プロローグ
魔法は、とうの昔に滅びた。
かつて空を翔け、山を割り、星を導いたとされる“奇跡の力”は、
いまや子どもたちが眠る前に聞かされるだけの作り話になった。
人々は今、「アルマ」と呼ばれる魔道具にすべてを託して生きている。
炎を起こす、風を呼ぶ、水を湧かす、大地を耕す。
かつて魔法が担っていた役割は、すべてアルマが果たすようになった。
そして、いつしか誰もが疑わなくなった。
「魔法なんて、最初から存在しなかったんだ」と。
けれども、それは本当に“自然な進化”だったのだろうか。
200年前、魔法が廃れ始めた頃、
人間の体は、魔力の通り道を閉ざすように変わっていったという。
時が、世界が、国が、人が、システムが、魔法を“忘れた”のだ。
その代わり、人々は知能を高め、技術を磨き、
魔法に頼らない便利さの中に安住していった。
でも——
ぼくは、その流れに抗うように生まれた。
名はフォート。
ぼくの中には、確かに“それ”があった。
何かを見たとき、何かに触れたとき、
ぼくには色が見える。声が聞こえる。震えが伝わってくる。
この国では失われたはずの“魔法”の痕跡が。
それが何なのか、誰も教えてくれない。
でも、ぼくだけが知っている。ぼくだけが、感じている。
——魔法は、まだ死んでいない。
これは、魔法を知らない国で、
生きる魔法そのものとなった少年の戦いの記録だ。