キチチルトン・ミリトン視点
朝早くから珍しく店の扉が開かれた……カランッと鳴る鈴の音色に私はそっと入口に視線を向けた。
入口から入ってきたのは久しぶりに見る懐かしい姿だった……でも、なんか違う感じがする。
やっぱり違った、鎧装備は懐かしい姿だったけど、中身が違う。
「久しいな、キチチルトン、レイナ、今回は買取りをしてもらいたくてな」
それでも、知り合いが来たのは少し嬉しい……ただ、ずっと一緒に居たはずの片割れが代わってる。
「ふーん、まぁいいけどさ、アンタの相棒はどうしたん?」
鎧の本来の持ち主の事が気になり、気づいたら質問を投げ掛けていた。
その結果は何となくわかってた。だって人族ってさ、短命で簡単に死んじゃうんだもん……ずっと色んな奴を見てきたから、仕方ないってわかってる。
でも、新しい相方が出来てたのは良かったと思うんだよね、ずっとさ……ダンジョンで一人、誰かが来るのをまってたんだもんね。
新しい子の名前は、カシームって名乗ってて、言いづらすぎるから、とりあえずカム君にした。
カシームってなんか、小さくて弱々しく見えるし、どこから見ても小さな子犬みたいに見えるんだよね?
でも、持ち込んで来たアイテムはかなりいい感じだったんだよね、本当にカム君が倒したのか疑いたくなっちゃう、私は嘘を見抜くのが得意だからね。
とりあえず、ぼったくりとかはしないであげたわ。
え?
なんでかって、それはまた会える気がするし、お得意様になったら私が儲かるじゃん。
世の中は世知辛いからね、お金をケチってぼったくるといつか、私にも返ってくるじゃん? それはダルいんだよね。
ただ、アイツってば、人の話を聞かないの!
なんか、はじめての大金を手に入れたってびっくりしてたけど、冒険者なら堂々としないと足元をすくわれちゃうじゃないの!
だから、ビシッと言ってやったわ! まぁ優しい私は一回は許してあげる事にしたの、次に話を聞かなかったら、くるぶしをハンマーで全力強打してつま先立ちの刑にしてやるんだから、ふん!
でも、ラムコーンのレイナがアイツを気に入ったみたいだから、つま先立ちの刑はお預けになるかな?
私の味方をしないでカム君の味方をするんだもん!
守護獣じゃなかったら、角をへし折ってただのラムにしてやろうかと思ったわ……まあ、しないんだけどね。
私からすれば、いい暇つぶしになったし、久しぶりの顔馴染みの姿は嬉しかったしね。
だから、めんどくさいけど、渡す金額を金貨14枚と銀貨20枚に両替もしてあげたのよ。
普段、金貨なんか持ち慣れてないみたいだから、銀貨がある方が便利だろうし、何より落ち着くだろうからね。
店を出る際に手を振るレイナにつられて私も軽く手を振ったのは、なんか照れくさい感じがしたわ。
でも、なんか悪くない感じ……
いつもの二人きりの店内、私の頭によじ登って、一息つくレイナ、植木鉢がたまに当たるから痛いんだけど、言うと拗ねるから言わない。
「レイナ、アンタあんなのが好みなの?」
何となく聞いてみたくなる。
「うーん、えっとね?」
「早く答えなさいよ」
「またこんどね!」
「はぁ! はいはい、レイナの今度はいつになるか分からないから、もういいわ」
「でも、なんかまた会いたいよ」
そんな答えに私は少し笑っている。
「さて、買い取ったマジックポーションを並べないと」
「いくらにするの?」
「え? マジックポーションなら一つ、8000シルバかな、身代わりのリングは20000シルバでも売れるはずだし」
「え! ぼったくりだ!」
「違うからね! 利益ださないとダメなのわかる? それにギルドなんかだともっと買い叩かれるだろうから、また来てくれるように高く買い取ってるし」
「ムムムッ」
レイナは納得してないみたいだけど、買取り額は間違いなく高くしてあげた。そうすれば、他で売るよりうちに来るはずだし、まぁ投資みたいなものね。
「大丈夫だから、絶対にまた来るはずだよ」
「うーん、わかった!」
「素直ね?」
「だって、そんな気する!」
賑やかな店ってなんか久々だけど、悪くないな、とりあえず今日はやる気だすかな……生きてまた来てくれたら次はお茶くらい出してあげるかな。
カム君か、頼りなさそうだけど、アバスもいるし大丈夫だと思いたいわね。
商業の街か、久々に出向いてみようかな……なんてね。