7話・魔導具屋の二人
ダンジョンを出て4日、鉱山都市へと無事に戻ったのは早朝であった。
朝市が賑わいを見せる街道を歩いていると不思議と視線が向けられる。
朝の早い時間の朝市に黒い全身鎧というアバスが皆の視線を集めていた。
しかし、それ以上に大きな問題をカシームは抱えていた。
「シルバがない……お金が無いとなんも出来ないよ……どうしよーーー!」
所持金が既に殆どなく、休みなく歩き疲れていたカシームはその事実に絶望していた。
「どうしよう、また洞窟で寝るか、野宿で朝から寝るのか、流石にベッドで休みたいよ〜」
心身共に限界を迎えていたのは、この四日間は油断を許さない過酷なモノであったからだ。
ダンジョンを出てすぐに地上を目指して移動を開始した二人、アバスが以前に使った経路を覚えており、言われるがままに進んでいく。
予想はしていたが、道中には灰色山羊の他にブラックスパイダーや魔狼といった魔物達が群れをなして襲ってくる。
仮眠を取ろうと考えても、その度に襲撃されカシームはまともな睡眠を取れないまま四日間を過ごしていた。
マジックバックには灰色山羊の角やブラックスパイダーの鋼糸、魔狼の牙や毛皮などが山の様に入っており、その数と魔石が激戦であったことを物語っていた。
疲れ果てたカシームは宿屋に足を運び、財布の中身を確認してシルバが既に底をついている事実に気づいたのだ。
「ならば、換金したらどうだ? 少なくとも所持品を換金したら宿代なんて直ぐに何とかなるだろう」
そう語るとアバスは街中を案内するように歩き出す。
言われるがままについて行った先には《サンムーン》と看板が掲げられた店があり、アバスは店の前で足を止める。
商店街が立ち並ぶいっかくをぬけた先に存在する古めかしい見た目の店といえば、まだ聞こえはいいが、ボロボロの店舗に扉につけられた黒鳥の羽根飾り、どれもが不安を感じさせる物ばかりであった。
カランッと、扉につけられた鈴がなり、室内に入る。
室内は不思議な置物や薬草を干した物、本や変わった形のランプ、全てが珍しい物ばかりであった。
「客とか誰? こんな朝早くに来るとか、珍しいんだけど?」
少し生意気そうな若い女性の声が店内から聞こえる。
「お、懐かしい感じする、誰だっけ……アバ、あ! アバスだ。久しぶりじゃん」
警戒していたような声色が一瞬で明るいものへと変化し薄っすらと店内にあるカウンターに人影が姿を現していく。
全身、黒一色のドレス姿、可愛さを感じさせるように首には大きめのリボンをつけている。
顔は幼く、少し生意気そうな印象と喋る度にギザギザの歯が印象的といわざるおえない。
ピンク色のストレートな長い髪、頭には謎の小さな羊? のようなモノがつかまっている。
女性の名前は キチチルトン・ミリトン エルフ族と人間族のハーフであり、魔導具屋の女主人である。
頭に乗っているのはラムコーンのレイナという小さな羊で頭頂部に一角の角が生えている。つぶらな瞳でマイペースな雰囲気とお気に入りの植木鉢をズボンのように履いているのが印象的だ。
なんともミステリアスで不思議な雰囲気がある。
そんなラムコーンのレイナだが、立派な守護獣の一種であり、悪意がある者は店に入ることが出来なくなる、正式には店が認識出来なくなる結界を作り出している。
「久しいな、キチチルトン、レイナ、今回は買取りをしてもらいたくてな」
「ふーん、まぁいいけどさ、アンタの相棒はどうしたん?」
「ダンジョンで命を落とした……」
そこからダンジョンで起きた過去の出来事をアバスは説明し、カシームと出会った事を伝えた。
「ふーん……まぁ、人間は短命だからね、私はハーフでもエルフの血が濃いから、あんまり分からないけどさ、まぁ買取りはしてあげるよ。よろしくね、カム君」
説明を聞いた後、そう語り笑みを向けるキチチルトン。
「お願いします!」と、頭を下げてから、カシームはマジックポーションを10本、身代わりのリングを15個カウンターへと置く。
すべてを出さなかったのは、後に自分が使う事があるだろうという予想と、《カムロ》に戻った際に冒険者ギルドで説明する際にドロップアイテムが必要になるからであった。
キチチルトンは、直ぐに鑑定を終わらせると金貨16枚、16万シルバで買取ると提案してきたのだ。
・マジックポーションは一つ、4000シルバ
・身代わりのリングは一つ、8000シルバ
合計金額に驚き、目を丸くするカシームにキチチルトンは視線を向ける。
「こんな金額で驚いてんなし、カムく〜ん、君はもっと稼げるんだからさぁ、わかる? ねぇ、聞いてる〜?」
「あ、うん、びっくりして聞いてなかったです……」
「はぁ、くそが!……人の話を聞かないし〜どうせ、キチの話なんて聞きたくないよね〜ふんッだ! カム君なんか、くるぶしをむしって、ずっとつま先立ちの刑にしてやりたいくらいだよ!」
拗ねたような仕草と発言にあわてるカシームにキチの頭上から声がかけられる。
「気にすんな! 直ぐに機嫌なおるから!」
キチチルトンの頭から、ちょんっとカウンターに着地すると蹄をVの字のようにしてピースをしてみせるラムコーン。
「えっと、ラムコーン? ありがとう……」
カシームはポカンッとしながらもカウンターでキメ顔をするレイナに感謝する。
「うん、気にすんな!」
「ちょっとレイナ! アンタ、どっちの味方なんだよ! 私の味方するんじゃないの!」
「うんうん、またこんどね!」
「オマエら全員、くるぶしぶつけて、のたうち回ればいいし〜ふん!」
「まったくみんなお子ちゃまだな!」
レイナの一言にキチチルトンが声をあげる。
「一番小さいのはオマエだろぅが!」
「そうだね!」
ドヤ顔でそう語るラムコーンのレイナにキチチルトンは何故か笑い出す、結果的にその場が和やかになり、無事に買い取って貰う事ができた。
キチチルトンは「金貨だけだと不便だろうから、銀貨も混ぜてあげる。優しさに感謝しなさいよ、カム君」と言うと金貨14枚と銀貨20枚が改めてカシームに手渡されると魔導具屋を後にするのだった。
「カム君〜また来なよ! 」
「そだぞ、またこんどね〜」
手を振る二人に挨拶にカシーム達も手を振ると歩き出していく、街中を歩きながら終わりかけていた朝市で朝食を買い、腹を満たしながら最初に立ち寄った宿屋へと向かっていく。
宿屋に到着すると直ぐに空いている部屋を頼み、宿代を手渡す。
一泊、銀貨2枚と銅貨5枚、夜と旅立ち前の食事を二食つけるならさらに銅貨5枚と言われたので、カシームは銀貨3枚を手渡す。
こうして、無事に宿代を手に入れたカシームはアバスと共に宿屋のベッドで眠りについたのだった。
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