8話・冒険者ギルドにて1
※ここからの物語はカシーム視点になります。
魔導具屋での賑やかな朝が終わり、宿屋で睡眠をしっかりととった、やっぱりベッドはいいよね、マットは硬いけど、地面よりずっとましだからね。
予定通りに朝食を食べる、昨日の夜も感じたが、この宿屋&食事処《星見の丘》のご飯は最高に美味しい、パンがふわふわでスープにお肉が入ってるなんて朝から豪華だなって思った。
商業の街をたってから既に9日が過ぎている、冒険者ギルドに戻る頃には10日目くらいになるんだろうなぁ、こんなに離れる予定はなかったんだけど、本当に冒険者になったんだなって感じるよね。
しかもさ、オレの横にはアバスがいてくれてる。最初は本当にびっくりしたけど、数日の間にいっぱい話をしたり、オレの知らない経験や冒険してきた事を教えてくれる存在なんだぜ。
「カシーム、水場が見えてきたぞ、休憩しよう」
「うん、やっと休憩だね。アバスは鎧だから砂の上は大変じゃないの?」
「我は足にも砂鉄などを集めて地面から僅かに浮かしながら移動しているからな」
「ふーん、それは……すご……うん……」
寝たはずだけど、やっぱり夜に移動するのは疲れるよ、眠気がやばいなぁ……帰ったら婆ちゃんに色々話したいなぁ……
実を言えば、オレには家族ってやつがいない、いや、居ない訳じゃないんだけど、両親はオレが小さい時に旅に出やがったんだ。
だから、未だに顔も分からない、オレを「成人までは仕方なく面倒見る」と、言ってくれた婆ちゃんも「成人したなら自立しな」と言われて、何とか期限を半年後まで伸ばして貰ってる感じだった。
でも、冒険者ランクがFランクにあがった日に話をしたら……
「一人前の冒険者になったんだ、もう面倒はみないし、カシームに面倒を見てもらう気もない、自分の好きに生きなさい」っと言われた。
オレは婆ちゃんが少し捻くれた性格なのは何となく理解してるけど、やっぱり優しいと思うんだよね、だからアバスを紹介して驚くだろうけど、ちゃんと安心させてあげたいんだよね。
「おい、カシーム、そろそろ砂漠を抜けるぞ、起きろ」
気づいたら、アバスの背中に背負われた状態で砂漠を抜けていた。
「ごめんアバス、オレ寝ちゃって」
「構わないぞ、まだまだ我から見たらお子様なのだから無理をするな……悪いが砂漠を抜けたが鎧に熱が集まれば高温になるからな、太陽が高くなる前に起こさせてもらった」
アバスは本当に優しいと思う、最初に出会った時は魔物だと思ったし、喋る袋なんてさ、普通なら怖くない?
知れば知るほど、アバスは賢くて強いんだと感じてしまう、冒険者としては守られてばかりは居られないからさアバスの本当の相方になる為に頑張るんだ。
商業の街に無事帰還したオレ達は最初に婆ちゃんの家に向かう事にした。
予定より長く離れてしまったから、ちゃんと無事を伝えないとね。
《カムロ》の入口で門番のオッサンと顔を合わせた時は少し驚かれた。そして、予想外の報告を聞かされる事になる……
「おお! カシームじゃないか……お前、生きてたのか! 良かった……俺はてっきりお前も死んじまったと思ってたぞ」
「いや、夜中に《カムロ》を出たからさ、砂漠を移動するなら、その方がいいってギルドで聞いたからさ」
「……そうだったのか、それなら、伝えないといけねぇ事がある……言いづらいんだが」
少し、俯くオッサンにオレは違和感を感じた、普段明るくて元気な印象しかないオッサンがかなり気まずそうに見えるからだ。
オッサンは話してくれた。貧困街で税金を払えなくなった若い男が仲間を集めて強盗事件を起こした事、その際に騎士団と揉めた事実、騎士団は若い男達を即座に捕え、その場で処刑された事、それから直ぐに貧困街に対して騎士団の調査が開始され、それにより、嫌気が差した貧困街の住民が《カムロ》を旅立ったのだと、そのリーダーがオレの婆ちゃんだった事、その結果……
「その結果、お前の家が無くなったんだわ……てっきり、一緒に出てったと思ってたんだよな」
「ハァァァァァ! 婆ちゃんなにやってんだよ!」
オレは本当にびっくりした、実際に目玉が飛び出るかと思ったし、なんなら夢なら覚めて欲しいと思った、でも、現実だった。
貧困街にあった筈の家は既にロープがはられ、入口の扉には空き家と札が掛けられている。
「マジかよ、婆ちゃん……それはないだろう……」
そんな呟きにアバスがオレの肩に優しく手を置いた。
「とりあえず、冒険者ギルドを目指そう、どちらにしても、換金しないとなんも始まらないだろうしな」
こういう時、アバスは本当に頼りになるオレだけだと多分、混乱して何からしたらいいか分からなくなってしまっただろうから。
冒険者ギルドに辿り着く前にアバスから一つ提案された事がある。
ギルド付近の人気のない裏路地に呼ばれ、周りに誰も居ない事を確認するとアバスが耳元で喋りだした。
「ダンジョンの報告はやめておかないか?」と、オレにだけ聞こえるくらいの本当に小さな声で囁かれた。
予想していなかった提案にオレは首を傾げていた。
「なんでだよ! だってさダ──うぅぅ」
咄嗟に口を塞がれた、正直ビックリしたが、アバスはオレがダンジョンっと言う前にしっかりと口を塞いだんだ。
「静かに、何処で聞かれてるか分からないんだ、いいか、カシーム……今の状況でギルドに報告すれば、場所がばれて、人が少なからず向かうだろう、そうなったら今回のような報酬は期待できなくなるぞ、情報は武器であり生命線だ。つまり、生命線を失えば冒険者は生きて行けなくなるぞ?」
オレは家が無くなり、婆ちゃんが消え、手元にある情報のみが生命線だと言われて改めて自分がヤバいと自覚させられた……
「わかったか、だから、元々受けてたアルル草の報告だけして、あとは手に入れた魔物からのドロップ品から幾つかを売るのがよいだろうな」
すべてを売れば、無駄に詮索される可能性がある為、小分けで売るのがいいだろうと言う話だろう、それに悪目立ちは良い結果にならないのは冒険者あるあるなのだ。
その為、ダンジョンドロップ品は、アルル草を五本のみにして、ギリギリ、クエストクリアとしてもらい、その際に倒したと言い灰色山羊の角などを数本出すことに決めた。