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王女と命懸けの嘘

「ルドルフ、今回もどうせ……あら、もしかして本当に成功したの?」


気だるそうな声とともに、真っ白なドレスに所々に赤のワンポイントが入ったドレスを着た20歳前位の女の子が入ってきた。


目はジト目に近い感じで、大きなクマがあり灰色のショートボブはアホ毛がちらほらと飛び出している。

全体的にだらしない雰囲気があるが、顔のそれぞれのパーツが良く美女であるのは違いなかった。


「エリステラ王女……1000回目にして、やっと女性の勇者の召喚に成功しました。見た目も美しく王妃からも気に入られること間違いないでしょう」


「顔は……確かにまぁまぁね。少し化粧と服が独特なのが気になるけど……身長は私より高いし、体の線は細いけど筋肉はついてそう……」


エリステラは奏の周りを歩きながら、観察している。奏もそれに合わせ、潤んだ瞳で真っすぐ前をみることだけに徹していた。


「成功といっていいんじゃない?あなた、名前は?」


エリステラが奏の前に立つと、握手を求めてきた。奏はゆっくりと握手を返し、軽く咳払いをして挨拶をする。元から声はかなり高い方だ。誤魔化しきれるはず……


「エリステラ王女、お会いできて光栄です。私の名前は南雲奏なぐもかなでです。王女の為に勇者としてお役に立てることを嬉しく思いますわ」


奏は最後に笑いかけるが、エリステラは笑わずに奏をジッと見つめ返す。その瞳は全てを見透かしてくるような威圧感があり奏は息をのんだ。


(潤んだ瞳で普段よりも2〜3トーン声を高く話した……バレていないはずだ……)


「ふーん……“今までの”よりは、かなりマシね。いいわ、私の試験は合格。後は、お母様に会わせましょう」


「それは良かった!奏、後は王妃様から勇者の洗礼を受ければお主は晴れて勇者じゃ!」


ルドルフは嬉しそうに小躍りを踊りながら、奏の肩を軽く叩く。

しかし、奏は王女の言葉が気になりそれどころではなかった。


(“今までの”ってどういう意味だ……今までは男しか召喚されていないはず……俺を女だと思っていたらそんな表現になるか?もしかしてバレて……)


「奏、時間がないからさっさと移動するわよ。ルドルフは疲れたでしょうから休んでいいわ。私が連れて行くから」


奏は考えている途中で、歩き始めてるエリステラに呼ばれ慌ててついていく。


部屋を出ていった二人の背中を見つめながら、一人取り残されたルドルフは深く溜息をついた。


「“今までの”か……一体エリステラ様は何を考えているのやら……上手くいくといいんじゃが……」






エリステラの後に続きながら、奏は不安そうに歩いていた。

廊下は西洋風のレンガつくりで床は赤い絨毯が引かれている。


「奏、あなたがなんで召喚されたか聞いてる?」


エリステラが後ろを振り返らず、奏に話しかけてきた。なるべく声のトーンを上げて奏は答える。


「勇者として……しか聞いていませんが」


「そう……簡単に説明すると魔王の討伐をしてもらうわ。我が国『ローゼンハイド』は長い間、魔王軍と戦い続けている……どちらが負けを認めて奴隷になるまで続く戦いを……」


(やっぱりそうきたか……異世界召喚なんて魔王を倒すか、ご褒美スローライフのどちらかだしな……)


奏はあえてエリステラに何も返さず、情報を集める事に集中することにした。


「本当に……毎日毎日殺し合いよ。私のドレスを見れば分かると思うけど……だからさっさと強力な力を持っている勇者に魔王を殺してもらって終わらせたいの」


(ま……まじかよ……赤いまだら模様かと思ったけど、返り血かよ!)


奏が模様だと思っていたエリステラのドレスは返り血を浴びて赤く染まった本来は白いドレスだった。


(おいおいおい、俺男だぞ?この世界のことわりだと魔王どころか下っ端にも勝てないじゃ……


「あの……ルドルフから少し聞いたんですが、男がこの世界は弱いって……」


「弱いわね。すぐ死ぬから殆ど存在してないし。商人と……一部の男がいるだけでこの世界は殆ど女性だけで構成されているわ。

ちなみにあなた以外の勇者は、次の勇者が召喚できなくなるから全員処刑かすぐに戦場に出て死んでるから」


奏の額から大量の冷や汗が流れ落ちる。

見た目は誤魔化せても実力は無理だ……


「ちなみに洗礼はお母様と戦ってもらう。お母様はこの国で一番の実力者だから、倒すことで勇者として認められる仕組みよ」


「ちょっ、ちょっと待って下さい!私魔法も、剣も使えませんよ!?いきなり戦うなんて無理です!戦闘技術を身につける時間を下さい」


「そこは心配しないで。勇者ならスキルで剣技は体が覚えているはずだし、魔法は洗礼では使わない事になっているから」


奏は慌てて、時間稼ぎをしたが全く通用しなかった。すると、エリステラは振り返り奏の目を真っすぐ見つめる。


「奏、私はあなたが勇者になってくれないと困るの。これ以上は流石に私だけでは魔王軍を抑えきれない。戦闘の前に、何をしてもいいから必ずお母様を倒して」


「戦闘の前にって、やっぱり私が……」


「部屋に着いたわ、行くわよ」


奏の言葉を遮り、エリステラは大きな白い扉を開けた。

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