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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あなたの頭が悪いのは、あなたのせいであって私のせいではありません。【婚約破棄編】

作者: 星森


「ローズハート・ウィルネス!

ここへ出てこい!」


 1階でセルジュ王子が騒いでいます。ソネット男爵令嬢と、取り巻き2人も一緒です。



 本日は、貴族学園の卒業パーティー。


 わたくしは2年前に退学しましたので無関係ですが、招待状が来たので出席しました。




 わたくしは手摺に寄りかかり、階下の騒ぎを眺めます。


「あっ! いたぞ、あそこだ!」


 セルジュ王子が、わたくしに気付き指差してきました。


 すると赤髪の騎士団長子息カルシオンが、こちらに向かって来ます。


 目の前まで来ると「殿下が、お呼びだ! 来い!」と、あろうことかわたくしの腕を掴もうとしました。


 ──刹那。控えていた護衛が進み出て、賊を斬り付けました。


 叫び声やら悲鳴やら血やらで、パーティーは一時騒然としましたが、カルシオンが医務室に運ばれて行くと再開されました。


 殿方は戦や狩り、処刑なんかで血を観る機会があるので、それほど動じていません。



 しばらくすると、甲冑を纏い槍と盾を持った3名が近付いてきました。


「ローズハート・ウィルネス公爵令嬢!

今この時をもって、お前との婚約を破棄する!


そして!!

これからは、このメリアン・ソネット男爵令嬢と婚約を結び直す!


ローズハートは、俺がメリアンと仲がいいのに嫉妬して、メリアンに様々な嫌がらせをしたそうだな!

貴様のような悪女とは結婚できない!」


 真ん中がセルジュ王子のようです。


 顔が見えません。


 右の小さいのがソネット男爵令嬢でしょう。


「『嫌がらせ』とは何でしょう?」


「教科書を破いたり、足をかけて転ばせたり、階段で突き飛ばしたり──きゃあああああっ」


 最後まで言う前に蹴りました。


 お約束です。ごめん遊ばせ。


「「メリアン!」」


 階段下へ転げ落ちて行ったソネット男爵令嬢(仮)を仲間たちが追います。



「メリアン、しっかりしろ!

おい、誰か早く医者を!」


 セルジュ王子は兜も武器も放り投げて、ソネット男爵令嬢を抱えます。


 わたくしは近付いて尋ねました。


「それで、いつです?」


「は?」


「わたくしが『嫌がらせした』のは具体的に何年何月何日何時何分です?

あなたに『ロイヤルルームを使うな』と言われて退学した前ですか? 後ですか?」


「今それ?! メリアンがこんな状態で?!

お、おい! この女を拘束しろ! 牢に連れていけ」


 衛兵はいるものの、誰も動かない。


「何している? 早くしろ!」


「無理ですわ」


「何?」


「わたくしルドベキア帝国の貴賓ですもの。

それに、その女は平民です。

ソネット男爵に爵位を譲らせたので」


「……平民? 貴賓?」


「わたくしルドベキア帝国皇子殿下の婚約者になりましたの」

と言うと、新しいパートナーであるマーティンが、わたくしの肩を抱きます。


 ずっと隣にいてくれました。


 彼は、ラベンダー色の髪と瞳の知的な美丈夫です。


 セルジュも金髪碧眼の美男子ですが、マーティンには適いません。


「バカな……さっき婚約破棄したばかりなのに……二重契約だろ、それ!」


「違います。殿下との婚約は、1年も前に解消しています。

殿下が行動するまで伏せていたのです」


「何のために?!」


「殿下が自滅するのを、多く者が望んでいたからです。

王侯貴族は基本的に、長男が後継になるのが一般的です。

第2王子殿下が立太子するのに、あなたが邪魔だったのです。

今回の騒ぎで王位継承権はなくなるでしょう」


「俺は弟の邪魔するつもりは……」


「王兄の存在そのものが邪魔です」





 この後、王子メンバーは審査にかけられ失脚──するはずでした。





 王侯貴族の、それも高位の人間ばかりバタバタ死んでいく事件が起きたのです。


 というのも、当時サウウェル国は香辛料を大量に使う料理が流行っていたのですが、その中に過剰摂取を続けると突然死する成分が含まれていました。


 輸入した高価な香辛料を惜しみ無く使えるのは「富の象徴、特権階級の嗜み」ということで、それはもう皆ドバドバドバドバかけていたのです。



 そうして幼児と高齢者とセルジュを除いた王族が全滅してしまいました。


 やはりバカは風邪ひかないと申します。特殊な肉体構造しているのでしょうね。必然的にセルジュは王に。


 瞬間、我が家は王家から離反いたしました。


 領地は万一に備えて売る算段をしておりましたので、恙無く売却することができました。


 国内に居ては危険ですので一族は、わたくしの嫁ぎ先ルドベキア帝国に亡命しました。



 セルジュの性格をわかっている他の貴族も、我が家に続いて離反していきました。


 更に新王セルジュはメリアンを強引に正妃にし、それでは立ち行かないため優秀な側妃を迎えると公表しました。


 が、多くの反発に遭い、その座は空席のままです。


 そして横暴な処罰、杜撰な失策を繰り返した結果、即位から僅か3年で国土は半分になってしまいました。








「ローズハート! 全ておま──ローズハートのせいだ!」


 15歳の頃「お前」呼ばわりしてきたセルジュをコテンパンにしたので、トラウマになっているようです。



 ここはルドベキア帝国城の広間です。


 同盟国首脳会議の後、各国の代表を歓待するパーティーを開きました。


 サウウェル国は今回の召集から外すかどうか悩みましたが、最近は皇子妃としての生活にも慣れ余裕があるので、わたくしも出席して遊ぶことにしました。



「一体何が、わたくしのせいなのです?」


「ウィルネス(ローズハートの父)が離反したから他の貴族も続いたんだ。

今から戻れ。そうすれば全て元通りだ!」


 元通りになるわけないのですが。


「あの時、離反しなければ冤罪にかけて我が一族を処刑していたでしょう」


「ぐ、う、王族に刃向かう、お、ローズハートが悪いのだ。

未来の王妃であったメリアンまで蹴って」


 未来の王妃など結果論です。


 言ってることが無茶苦茶です。


「離れず処刑されていれば、今と同じ結果になっていたではありませんか」


「違う! ウィルネス家が離反しなければ他も続かなかった。

一臣下が死ぬのと離脱するのとは違う」


「それで? ウィルネス家がサウウェル国に戻って処刑されれば良いと仰るの?」


「処刑はしない。ローズハートを側室にする。

メリアンと結婚して、すぐ側妃にすると通達しただろう。

2年も返事を怠るとは、お、ローズハートは筆無精か?」


「は?」


 思わず低い声が出てしまいました。


 確かに変な手紙は届きましたが、不吉なのでシスターに清めて貰ってから燃やしました。


「勿論ウィルネスも公爵に戻してやる。こっちでは、たかが伯爵なのだろう?」


 えへん、と言わんばかりにふんぞり返っています。


 どうしたら死んでくれるのでしょう?


「えっと……まず、わたくしが既婚者だということは、ご存知?」


 1+1=2だと理解できるかしら?


「俺が新聞も読めないと思ってるのか?」


 宗主国の皇族の婚姻を、新聞で知ったですって?


 諜報部はどうしたの?


「他国の皇子妃を娶るなどと言えば開戦すると、わからないのですか?」


「何を言っている?

ローズハートは元々俺の婚約者だろう。

盗ったのは、この国の皇子だ」


「記憶障害のようなので説明します。

陛下は学園の卒業パーティーで、わたくしに婚約破棄を突きつけました。

そして冤罪をかけ処罰しようとしました」


「その前から浮気していたではないか。

これは略奪だぞ。

従ってローズハートは、俺の元に戻るべきだ。

お飾りなどにせず、きちんと初夜もしてやる。

『愛することはない』などとは言わない。

どうだ、嬉しいだろ?」


 あまりに無茶苦茶すぎて、頭痛がしてきました。


 この腕の鳥肌は、どうしたことでしょう?


 同じ言語圏なのですが、近くに通訳がいないか探しました。


 いませんでした。


 というか誰も目を合わせてくれません。関わりたくないようです。



「『メリアン妃では王妃として不足だ』と周囲に言われたでしょう?」


 誰も反対しなかったはずありません。


 結局は自分たちだけでは立ち行かなくなったので、わたくしに助けを求めているのです。


「真実の愛を貫いて何が悪い。

難しい面倒なことは、ローズハートのような頭デッカチでイケ好かない女がやればいい。ついでに俺の分の仕事もな。

メリアンは俺を癒すのに必要だ」


「結果を出さなければ働いたことにはなりません。

働いてもいないのに、なぜ褒美(癒し)を貰えて当然なのですか? 

それは、ただの我が儘です。

義務を果たさず権利だけ主張するのは、税金泥棒を通り越して強盗です」


 話を聞いてあげた、わたくしが間違っていました。


「個人的な話をするのは、これまでとします。

今後は皇子妃と御呼びください。

父も同様です。ウィルネス伯爵と。

それでは失礼」


 わたくしは、お辞儀もせずに立ち去ろうとしました。


 すると肩を掴んできたので、その手を捻り上げました。


「アデデデデ、おい!!」


 護身術は身に付けています。


 離してやると涙目で睨んできます。


「人が下手に出れば付け上がりやがって!

お前は俺のものなんだから、黙って従えばいいんだ!

さっさと帰るぞ!」

と、懲りずに手首を掴んできます。


「そこまでだ」

と、夫マーティンがやってきてセルジュから、わたくしを引き離しました。


「サウウェル国には、友好条約違反で連盟国から外れてもらう」


「そ、そんなっ」


「俺の妻を連れ帰るなどと公衆の面前で宣言して、ただで済むわけないだろう。これは加盟国の総意だ」


「その女は元々俺のだと言ってるだろう!

こんなのは横暴だ!」


「わたくしは貴方のものでも婚約者でも、母親でも友達でもありません。

貴方とわたくしの関係は、名誉毀損を含む冤罪事件の加害者と被害者です」


「だったら何だ?!

それでも幼馴染みはないか!

我が国が困窮しているのだ。助けるべきだ。祖国だろう」


 今度は泣き落としでしょうか?


「幼馴染み? 政略上で関わりを持っていただけです。

困窮しているのは国ではなく、あなた個人です。

従って助ける義理はありません」


「お前に情はないのか?! 冷血め!」


「ありましたが、あなたが壊しました。

あなたが不貞からの逆ギレ濡れ衣断罪などせず円満に婚約を解消し、早くからソネット男爵令嬢に王妃教育を受けさせれば、こうはならなかったのです。

ソネット男爵令嬢を含めた全ての人に、不誠実な対応をした結果が今なのです」


「しかしっ」


「貴方の頭が悪いのは、貴方と貴方の親のせいであって、わたくしのせいではないので、もう迷惑かけないでください」


「今の貴国と関わりたい国などない。当然の結果だ」

と、マーティンがわたくしの肩を抱き寄せました。


 わたくしは彼と結婚できて幸せです。


 それを見たセルジュは、もう何も言いませんでした。バカには理屈より感情に訴える方が効くようです。


 どこから湧いてきたのかメリアン妃が来て「あなたのせいよ」と喚いていましたが、セキュリティに摘まみ出されました。


 相変わらず見る人の目にダメージを与えるドレスを着ていました。


 誰が作っているのか、今度調べてみましょう。


 ええ、暇潰しです。









 それから間もなくしてセルジュは王位を、すっかり禿げ上がってしまった宰相ポニーテール侯爵に簒奪されました。


 髪の毛が全てなくなる前にセルジュを倒さなければ、と思い詰めたそうです。


 ポニーテール陛下は真面目な方なので、これからサウウェル国は良くなるでしょう。





 セルジュとメリアンは、元王族園というアミューズメント・パークで暮らすことになりました。


 失脚したり滅亡した国の王族を集めるのが好きな大富豪が造ったもので、檻に入れられた元王族を好きに鑑賞することができます。



 わたくしも上の子が5歳になった記念に、家族4人で足を運びました。


 原始人のようになったセルジュを発見したので、南の大陸から輸入したバナナという果物を格子の間から差し入れると喜んでいました。が、職員さんに「勝手に餌を与えないでください」と叱られてしまいました。


 トホホです。


 セルジュとメリアンは、見られないと興奮しない性癖になったそうです。


 元王族園は、深夜も入場できるシステムなのです。大人だけですが。



 わたくしは子供達に「将来こんなふうになってはいけませんよ」と注意しました。

 2人は神妙に頷きました。











□婚約破棄編&シリーズ完結□















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王道の婚約破棄物に辛めのスパイス混ぜた感じの面白さで文章も読みやすくてよいな…と思っていたらオチが衝撃ですべてを持っていかれました
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