女装男子、男が死にゆく異世界へ
「キタキタキタキター!1000回目にしてキタァァァァァ!」
目の前のローブを着たジジィがいきなり歓喜していた。長い髭にコスプレみたいな魔術師風の格好をしているジジイだった。
(……一体どういう状況だ?俺はさっきまで池袋で買い物をしていたはずだ。名前は南雲奏、趣味はゴジック系の女装……しっかり自分は認識出来ているな……)
辺りを見渡すと豪華な装飾で飾られた、真っ赤な絨毯がひかれている部屋に居ることが分かった。
「やっとじゃ!やっと女の勇者の召喚に成功したわい!これ以上失敗したら、まじで殺されるとこじゃった……」
ジジイが半泣きで、俺の手を掴みブンブンと振り回す。
いきなりの違う場面、知らない異国風の建物……
現実味はないが、奏にはこの状況に思い当たる現象が一つだけあった。
「あのー……もしかして俺、異世界召喚とかされてます?」
奏は恐る恐るジジイに聞いてみる。
「したぞい?わしが召喚したからな!……ところで、今“俺”っていわなかったか?それに声も女にしては少し低い気がするんじゃが……」
「したぞい?じゃねーよ!なんでお前らはアニメでも漫画でも勝手に召喚してドヤ顔してんだ!ぶち殺されてぇのか!」
あっさり異世界召喚を認めたジジイは、何故か急に冷や汗をかき出している。
「待て待て待て……お前さん、男じゃないよな?」
俺の発言を聞いたジジイは更に滝の様に汗を流しながら、震えだした。
「あ?こういう格好してるけど、れっきとした男だ!何か文句あんのか?さっさと元の世界に帰せ」
奏はジジイの胸ぐらを掴み、顔を近づけ睨見つける。確かに俺は今ゴリゴリのゴスロリ服、バキバキなヤンデレメイクに黒ロング+ピンクメッシュのウィッグをしているが、あくまで趣味だ。
性別は男以外のなにものでもない。
「終わった……姫様に殺される……」
ジジイが膝から崩れ落ち、今度は悔しそうに泣き出した。
「な、なんだよいきなり……全然意味が分からないんだけど……」
奏は状況が全く掴めず、戸惑っていると大きな鐘の音が響き渡った。
「12時の合図か……もうすぐ姫様がここに来て、わしも、お前も仲良く打首の刑じゃ……おしまいじゃよ……」
「はぁ!?意味分かんねぇよ!なんで勇者として勝手に異世界召喚されて、いきなり打首なんだよ!?ジジイ……ちゃんと説明しないと、俺がお前の首へし折るぞ?」
「言葉通りの意味じゃよ。男の勇者なんぞ弱すぎて話にならんからな。基本的にこの世界では女が強く、男は弱い。お前さんも運が悪かったな」
「運が悪かったなじゃねぇよ……そんな糞みたいな理由で勝手に殺されてたまるか……」
奏はへたり込んでいるジジイに詰め寄り、笑顔でまた再び胸ぐらを掴んだ。
「ジジイ……お前も死にたくはないだろう?幸い、俺は自分で言うのも何だが……俺はめちゃくちゃに可愛い。俺は今から女だ、意味は分かるよな?」
「そんなの通用するわけないじゃろ!見た目はごまかせても強さでバレるわい!」
ジジイは呆れながら鼻で笑うが、奏は構わずジジイに頭突を食らわせると、血管を浮き立たせながら更に笑顔で顔を近づける。
「通用するかしないかじゃねぇんだよ……今を乗り切る事が最優先だ。お前に選択肢はない。俺に合わせないなら……本当に首をへし折るぞ?」
「わ、わかったから手を離してくれ!本当に窒息しちまう!」
鼻血を出しながら苦しそうなジジイに気付き、奏は手を離した。
「ジジイ、名前は?」
「ルドルフじゃ……本当にどうなっても知らんからな!恐らく後数分で今回の召喚の結果を聞きに来る。どうなっても知らんからな!」
「何ともならなかったら、その時はその時だ……とにかく何とかして誤魔化しきるぞ」
奏の額に冷や汗が流れる。勢いで話を進めてはいるが、正直今の状況が何処かで夢なんじゃないかとさえ思っている。
けれど、本当に現実だったとしたら……死ぬか生きるかの大事な局面だ。ミスは許されない。
奏は緊張した面持ちで、部屋のドアを見つめる。
すると、ドタバタと足音が近づいてくるのがわかった。
「ふわぁー……っと」
「この状況であくびをするとは……お主イカれとるのか?」
「ルドルフ……お前は馬鹿か。わざと涙目にしてか弱さを演じてんだよ……」
ニヤリと笑う奏の額に、冷や汗が流れると同時に扉が勢いよく開いた。
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