下げて寄って来た五郎の肩に手を置く


「あぁ、いるさ……当然、少しずつ人を集めるヨ」


 何か、圧をかけるみたいだ。

 そして次はオレの姿を見て、ニヤリと笑う。


「キミ、警察官さんじゃないか……

 心強いねぇ頼もしいネ〜」


「保科さんは、良い人ですよ!

 アタシ達を此処まで連れて来てくれたんだから」


 古都はオレの真横にやって来て

 庇う様に男に威を放つ。


「いやいや、別に何も取って食べる訳じゃないよ

 だから、安心して今は対話をしようカ」


「君の名前は?」


「古都ですけど……なにか?」


 古都さんは、ぶっきらぼうに伝える。


 男は古都の反応を見て、自身が警戒されている事に気がついたみたいだ。

 弁明するような形でオレ達を鎮めようと努めている様に感じた。


「正確な人数を教えて欲しい……

 把握しておきたい、オレ達は今から地下鉄に

 行って生存者を見つけに行く」


 オレは奴に向ける。

 この場は穏便に済ますべき

 生存者同士で争う場面でもない訳だ。


 それにオレは元々、争いなんて求めていない。

 皆、オレとほぼ同じ気持ちなのは伝わる。

 五郎も古都さんも。


 ただ金澤を名乗る……此奴は何か違う。

 何か今回の災難に矜持ている様だ。


「30人だ……此処には銀行が建っていてね

 その客と従業員らが避難して数を為したんダ」


「……その30人全員、アンタの仲間か?

 半ば強制的なんじゃねえのか?」


 五郎は金澤の言葉を遮るように声を出した。

 彼を信じる気は、あまりなさそうだな。


「30人全員が、組員さ……勿論、強制なんて

 しないし、するべきでもないし、させないヨ」


 金澤は不気味な笑みを浮かべる。


「あっそ……もう行こうぜ、保科さん」


 五郎が呆れたのか、諦めたのか

 銃の道に戻ってった。


「あぁワタクシも地下鉄に丁度、行こうと

 思っていたんだよ……同行しても?」


 金澤は思い出したかのように

 オレ達に提案をした。

 五郎はズルズルと先に行って見向きもしない。

 古都は静かに彼の言葉を聞いていた。


「あ……あぁ勿論」


「ありがとう、ありがとウ……」


 此処で断れば何か後々、面倒な事になるかもしれないと予感した。この先、オレ達が生き残ったとしても奴らが勢力を拡大していたら生きづらくなる。


 穏便に、そして……波風立てずに。


「い、いの?」


 古都さんがオレの衣服を軽くつねり

 小さく囁いた。


「背に腹はかえられない……確かに怪しいし

 危ない雰囲気を感じるけどな……」


 オレも訳を説明し囁いた。

 奴は、その間もずっと五郎の向かう先を

 眺めている。


「その前に……」


 金澤が、遠くを眺めながら放つ。

 その姿は何処か恐怖を感じるほどに淡々と。


「キミ、銃の弾、持ってるよね」


 気付かれた……!

 制服姿のオレを見て、ずっと奴は

 その事を考えていたんじゃないか?


 奴の言動、思想から

 奴は支配者の思考回路を持ち合わせている。

 それは確実。

 世の中がこんなになって、タカが外れたのか

 元々そんな輩だったのかは分からないが


 コイツに武器を渡すと――危険だ!


「な、なんだ……アナタも武器が欲しいんですか」


「え、いや……欲しいよ、可能ならネ」


 どうするべきだ、どう、切り抜ける!?

 オレの腰のホルスターには(レボルバー)が入っている。しかも実弾入りだ……。


 これを奪われたら、命が分からない!

 絶対こう言う奴は支配に使う、自身の利益の為に

 害だと思う人間を容赦なく撃つだろう。

 

 「これは、オレが持つべき道具だ

       一般人が持つべきじゃない」


 奴は黙り、何かを思考しているようだった。

 ジッと一点を見つめて不気味だ。


「そ、そんなことより!早く、行きましょ!」


 古都さんが、場を和ませる為か

 進ませる為か騒ぎ立てた。


「あぁ、行こうか……またいつ、銃が降るか

 分からないからネ――」


 金澤が忽ち、歩き出していく。

 続く古都が、オレを一瞬見て進んでいく。

 最後尾で、常に奴を警戒しなければ……

 万が一に備えて。



 そんな警戒状態が長時間続き

 疲労が如実に現れたのは自身の足取りが

 不安定になった事だった。


「あっ、駅着いたよ!兼充駅っ!」


 そう声を挙げた古都の遠くを見ると

 兼充駅の入り口を発見した。


 入り口は銃器に溢れていた。

 改札機から地下に続く階段とエスカレーター。

 構内にも、流れ落ちているだろうと

 察知すると場にいた全員が固まった。


 もしかすると、地下鉄に生存者が

 いないのでは……と。


「んんー、取り敢えずぅ入ってみる?」


「皆さん、お先にどうぞ?ワタクシは、此処一体の銃器を拾い集めておきますかラ」


 金澤がポケットから袋を取り出した。

 銃器を拾い集める……か。

 ボランティアってそう言うことか?


「ふん!そうかそうか、じゃあ一人で

 片付けして待ってろ……俺は先に行く」


 五郎が先へ進んだ。

 改札機を通り、銃器を蹴り飛ばす音を立てる。

 そして遂に階段を下り姿が消え去った。

 続いて古都も先に足を踏み入れていった。


「金澤さん、何かありましたら……大声で

 オレ達を呼んでください」


 銃器を淡々と拾い集める金澤。

 その姿は街のゴミを拾うボランティアみたいだ。


「……ええ、頼りにさせてもらいますヨ」


 顔を上げず、ただ銃器を拾う。

 ビニールの袋を何袋も袋を取り出し

 種類ごとに分けていた。


 拳銃のような小型銃。

 ライフルやショットガン類

 袋が張りちぎれそうになっている。

 そもそもライフル類がビニール袋に何個も入るわけが無い。入ったとしても持ち運べない。


「あぁ……」


 一つ袋が破けた。


「……大丈夫ですか?」


 思わず声を掛けてしまった。

 確かに彼を警戒しているし、実弾入りの

 銃は今、何より欲しているのだろう。


「ん、まだ行ってなかったのですネ……

 アナタも、お人よしですねェ」


「どうして、銃を拾ってるんですか」


 金澤が遂に顔を上げた。

 そして全ての動作を停止する。


「ボランティア……ですよ……

  ワタクシだって、この様な事になるとは予測なんて出来なかったですし動揺もしてル――」


「だけど、全員が絶望に耽っていては

 何も始まらないでしょう……ならワタクシから

 動き出そうと思っただけですヨ」


 一つのピストルを手に取って

 金澤は、眺めてため息をつく。


「アナタの正義……って訳ですか

 困難な状況でも自分だけでも希望になること」


 手に持った、ピストルの銃口を

 自分のこめかみに向けた。


「警察さん……君は正義ってなんだと思う」


 カチカチとトリガーを引く金澤。

 だが、弾は入っていなく

 カチカチと鳴るだけで何も起きない。


 正義……か。


『正義ってのは三つ入りのミニプリンを2人で分け合う時に最後の一つを一緒に食べ合う事だと思う』


 馬鹿みたいなことも……言っていたもんだよ。


「オレに正義を語る権利は……無いんだ」


「なら……引金(トリガー)は引けないね」


 金澤に、見捨てるように言われて

 オレは腑に落ちた。


 誰も護れない警官が正義は語れない。

 それなら銃を持っている意味は

 これっぽっちも無い。そう言われている

 みたいだった。


 オレは返す言葉もなかった。


「君は、この世界では……無力なんだヨ」


 手に持ったピストルを無常に落とす。

 代わりに奴は自身の手のひらを見せた。


 すると、素早く彼は動き

 オレの視点が一気に地面を向いた。


「っが!」


「あんまり、乱暴はしたくなかった……

 まあ、組員になる気は無いみたいだし……

 プラマイ変わらずダ」


『保科さーん、来ないんですなぁ?』


 古都が駅の中でオレを呼んでいた。

 だがオレは答えることができなかった。

 腕を力強く金澤に抑えつけられ、圧迫される。

 

 段階的に彼女の声が近くになる。


『保科さーん?』


 

「保科……さん?」


 古都がオレを見て、白目を大きくした。


「おっと、古都さん……動かない方が身の為サ」


 金澤はオレのホルスターから

 銃を奪いオレ達に銃口を向ける。


 オレは一旦、解放されだが

 その場に動く事は激痛で出来なかった。


 しくじった!

 オレが、油断していた!


「……さ、君達には権利がある

       組合に入るか、入らないかだ」

 《事象発生から27分後 9時27分》

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