剣聖
「剣聖・大魔道士達と会ってもらうわ。既に女性勇者が現れ顔合わせをするって伝えてあるから、西棟の会議室に集まっているはずよ。
今回は3人中2人しか会えないけどね」
階段を登り降りしつつ、複雑に入り組む城を歩きながらエリステラは奏に説明する。
(かなり複雑な構造になっているな……防犯の為なんだろうが……やりすぎている)
奏は城の複雑な作りに違和感を覚えた。
「防犯上ある程度は分かるが、やり過ぎじゃないか?これじゃ、住んでる奴らも迷いかねないだろ?」
「案外鋭いわね、奏の言う通りよ。魔術師サイドの人間を迷わす為に作られているの。魔術師と剣士には深い軋轢があってね……
恥ずかしい話だけど、内部的に足並みが揃っているわけじゃないのよ」
「その原因ってのは複雑な話なのか?」
「複雑というよりは……私の口からは何とも言えないわ。タイミングを見て、直接話を聞いた方が良いと思う……」
エリステラは少し寂しそうな顔で答える。
(内部的に問題あり……俺、つまり勇者の出現を急いだ理由の一つはこれか?)
争い事は当事者に聞いたとしても、主観が入り正確な事はあり得ない。
奏は正確に判断する為に、後でシスターから話を聞く事にした。
「だから、今から会う2人には絶対に魔術師関係の話はしないで。それだけは本当に駄目」
「了解、覚えておく」
「あと、私の事は今からエリスと呼んで。親しい人にはそう呼ばれてるから」
「嫌だよ、別にお前と親しくないじゃん」
奏はエリステラからの提案に、不穏な思惑を感じすぐに拒否をした。
「そんなの私だって分かってるわよ!その方が今後私と行動してても怪しくないでしょ!いちいち面倒くさい奴ね……」
「そう言う話なら、先にそう言えよ」
エリステラは明らかにピキッてたが、奏はわざと気づいてない振りをした。
(この調子なら、エリスに関してはあんまり考えなくても良いかもな。騙そうとしてる様子はないし、理由があるにせよ俺が必要な事は間違いなさそうだ)
「とにかく、簡単な挨拶だけで良いからね。入るわよ」
真っ白な扉の前で止まると、エリスは2回ノックをして扉を開けた。
「ロキ、カリナ、勇者を連れてきたわ。奏、挨拶して」
「初めまして、奏と言います。宜しくお願いします」
奏はあえて短いシンプルな自己紹介をする。あえて短くすることで相手の興味を引くと同時に、相手の出方を見たかったからだ。
「私はロキちゃん!奏ちゃん可愛くて好きなタイプ!宜しくね」
ロキと名乗ったのはクマのぬいぐるみを抱いた少女で青紫の長い髪に、奏に似たゴスロリっぽい甲冑を着ていた。目が大きくて可愛い顔をしている。
「カリナ」
対照的に名前のみの挨拶をしたのがカリナだった。甲冑に赤茶のポニーテール、凛とした美女という感じだが常に不機嫌そうな顔をしている。
(見た感じ対照的な二人って感じだが、両方余計な事は話さないか……恐らく内部の人間も信用してない)
「奏は転移初日で疲れてるし、今日はとりあえず挨拶だけにしときましょう。奏、行くわよ」
「え?……うん」
エリスが、早足で出口に向かって歩き出す。
あまりの呆気なさに奏が驚いてい動けずにいると、ロキが奏に抱きついてきた。
「エリス、奏ちゃんはうちの所属でいいんだよね?私、奏ちゃん気に入っちゃった!」
「はぁ……こうなる前に帰りたかったのよ。所属の予定はなし、私の専属にする予定よ」
「それってさぁ……魔術師側から文句言われるのがダルいからじゃないの?」
「違うわ、私と奏の仲が良いだけよ。そうよね、楓?」
「そうね、エリス」
(さっきの“エリス呼び”を指定したのは、こういう事か……少しでも気にかかかる事があれば魔術師との関係を勘ぐる)
奏はつくり笑顔をしながら、エリスに返した。
「それに奏は“淫魔の加護”を持ってるから、ロキは魅了の影響で気に入った錯覚をしているだけじゃないかしら」
「通りで変な感じするわけだ!奏ちゃん、お姉さんと後でいい事しよっか?」
ロキはわざとらしく奏の太ももを触ると、耳元で囁いた。
「ロキちゃん、お姉ちゃんは私じゃないかな?」
奏も相手のペースに持っていかれないように、対抗して頭を撫でる。
「えへへ、嬉しいかも。でもそれはないよ?私今年で27だし」
(27歳!?この世界の年齢ってイマイチよ良く分からないな……)
奏はあまりのギャップに驚き、上手い事が言えず固まってしまった。
その隙にロキは嬉しそうに奏に更に抱きつく。魅了がかなり効いてきたのか、発情してるのか分からないが、かなり奏にベタベタと触り始めていた。
「お母様の愛人だから、止めといた方がいいんじゃない?奏、時間がないから行くわよ」
「ゔぇっ!まじかよ!まじであのババァなんでも自分の物にしやがって……奏ちゃん、魅了関係なしに私は気に入ったから、また遊びに来てね」
一瞬かなり汚い言葉遣いになったが、すぐにいつもの口調に戻り、ロキは奏の唇に軽くキスをした。
「ありがとう。また遊びに来るわ」
かなり驚いたが動揺を隠し、奏はもう一度ロキの頭を撫で、カリナに会釈をするとエリスの元へ駆け寄った。
「カリナ、あの子どう思う?」
2人がいなくなると冷たい表情でロキがカリナに尋ねた。
「あんまり強くはないと思う……けど目線や立ち振舞は相当出来る。不思議なタイプ……どう?」
「私も同じ意見かな。それにあの加護はかなり強いよ。私の魔法防壁も全然意味なかったくらいに」
「魔術師側が黙ってないでしょうね」
カリナは溜息をつくと、ロキは嬉しそうに笑う。
「いいじゃん、そろそろ決着つけたいし。あの子には悪いけど火種になってもらわなきゃ」
奏らないところで不穏な思惑が動きはじめ事を、奏は知る由もなかった。
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